17.ホテルマン、ピザを作る
早速牛島さんがいる農場に向かったが、日も暮れてきたからか、牛舎や養鶏場に姿はなかった。
遠くにある家に明かりがついているため、家にいるのだろうか。
表札にも牛島と書いてあるため、きっとこの家に住んでいるのだろう。
――ピンポーン!
俺はインターフォンを押して、牛島さんが出てくるのを待った。
――ガチャ!
「今までどこに――」
牛島さんはどこか焦った様子で玄関の扉を開けていた。
その姿はいつもみる牛島さんとは少し違っていた。
「急がせてすみません」
インターフォンを押して数十秒も経っていないため、焦らせてしまったのだろう。
中々こんな田舎に来る人がいないから、すぐに出なければいけないと思ったのかな?
「ああ……兄ちゃんか」
どこか残念そうな表情に俺は首を傾げると、何もなかったかのように牛島さんは笑っていた。
「すまん、寝ぼけていた」
少し恥ずかしそうに頭を掻いていた。
牛の世話って大変だもんな。
「それで何かあったのか?」
初めて会った時に困りごとがあったら来るように言われていた。
「ピザ窯を作ったので、よかったらご家族で一緒にどうですか?」
「あー、俺一人だけど大丈夫か?」
確かに足元を見ると、玄関に置いてある靴は全て男物のようだ。
「大丈夫ですよ。ピザ窯を作ったけど、ピザを作れる気がしなくて……」
「ん? どういうことだ?」
「いや……恥ずかしい話、今まで料理をしたことがないので……」
「ははは、兄ちゃんは不器用なんだな。うちでチーズも作っているから持っていくか?」
「ありがとうございます」
牛島さんは農場で卸している牛乳を使ってチーズを作っているらしい。
これは期待できそうな気がする。
俺達だけだと料理が全くできないからな。
それにチーズだとピザにも載せられるから、ちょうど良さそうだ。
家に帰ると牛島さんは内装が気になるのか周囲をキョロキョロとしていた。
「こんな感じなんだな」
「入ったことはないんですか?」
「ああ、昔からあるのは知っていたんだけどな。ちゃんと挨拶に来たのは兄ちゃんぐらいだぞ?」
どうやら今まで住んでいた人は挨拶にも来なかったらしい。
近所付き合いもなく、人が少ないところに住んでいる牛島さんが将来の自分に重なってしまう。
俺はずっとここに住むのだろうか。
そんなことを考えていたら、今この時を楽しめないだろう。
まずはしっかり心と体をリフレッシュしないとな。
「ふく!」
「ああ、ただいま」
玄関にいるとシルが出迎えてくれた。
「ニャー!」
ケトも同じように出てくるが、猫又がバレないようにネコを装っている。
いつもは二足歩行なのに、今回はちゃんと四足歩行だ。
「ピザを作るらしいな。俺が作ったチーズを持ってきたぞ!」
牛島さんが作ったチーズにシルとケトは興味津々のようだ。
「ほら、生地から作らないといけないから準備するよ」
「「はーい!」」
シルとケトはすぐにキッチンに向かって行った。
「牛島さんも――」
「なぁ……今あの黒ネコ返事しなかったか?」
「へっ!?」
言われてみたらケトは自然に返事をしていた気がする。
「あー、たまに人間ぽい返事をすることがあるんですよね」
「ははは、面白い兄ちゃんに面白いネコか」
どうやらバレずに済んだようだ。
牛島さんは笑いながら、シル達を追いかけるようにキッチンに向かった。
「おいおい、これでどうやってピザを作ろうと思ったんだ?」
「ははは……何も考えてなかったです」
いざ、ピザを作ろうとしたら問題が残っていた。
ピザの生地を作る材料がなかったことを忘れていた。
ピザのレシピを見たら、強力粉やベーキングパウダー、ドライイーストなど見たことない材料が必要なようだ。
上に載せる具材のことしか考えていなかったな。
家にあるのは小麦粉だけだし、買いに行くってなっても車でだいぶ時間がかかるだろう。
「今日はやめて別の日にしましょうか?」
「「えー」」
シルとケトはピザを食べるのを楽しみにしていたのだろう。
一瞬、ケトの返事に驚き牛島さんの顔を見る。
ただ、真剣に何かを考えており、牛島さんは気づかなかったようだ。
「よし、クリスピーピザを作ろうか!」
「クリスピーピザ?」
「ああ、薄力粉だけでできるし、サクサクしていてうまいぞ」
ピザにも種類があったんだと知り、俺も楽しみになってきた。
「なんか兄ちゃん達ってそっくりだな」
「えっ……?」
「いやー、あまりにも目をキラキラさせているから、餌付けしてる気分だな」
どうやら俺達は同じような表情で牛島さんを見ていたらしい。
出会ってそこまで日数は経っていないが、一緒にいることで似てきたのだろうか。
「じゃあ薄力粉に砂糖と塩を混ぜて、ぬるま湯を入れて混ぜようか」
俺達は言われた通りに材料を入れて混ぜ合わせていく。
「べたべたする」
「ははは、生地が手につかなくなるまでこねるんだぞ」
俺とシルは一生懸命に表面が滑らかになるまで生地をこねる。
徐々に形になってきたら、あとは丸めて生地を寝かせるらしい。
「あれ? ケトはどこに行った?」
いつのまにかケトはどこかに行ってしまった。
ケトが生地をこねると毛がついちゃうって言ったら、寂しそうにチラチラと振り返ってどこかに行ったからな。
まためんどくさいケトになってなければ良いが……。
ネコ用の手袋とかは売っているのだろうか?
「き!」
シルは俺の服を引っ張りベランダを指さしていた。
「にゃー!」
そこには窯の近くで木を咥えているケトがいた。
手で山積みになっている木を叩いている。
ピザ釜に使う木を持ってきたのだろうか。
一応炭や薪を買っておいたが、ケトのために言わない方が良さそうだ。
ヒステリック猫又は一回でお腹いっぱい。
「ネコが木を集められる量じゃないのは兄ちゃん達気づいているのか……」
背後には不審な目でケトを見ている牛島さんがいたのに俺は気づかなかった。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^)ジィー




