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2.ホテルマン、家には誰かいる……

「本当にここで家賃三万円って良いのか?」


 目の前には一際大きなログハウスがあった。


 正確にいえば周囲に建物がないため、大きなログハウスに見えるのだろうか。


 日本家屋ではないのは、持ち主が別荘として使いたかったのだろう。


 ここに来るまで車を走らせてきたが、あるのは酪農と養鶏場だけ。


 牛と鶏のようなものが遊んでいた。


 複合農場をしているのだろう。


 その他に田畑をやっていそうな民家が数軒あったぐらいだ。


 こんなに田舎だから移住者を探していたのだろうか。


 知らない土地だけど、仕事のおかげで人と接するのには慣れている。


 毎日ホテルに泊まりに来るお客さんの対応やクレームも支配人の代わりに俺が聞いていた。


 優しいお客さんばかりだったけど、支配人の遊びに対する声は俺にはどうすることもできなかったけどな。


 ただ、今の俺は人と接することに疲れているから、ちょうど良いのだろう。


 近所付き合いって結構大変って聞いたことがあるな。


 そう思うと引越してきたのが、田舎でよかったような気がした。


 そんなに関わる人も少なそうだしね。


 ログハウスの外観は思ったよりも綺麗になっており、しっかりと手が行き届いているようだ。


 結構頑張って管理していたんだな。


「あっ、ここにもお地蔵さんがいる」


 玄関の近くには小さな可愛らしいお地蔵さんが置いてあった。


 俺は鞄から飴をいくつか取り出して置く。


「今日からお世話になる東福(とうふく)幸治(こうじ)と申します。よろしくお願いします」


 いつものように手を合わせて挨拶をする。


 どこか俺は受け入れられたような気がした。


 昔から養護施設にもお地蔵さんが置いてあり、毎日みんなで手を合わせていた。


 そこで働く先生には、魔除けの効果や旅人安全を願うなどたくさんの意味が込められていると聞いている。


 だからお地蔵さんを見たら手を合わせる習慣が俺には身についていた。


 鍵を開けて早速中に入る。


「うおおおお、一人暮らしするには広すぎるな」

 

 再び俺は驚愕することになった。


 やはり中はお金持ちの別荘などに使われていたのかと思う見た目をしていた。


 家具はそのまま置かれていて、掃除が綺麗にされている。


 ただ、こんなに広い家だと一人で住むには大変な気がした。


 掃除をするのに一時間以上はかかるだろう。


 リビングからは吹き抜けの天井になっており、数室ある二階のどこかが寝室になるのだろう。


 俺は荷物を置いて、ひとまずソファーに座ることにした。


「はぁー、疲れたな」


 長い時間車を運転していた疲れが出たのだろう。


 俺はその場で眠ってしまった。



「きやああああああ!」


 突然の叫び声に俺は目を覚ました。


 どうやらソファーで眠っていたようだ。


 腕時計で確認すると一時間は寝ていた。


 急いで声が聞こえた場所に向かって俺は走り出す。


「大丈夫ですか?」


 扉を開けるとそこには白いワンピースを着た幼女がいた。


 何かに怯えているのかその場で震えていた。


 足元を見ると大きなゴキブリがいた。


 きっとゴキブリが怖くて叫んだのだろう。


 俺はハンカチをポケットから取り出して、ゆっくり近づきゴキブリを捕まえた。


 ゴキブリも小さな一つの命だ。


 殺さずに窓から放り投げた。


 俺は急いで幼女に頭を下げる。


 ホテルにゴキブリが出るって中々の衝撃だからな。


「お客様申し訳ありま……せん?」


 ただ、顔を上げるとキラキラした目で俺を見ていた。


「しゅごい!」


「こちらこそすみませんでした」


 何かこの後お詫びの品を持っていかないといけないだろう。


 部屋を出るといつもと景色が違うことに気づいた。


「あれ……? 俺ホテルに……いや、引っ越してきたのか」


 俺は寝ぼけていたのだろう。


 ホテルで働いているつもりで、いつものように動いていた。


 染みついた動きは自然と出てしまうな。


 そんなことを思いながらゆっくりと階段を降りていくと、あることが頭の隅に残っていた。


 引っ越してきたのに家にいたあの幼女は誰なんだろうか。


 確か清掃業者はすでに入っており、鍵を渡された時点で人は誰もいなかったはず。


 ふと、おじいさんが話していたことが頭をよぎった。


『前の人はすぐに引っ越して行ったからのう……』


 俺は怖くなりそのまま車の鍵を持って家を出ることにした。


 確実にあの家には見てはいけないものがいる気がする。


 それに幽霊エピソードでよく聞く、白いワンピースを着ていた。


 俺は近くにある農場に向かって車を走らせた。


 きっとあの家のことについては何か知っているだろう。


 ひょっとしたら俺の勘違いかもしれないからな。


 車を走らせること10分。


 農場までも中々の遠さだ。


 牛が鳴いており、今まで住んでいたところとは全く違うところだと実感する。


「おっ、兄ちゃんこんなところでどうしたんだ?」


 声をかけてきたのはツナギを着たおじさんだった。


 彼がこの農場をやっている人なんだろう。


「この先にあるログハウスに引っ越してきた東福幸治です」


 俺は買ってきた引っ越しの手土産を渡そうとしたが、今手元にはなかった。


「あっ、家に置いてきちゃいました」


「ははは、兄ちゃん面白いな」


 そんな俺の肩をおじさんは叩いていた。


 そういえば、急いで出てきたためリビングに手土産を忘れてしまった。


「ああ、俺は牛島だ。名前からして酪農場って感じだろ」


 農場のおじさんは牛島さんという名前らしい。


 名字も覚えやすそうで助かった。


 牛を飼っている牛島さんだからな。


「それでそんなに急いでどうしたんだ?」


「ああ! そういえば、ログハウスに誰か住んでますか?」


「ん? 兄ちゃんが今引っ越して来たんだろ?」


 その言葉を聞いて俺は血の気が引いてきた。


 あの幼女は一体誰なんだろうか。


「ははは、兄ちゃんは面白いやつだな! あっ、そういえば――」


「誰か住んでいたんですか?」


「以前住んでいた人が座敷わらしがいるって言ってたな」


「えっ……」


 あの幼女は座敷わらしのようだ。


 俺の中で座敷わらしといえばおかっぱで着物を着ているイメージだった。


 ログハウスだから座敷わらしも洋風になるのだろうか。


 幸運を呼ぶ妖怪がまさかこんなところに住んでいるとは誰も思わないだろう。


「ありがとうございます。また引っ越しの挨拶をやり直しにきますね」


 ただ、座敷わらしなら幽霊よりは良いだろう。


 幸運を呼んでくれるならお地蔵さんと同じような扱いだしな。


「また何か困ったら気軽に来るといい」


「ありがとうございます」


 安心した俺は車に乗って家に戻ることにした。


「くくく、本当に座敷わらしがいると信じていたぞ。あいつ中々面白いやつだな」


 農場のおじさんが何か言っていたが、俺の耳には聞こえなかった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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