24.ホテルマン、一人になる ※一部支配人視点
「よし、あとはピザを焼くだけだな」
全ての料理を作り終えるとテーブルの上に並べていく。
全員で協力したからか、思ったよりも短時間でできた。
さすが牛島さんだ。
一家に一人牛島さんがいたら、どんなに生活が楽になるだろうか。
「はぁー、お風呂はまあまあね」
「広いだけで特別感を感じるからな」
お風呂から上がってきた二人を外に案内していく。
「本当に外で食べるのか」
「虫がいたらどうしてくれるの? 綺麗な肌が赤くなっちゃうわ」
女性の言葉に支配人は顔色を変える。
「おい、早く家の中で食べさせんか!」
「おほしさまは?」
外で食べているのは、外から見る星が綺麗だからだ。
この間のお客さんも、そこはすごく魅力的な点だったと教えてくれた。
「それはお前達の規順じゃないか! 全く使えないやつだな」
シルの話を聞こうともせずに、あいつらは文句を言い続けている。
「わかりました」
俺はせっかく並べた食事を部屋に戻していく。
ただ、牛島さんの料理に関しては好印象なのか、もしくはお腹が減っているのだろう。
料理を見て少しだけ文句は減っていた。
「あいつらブタか? 俺の農場にいるやつらよりしつけがなってないぞ?」
「へっ?」
牛島さんが手で合図をしているところを見ると、すでに食事に手をつけていた。
「シルのごはんは?」
この間一緒に食べたから、シルも一緒に食べようと思ったのだろう。
もちろん俺もそう思っていた。
ただ、こんな状況なら別の方が良さそうだ。
「今日はカップラーメンにするか?」
「わぁ!? ごちそうだ!」
シルはカップラーメンが嬉しいのか、急いで部屋からカップラーメンを取りに戻った。
「あいつら返した方が良いじゃないか?」
「俺もそう思いました。車で送っていきますね」
さすがにここまで勝手にやられたら、誰だって嫌になるだろう。
なぜあんなやつらが大人になれたのかいまだに疑問だ。
勝手におやつを食べようとするが、猫又のケトの方がしっかりしているからな。
すでにお土産分の食事は提供したからな。
泊まれないことを伝えようとしたら、なぜかカップラーメンを手に怒っているシルがそこにはいた。
「どうしたんだ?」
「うさぎいらないって!」
床には作ったばかりのラパン・ロティが落ちていた。
「客にうさぎを食べさせるってどういうことだ?」
「可愛いうさぎを食べるなんて非常識ね」
いやいや、お前らのやっていることの方が非常識だろ。
俺は落ちている料理を拾い台所のゴミ箱に持っていく。
沸々と湧き出る怒りに俺の限界は一瞬で超えていた。
俺に文句を言うならわかる。
だが、シルに文句を言って、みんなで作った料理を台無しにした。
それに理由が可愛いうさぎを食べるのが非常識だって?
ジビエ料理を知らないのか?
それに俺達だってちゃんと食材に感謝して、手を合わせてから食べている。
「よくお前らみたいな奴らがそんなこと言えるよな……」
「おい、客に向かって――」
「お前らはお客さんに向かって今まで何をしてきた! 注意されただけで怒鳴り散らして、せっかく遠くから来てくれた大事なお客さんを返しやがって!」
「俺達だって大事なお客様だろ! なぁ?」
「そうよ? 相変わらず東福さんは――」
「ふくをいじめるな!」
「呪うよ?」
段々とシルやケトからも怒りを感じている。
さっきまでネコを演じていたケトも立ち上がったからな。
「勝手に入ってきたのはお前らだ! 客でも神様でもない、ただの身勝手な虫ケラは今すぐ出ていけ!」
俺は近くにあった塩を手に取り投げつける。
こいつらは妖怪や幽霊でもない。
厄介な虫ケラだ。
よっぽど妖怪達の方が礼儀正しいからな。
「おい、何をするんだ!」
「家主が帰れって言うなら帰るべきだな。それに今日は民泊の営業日じゃないから、お客さんはお断りしているはずだぞ?」
牛島さんは支配人の腕を掴むと、そのまま玄関に放り投げた。
「シルちゃん達は荷物を持ってきて」
「うっしー、わかったよ!」
「オイラも許さない!」
シルとケトは部屋に戻って荷物を取りに行く。
