96.ホテルマン、薬草採取の達人になる
「今日も薬草採取にいくよ!」
「えー、またいくのー?」
「オイラ見てるよー」
シルとケトはつまらなさそうに答えると、ギルドの職員は困った顔をしていた。
「薬草を見つけられるのはコウさんたちだけですからね……」
「みなさん、見つけるのが苦手なんですね」
あれから他の人たちも薬草の採取に向かったが、生えているところを見つけられないらしい。
そのため、俺たちはギルドから頼まれて薬草採取を専門にして依頼を受けている。
それに獣の闇庭はまだ封鎖されて帰れないため、俺たちは毎日することがなく暇だった。
せっかくなら人のためになることをしておいた方が良いからね。
「森には近づくなよ?」
「ポチ、心配してくれるのかー」
「なっ……お前、やめろ!」
俺はポチの頭をガシガシと撫でる。
見た目は人間なのに、反応が犬そっくりだからついつい撫でてしまう。
「最近獣の闇庭の影響で魔物の動きも活発だから気をつけてくれよ」
「ソウたちも気をつけてね!」
獣の闇庭から魔素が溢れ出している影響で、魔物の動きが活発になっているらしい。
それに森で出会ったケトに似た立つ犬はコボルトという魔物で、ダンジョンで見かけるコボルトとは少し見た目が異なり、矢吹も戸惑っていた。
荷物をまとめるといつも通りに薬草の採取に向かう。
「こんなに薬草があるのに見つけられないってどういうことだろうな」
矢吹が言うように町を出て、すぐ歩けば薬草がたくさん生えていた。
むしろ見つけてくださいと言わんばかりに堂々と生えているのに気づかないものだろうか。
道端のたんぽぽも意識しないと気付かない現象に似ているのかな。
「うちには座敷わらしがいるからね」
薬草との巡り合わせもきっとシルが幸運を呼び寄せているのだろう。
「さぁ、始めようか」
「「「はーい……」」」
誰一人楽しそうな声はもう聞こえない。
今では無心で薬草を摘み、山になってはシルのポケットに入れるのを繰り返す。
「俺たち何のために依頼を受けてるんだ……」
「これも妖怪の世界の醍醐味なんだよ……」
「にゃあああああああ!」
薬草採取職人って職業があったら尊敬するレベルだ。
段々と精神的におかしくなりそう。
ケトなんてずっと鳴いているからね。
「サラとエルは……ってまたいない!?」
「はぁー、あいつら森の中だな」
サラはサボるためなのか、惹かれるように森の中に入っていくし、エルはサラを一人にしないように追いかけていく。
森の中は危ないって散々言ってるのに手がかかるやつらだ。
「河童は放浪癖でもあるのか?」
「河童よりも幽霊って言われた方がしっくりくるよな」
「やぶきん、怖いこと言うなよ……」
あれだけ宿屋で怖い思いをしたのに、本当に幽霊だったら俺たちずっと取り憑かれているからな。
俺たちはすぐに森の中に入り、サラたちを追いかける。
初めて入った時よりも、肌にまとわりつく湿気が重く、白い霧が生き物のように森を満たしていた。
「魔物は来ていないか?」
「ああ、魔物は来てないぞ」
矢吹の後ろに隠れて、鬱蒼とした森の中を歩く。
ソウたちが森の中は危ないと言っているのが目に見えてわかるぐらい森の中は薄気味悪くなっている。
動物の声や物音も聞こえず、耳に入ってくるのは歩く音だけ。
サラが向かったであろう奥へ、俺たちは迷いなく足を進める。
サラは決まってあの場所にいるからな。
「エル、見て! キラキラ薬草たくさんあるよ!」
「早く戻らないとふくに怒られるわよ」
「だって、おじさんたちも冠が欲しいって聞こえたもん」
二人の話し声が聞こえてきた。
きっとギルドにいる時に冒険者の話し声が聞こえたのだろう。
でも、魔力がない俺でもわかるほど明らかにここの森は危ない気がする。
「サラ、エル早く帰るよ!」
俺は二人の元へ近づくと、急に全身から冷や汗が溢れ出す。
「えっ……?」
異変を感じた方に目を向けると、何かが俺を飲み込もうと口を開けていた。
「おいおい、お前の方が危ないだろ!」
矢吹の腕が俺の襟を掴み、強引に引き寄せる。
次の瞬間、銀の軌跡が閃いた。
剣は迷いなく、その異形の喉奥へと突き立てられる。
異形は声にならない叫びを上げ、霧の中へ崩れ落ちた。
「やぶきんなら助けてくれるってわかってるからな」
「相変わらず都合がいいな」
矢吹は探索者だから感覚も俺よりは鋭い。
俺に何か起きる前には矢吹がどうにかしてくれると思っている。
サラとエルも危険を感じたのか、こっちに来て周囲を警戒していた。
「ふく、はやくしないとあぶないよ」
「変なやつがたくさんいる」
シルとケトの声に視線を細める。
霧の向こうで、ずるりと何かが動く音が聞こえた。
それもひとつではない。
四つ足の影がゆらりといくつも浮かび上がった。
「あれもコボルト……ではないよね」
「ああ、あれこそ妖怪みたいだな」
犬のような体躯。だが、顔の位置にあるのは、裂けた花弁のような口が大きく開く。
ぶわりと開いた内側には、何層にも重なった歯がぎっしりと並んでいた。
「口裂け女じゃなくて、口裂け犬だな」
「暢気なことを言ってる場合じゃないぞ」
気づいた時にはぐるりと包囲されていた。
「やぶきん、いける?」
「数が多いけどいけなくはない。あいつらもいるからな」
チラッとシルたちに視線を向けると、やる気満々の妖怪たちがいた。
何もできない俺よりもよっぽど頼りになるだろう。
「何かあったら俺が囮になるからな」
「ははは、頼りになる囮だな」
謎の生物は矢吹たちよりも、俺に注意を向けていた。
相変わらず俺だけが狙われるのはきっと妖怪ホイホイだからかな。
「来るぞ!」
一匹が地面を蹴り、花弁の口が視界いっぱいに迫ってきた。
「だから森に入るなって言っただろ!」
低く通る声と同時に、魔物の体が横から弾き飛ばされた。
地面を転がり、木に激突すると大きな音を立てた。
口裂け犬はその場で立ち止まり、周囲を警戒していると、霧の向こうから二つの影が歩み出る。
「薬草がどこにあるのか気になって追いかけてみたら、まさか森に入っていくとはね……」
「お前たちはバカなのか?」
剣を構えたソウと、その隣に立つポチだった。
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