第八話 知らない天井と美味しい天丼
「…フガッ!竜の頭がなんで降ってきてっ?!」
ベッドから目覚めた勇者は辺りを見回す、白を几帳とした清潔な部屋、ここは病室だ。
「へ、なんでこうなってんだっけ」
考える人のポーズで唸りながら思い出す勇者の元に、貨物列車をしながらシンキーズたちが入場してくる。
「お前らっ!良かった生きてたか!」
ハッピー猫のように喜びながらシンキーズたちはどこかへ走って行く。
そしてその後、シンキーズたちに連れられ、爺さんと、車いすに乗せられたバカナルシが来た。
「やっと目覚めたのかよ勇者ー。お前、一週間も寝てるとか寝ぼすけかよ。ま、ケガ酷くなかっただけ良かったけどよ」
「こっちは大丈夫だけど、てかバカナルシ、お前の方が重症に見えるんだけど」
「ああこれ?背中とか足にクナイバカみたいに喰らった上に爆風で色々骨やっちゃったらしくて。全治5ヶ月、これでもバケモンみたいな耐久力だって言われたわ」
勇者は 想像したら気持ち悪くなった!
「そういや、結局あの後どうなったんだよ。竜の頭が落っこちてきてから覚えてないんだが…」
「なんじゃ、覚えとらんのか。そんときのことならワシが説明してやろう」
「えっ唐突すぎるっすなー。」
落ちてくる竜の頭を、空中で一回転して蹴り飛ばすモータ。
その後体も山へと落ち、すさまじい音が鳴り響く中、何かが着地する音がする。
そこにいたのは薄いピンク色の長い髪をなびかせ、ジーパンに藍色のTシャツを身に纏う女性であった。手に持つ水色の結晶のような剣には、先ほどの竜のものであろう血が付いている。
「すぅーーっ…なんで人類最強がいるっすな~?残念だけど黒い子との戦いはおあずけっすな~。」
ものすごい勢いでその場からモータは逃げていった。
「あーあ、どっかいっちゃったよ。ま、でっかい竜は倒せたしいっかー!(*´∀`*)ノ」
とんでもなく明るい声で周りが晴れやかになる。
「あっ、ちょっと待っててねー。もうすぐ救急隊のみんながきてくれるから!(^o^)丿ガンバレ」
遠くの方にたくさんの光が見える、恐らく救急隊だろう。安心感が沸いてくると、自然に疲れが出て、まぶたが閉じていった。
「ってな訳でここまで来たんだよー(∩´∀`∩)」
いつの間にか部屋の中にいて勇者の肩がビクッとなった。
「そういや自己紹介まだだったねー。私ラランド・スーパーっていうの(っ´ω`c)ヨロシクネ
今お医者さん呼んできたからもうちょい待っててねー(^_-)」
部屋の中へ医者と看護婦が入ってくる。
「あぁ、タカヒラさん目が覚めたんですね、5日間も眠っていらしたので我々も心配でした。早速ですが色々と確認をさせていただきますね。」
医者はそう言うと右腕を押す。
「ヒャンッ!?」
勇者の甲高い声が響き渡る。
「あっ、申し訳ありません!まだ痛かったですよね!」
「あっ…ちが、そうじゃ、なくてっ…」
「リーペス!包帯を持ってきてくれ、腕を固定する。」
「あの、くすぐったかったんですっ//」
医者はえっと言った顔でこちらを見つめる。後ろのシンキーズたちも同様だ。
もっかい医者が右腕を押す。
「ヒャンッッ!?」
さっきより半音高い。
「勇者お前、くすぐったがりなんだな…」
「あー…痛みなどは、ありますか?」
「あ、えと…無いです…はい。」
勇者は恥ずかしさで下を向くしかなかった。
その後、レントゲンなどを撮ったが、骨には異常は見られないとのことだった。
「タカヒラさん、どこにも異常は見当たりませんでしたので、本日限りで退院していただいて大丈夫です。」
「本当ですか!あー良かった…」
「異常な回復速度ですよ、本当に。
それでですね、タカヒラさん入院費の三割負担ですので、450Gのお支払いですね。」
「…まじすか?」
「まじです、それと恐らくお仲間の方は後5ヶ月ほど入院されますので、あちらの方の退院の際には9000Gほどお支払いいただきます。」
「」
勇者は途中から白目で聞いていた。船に乗るのに全財産を使い果たしたので手元には1Gたりともない。
ゆうしゃは はたらくけついをした!