「あなた達なによ!」
「それは俺達のセリフだ。あんな人と一緒になろうとするなんて……人間性を見直した良いと思いますよ」
俺達は荷物を持って玄関に向かう。
車を出そうとしたら、すでに玄関の前には車が止まっていた。
どうやらここまで車で来ていたのだろう。
「お前の施設には一切寄付しないからな!」
それだけ言って車で帰っていく。
あの人にはたくさんお世話になったし、養護施設への寄付も多かっただろう。
ちゃんと施設長の畑中さんに謝らないといけないな。
「施設の寄付がって言ってたけど大丈夫だったのか?」
「仕方ないですよ。その分俺が働きますからね」
「そうか……。何かあったらすぐに言えよ。今日はゆっくり休め」
牛島さんは優しく肩を叩いて家に帰っていく。
何もできなかった自分に涙が溢れてくる。
ただただ、シル達を傷つけてしまった後悔だけが押し寄せてくる。
「シルー!」
声をかけるがシルからの返事はない。
「ケトー!」
ケトも同様だ。
今までずっと一緒にいることが多かったのに、急に我が家が静かになる。
「嫌になっちゃったのかな……」
シルとケトは我が家が嫌になっていなくなってしまった。
♢
「あいつなんなんだ! 俺の恩を忘れたのか?」
俺は今まで世話をしていたやつの民泊に泊まりに行ってあげただけだ。
それがまさかのこんな始末になるとは思いもしなかった。
恩を仇で返すという言葉がこんなにしっくりと来る日はないだろう。
「SNSに悪評を書いておくね。うさぎを食べるなんて人間のすることじゃないわよね」
「ああ、君は間違えていないぞ」
「でも、あそこに行ったから幸運になったかしらね?」
「これでホテルも安泰だな」
俺達はホテルの立て直しをするために、幸運を呼んだと言われる民泊に行った。
住所はあいつがいた施設に聞いたらすぐにわかったからな。
これで俺達も今まで通りの働かない日々が過ごせる。
それを考えると笑みが止まらない。
「それにしてもこの辺不気味ね」
「田舎だから仕方ないだろう」
すでに周囲は暗くなり、明かりはハイビームになった車のヘッドライトだけだ。
「ゆるさない……」
突然聞こえてきた声に俺は隣にいる彼女を見る。
「なぁ、今何か言ったか?」
「ちょっと、不気味なこと言わないでよ!」
きっと周囲が暗いから、何かの音を変に勘違いしたのだろう。
「呪ってやる……」
「ねぇ、今何か言った?」
「いや、何も……」
急に背筋がゾクっとした。
俺は車のルームミラーで確認すると、月の光からチラッと映る少女の姿が目に入った。
「やばいやばい」
「急に何よ!」
俺は車のアクセルをさらに強く踏むと、急に何かが飛び出してきたような気がした。
――キィー!
急いでブレーキを踏む。
そこにはこちらをジッと見つめる黒猫がいた。
まるで何か不幸なことを伝えているような気がする。
「ゆるさない!」
「うわあああああああ!」
今度ははっきり聞こえる声に、俺は車から降りて走り出す。
「どうしたのよ!」
すぐ後ろから彼女が追いかけてくるが、怖くて振り向けない。
「おい、なんだこれ……」
「どうし……いやああああああ!」
突然現れた鳥居に足を止める。
ここを通った時にはなかったはずだ。
「呪うよ?」
だんだんとはっきり聞こえてくる声に、俺は逃げるように鳥居の中を潜っていく。
「待ってよ!」
あの宿屋は幸運の民泊じゃない。
人を不幸に陥れる民泊だった。
「ひひひ、おどろいていたね!」
「ふくを傷つけたから仕方ない!」
「そういえばシルはなんでひとりでそとにでれたのかな?」
「じゃーん! おまもりをもってきた!」
「さすがだね!」
「じゃあ、かえろうか。おなかすいたもんね」
「まだ食べてなかったね」
「ねね……シルたち、おうちにどうやってかえるの?」
「はぁ!?」
「ケトー!」
「にゃああああああああああ!」
山の中で響くシルとケトの叫び声が、さらにあいつらを鳥居の中に走らせたのを本人達は知らないだろう。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^)ジィー




