第七話 キモいやつらの大戦争
黒い翼を生やし宙に浮かぶその敵は、モコモコとした綿の服を纏い、冷ややかな目でこちらを見つめる。
「いきなりじゃったからこんなのしか持ってきとらんな。ま、これでアイツ程度なら十分じゃ。」
爺さんはポケットをガサガサとし、メカメカしい、青色に光るラインの入った銃を二丁取り出した。
「あぁ…それでいいなら別にいいんだけど。それじゃ、さっさと殺すね。」
[クダサ・バサヲ]
そう唱えると、翼の羽がマイクロミサイルのように五つほどこちらへ放たれる。
爺さんはは慌てることも無く[ホリディ・トラン]と唱える。するとただの白衣からジェットパックが出てくる。そのまま爺さんは飛び立ち、羽を回避する。
羽は旋回し、飛ぶ爺さんの後ろから迫る。
爺さんは後ろを向くと同時に、五発きっかりで羽を全て撃ち落とす。
「へぇ…随分とエイムがいいなぁ…僕も本気出さなきゃね。」
一気に20発もの羽を放つ。しかもそれぞれが独立して動き、爺さんを囲い込むように動く。
爺さんはその攻撃を合間を縫うように避けながら、敵へと攻撃を放つ。
「あぶないな…」
止まっていては危険と判断したのか、高速で飛び立ちながら羽を更に放つ。
爺さんはその羽を打ち落としながら敵の背後につき攻撃する。さながら戦闘機同士の戦いだ。
勇者が完全に置いてけぼりになって上を見上げていると、勇者の横の黒いため池がぷくぷくとする。そして黒い手が飛び出し、爺さんに向かっていく。
「うおっ!竜のやつこっちにまで!…はぁ、あんまし使いたくないんじゃがの。」
[モード-オールバク]
右側の銃が赤い光に変わり、引き金を引くと手が木っ端みじんに吹き飛ぶ威力の弾を放った。
そして背後から迫る羽を打ち落とそうとするが、羽の一つが肩をかすめ、白衣が赤く染まる。
「くっ、右側の銃がオーバーヒートしちまってしばらく使えなそうじゃ。流石に左側までオーバーヒートするのはますいぞ。
おい勇者!わしにあの手を近づけさせないようにお前が片付けるんじゃ!」
勇者はめちゃくちゃ痛い右腕を見て、絶対無理と言おうとしたが、既に二つ目の手が放たれている。勇者は考える間もなく、咄嗟に家の柱の瓦礫を左手で持ち、二つ目の手の根元をぶん殴る。
竜も勇者に気づいたのか、勇者へも手を放ってくる。タカヒラは叫びながら全力で避けて手をぶん殴り、爺さんに手を近づけさせないようにする。
先ほどまでと比べて手の数は圧倒的に少ない。2号とS3が頑張ってくれているのだろう。
突如遠くの山から大きな音がする。ちょうど1号が飛ばされた方向だ。
1号は、ニコニコとした顔でこちらを見つめる体操服に身を包んだ男と相対していた。右手には至ってシンプルな木の棒を持っている。
「紹介が遅れちゃったな~、自分モータ・グルっていいますな~。ま、こんな話も何ですし始めましょかな~」
[メーリ・ゴランド!]
棒を前にかざすと、とてつもない勢いで回転し、竜巻を起こす。それは火の玉を軽く打ち消し1号へと襲いかかる。
1号は同じく竜巻の幻想を出し、竜巻同士をぶつけ合い、竜巻が弾け辺りに衝撃波が吹き荒れる。
1号はなんとかで吹き飛ばされずに済んだが、暴風が吹き止むと同時に、モータは1号の眼前まで距離を詰めてくる。
1号は反応しきれず、首を高速回転でぶった切られる。
「あれ、手応えがあらへんな~」
攻撃は蜃気楼を切り刻むようにすり抜ける。1号は残念でしたと言わんばかりのドヤ顔を決め、この一世一代のチャンスを逃さんとする。
「おっと、こいつはまずいな~」
敵は急いで1号と距離を取ろうとする。だがシンキーズは狙った獲物は多分逃さない。迫真の演技をするかのように、竜巻でも打ち消せぬほどの極太ビームの幻想を放つ。
「本気出してきたっすな~、なら、こっちも頑張るっすかな~」
近くの巨木に触れると、木は高速で回転し、辺りを飲み込む巨大な竜巻と化した。
それはビームも例外では無く、文字通り空に消し飛んだ。
自身の回転で巨木が浮き上がると、回転が止む。そしてその巨木を1号に向けとてつもない怪力で蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた木は再び回転を始め、触れたもの全てを飲み込む竜巻空間となし、とてつもない暴風が周囲に吹き荒れる。
シンキーズはすり抜けるといっても手は実体化している。このままでは手がねじ切れてしまう。