「あの、申し訳ないんですけど支払いちょっと待ってもらえませんか?」
「はぁ、まあ一週間程度なら…」
「すみません、ありがとうございます。」
診察室を出て爺さんと合流する無一文勇者。
「爺さんお金貸してくれぇぇ!」
「いきなりなんじゃ勇者。わしは研究費で国からの給付金なんてほとんど飛んでくぞい。でもお前に天丼ぐらいなら奢れそうじゃ。」
「わーいご飯だぁー!」
久々のまともなご飯に喜ぶ勇者とシンキーズたち。
「天丼いいなぁ~。私そろそろ次のお仕事行かなくちゃいけないからお別れなのー。ごめんねー(-ω-;)
あっそうだ!君たち強そうだから、もし機会があったらうちおいでよ!キザミヤ大陸のガヒューってとこに住んでるから!(≧∇≦)b」
彼女はそう言うと、手を振りながら自動ドアの向こうへ消えていった。雰囲気がホワーっとなった。
病院から出ると、周りに立ち並ぶ高層ビルに呆気をとられる。ここはマガシカ大陸最大の都市、コヤノ。車が大通りを走り抜ける音と、電車のブレーキ音が都会ならではのbgmとなっている。
「前にこっちに来たとき、美味い天丼屋に連れてってもらっての。何でも最高級品の食材と秘伝のタレを使ってるらしくての、あんなうまいもんは初めて食ったわい。」
垂れ落ちそうなよだれを必死に進みながら話を聞いている勇者。
「そういや、1号じゃったか?あの杖の修理なんじゃが、恐らくしばらくは無理そうじゃわい…。
あの杖に必要な特注の半導魔体を作って貰ってる工場がムクコト大陸にあるんじゃが、そこが魔物の占拠を受けて稼働停止になったらしいんじゃ。」
まじかぁとうなだれる1号。その背中をよしよししてやる2号とS3。微笑ましいとは真反対のビジュである。
「わしが直接取りに行けるならいきたいんじゃが、開発がかなり忙しくての。」
「え?じゃあなんで天丼食いに来てるんだ?」
「あぁ、それは勇者の退院祝いとわしの引越祝いを兼ね手じゃな。」
「え?引っ越し?どゆこと?」
「勇者なぁ、あんなボロボロになった町で研究続けられるわけないじゃろが。色々と機材が多くて4日ぐらいかかったが無事に昨日終わったんじゃ。」
そんなこんな話していると、件の天丼屋に到着した。店の前で分かる香ばしい天ぷらの匂い。よだれがボーちゃんみたいになっている。
のれんをくぐり、味のある木製の戸を開く。
らっしゃいという店主の渋い声が聞こえる。中は古さを感じされるが小綺麗に整頓されており、カウンター席のみのシンプルさがこだわりを感じさせる。
そして何より、鼻の中を突き抜ける天ぷらとタレの匂い。既にお腹いっぱいまである。
勇者たちはカウンターに座ると、メニューを開こうとするが、どこにもない。
「あぁ、この店は天丼一筋でやっとるからメニューとかはないぞい。大将、天丼5つじゃ。」
注文を受けると、冷蔵庫から食材を取り出し、それらを天ぷら粉にくぐらせていく。純白の鎧を纏った彼らは、高温の油の中へと沈んでゆく。油の音が勇者たちのワクワクを加速させる。
美しく揚がった彼らの油をしっかり切ると、既にタレの染みた白米のステージへ乗せられていく。カボチャ、レンコン、穴子、そして主役の海老天が華やかに盛り付けられ、とろりとしたタレがかけられる。
「はい、ご注文の天丼だよ。」
勇者たちの前に並べられた天丼は、どの芸術品よりも美しかった。勇者たちは既にお腹ぺこぺこだ。
「ふっ、お主らよ。まずは天ぷらだけ食ってみい。飛ぶぞい。」
勇者はかぼちゃ天を取り、一口食べる。
「あまぁぁぁい!」
まるで蜜たっぷりの焼き芋を食べているかのような甘さ。シンキーズたちも落ちそうなほっペを手で支えている。
一体これを米と一緒にかき込んだらどれだけの幸せになるのだろうか。勇者はもう一口かじり、タレの染みたご飯を口に運ぶ。かぼちゃの甘みとタレのしょっぱさがハーモニーを奏でている。我慢できなくなった勇者はいきなり海老天に手を出す。プリプリとした食感と肉厚さが口の中を支配し、そこにかき込まれた米に海老が絡みつき、この世の天国を感じさせる。
何でこんなグルメ漫画みたいな食レポしてるんだろと思いながらも箸が止まらない。幸せを噛みしめていると、
「そういや、勇者お前入院費どうするんじゃ」
一気に現実に引き戻された。
ご視聴ありがとうございます(っ´ω`c)
この度は学業とかエルデンリングとかエルデンリングで投稿が遅れてしまい申し訳ありません(゜-゜*;)オロオロ(;*゜-゜)
~勇者の魔物ート~
マックラ・ドラノスケ
[使用魔法]モストバッド・サンデー
(暗黒液体を操る魔法)
ベンタブラックのような黒さを持つ漆黒の竜。ベルリオに仕える魔獣であり、毎日鱗の手入れは欠かさない。ちなみに口から放つ漆黒の光線はつばである。