仮に実体化を解除したとして、杖が壊れてしまっては魔法の性能がガタ落ちしてしまう。
…そうこうしている間に、竜巻空間はシンキーズを飲み込んだ。
「あーあ、終わっちゃったっすな~。でもワンチャン生きてたりしないかな~、なんてな~」
木の上に立ち、ニコニコ顔でクレーターを眺めていると、黒い影が被さり、その直後右肩を小さめの魔法が貫く。
「いったぁい!」
痛みで右手の棒を落としてしまう。そこには夕日に照らされ、ハングライダーの幻想を掴むあぶない刑事のワンシーンのようなシンキーズがそこにはいた。右手には半分に折れた杖が握られている。
「風を利用してよけるとはやるっすな~。これは自分も手段は選んでられないっすな~!」
大きく飛び上がると、敵の体が空中で高速回転を始める。回転によって揚力を得た敵はこちらへ高速で突進する。
1号は咄嗟に杖を遠くへ投げ捨て、ハングライダーを傾け回避を試みるが、無情にも両手を、ハングライダーごと貫かれる。
破壊され空気抵抗を受けられなくなったハングライダーと共に1号は力なく落下する。
そして回転によってコントロールを失ったモータも地面に墜落する。
「やっぱ自分を回転させるのは目が回るっすな~、頭も打っちゃっていたいっすな~…
ま、この調子で残りのやつも始末するっすな~」
鼻歌を吹きながら、勇者たちのいる方へ歩いて行く。
「くっ、さっきの一撃のせいで後ろを取られてしもうた。もっと色々持ってくるべきだったのぉ。」
爺さんはぼやきながら羽の嵐を紙一重で避け続ける。
「はぁ、こんなことになるなら一服しとけば良かったの。せっかくこの前新しいタバコもライターも買ったのにの…
ん?いんや、一服はこれからじゃな!」
爺さんは囲い込んでくる羽を突破する。
「ちょこまかしつこいなぁ…これで終わりにするよ。」
これまでの比ではない量の羽を一度に放つ。
「この量の羽…助かるの!」
ポケットからライターを取り出すと、着火したライターを羽の嵐へとぶん投げる。
羽に燃え移った火は、強風にあおられ一気に燃え広がる。
「!?」
業火の羽の中に突っ込むまえに、間一髪でブレーキをかける。
「あぶなかった…でもこの程度で僕を倒そうっていうのはやっぱ浅いね。老いぼれなのに知識は足りないみたいだ。」
「これで終わりなんて誰が言ったんじゃ?」
[モード-オールバク!]
オーバーヒートから回復していた右側と左側の両方が赤色に変わる。そして両方の銃から巨大な弾が発射され、業火の向こうへ放たれる。
「えぇ…こんな無茶苦茶な攻撃…」
敵は大爆発をもろに喰らう。その衝撃波で勇者もころころ転がり、降ってきたのは黒焦げの羽だけだった。
「はぁ~…終わったぁ…」
ころころ転がってそのまま横たわる勇者。
夕日もほとんど沈み、辺りが暗くなって星が輝いている。だが、それを遮るようにまだ竜が暴れている。
勇者が起き上がろうとすると、
「こんばんはですな~、あんさん勇者さんですかな~?」
勇者は飛び起き、柱を振り上げ斬りかかる。
「まあまあ、そんな慌てへんでな~」
敵は石を拾い上げると、デコピンで打つ。回転のかかった石は勇者の横を通過して柱と髪を吹き飛ばし、奥の家の瓦礫に大きな音を立て衝突する。
勇者は驚くとも恐怖ともとれない顔で膝を付き、体の震えが止まらない。自分は遊ばれている。殺そうと思えばいつでもできるというのが分かった。
「さっきの黒い子は凄い魔法使いだったよな~、勇者はんのお仲間なんやろな~?もっと遊びたかったけど加減ミスって殺しちゃったもんな~…」
「1号の…1号のことかーー!!」
髪は金髪にならなかったが、震えを消し去るほどの怒りがこみ上げる。拳を握りしめ、覇気だけで向かっていく。
「威勢がいいっすな~。勇者はんの実力、ちゃぁんと見せてもらいますな~」
再び石を放とうとすると、背後から何かを引きずる音が聞こえる。そこにいたのは全身傷だらけのバカナルシを手で引っ張る1号であった。
「えぇー!やっぱり生きてたっすな~。これが感動の再会ってやつっすかな~。今度こそ決着をつけるっすな~!」
石を両手に構え、1号に向け放つ。1号は炎の玉を作り出して応戦する。
だが炎の玉は途中で消滅し、1号が倒れる。その頭上を石がすり抜けていく。
「どうしたっすな~!来ないならとどめ行くっすな~!」
1号へ一瞬にして距離を詰め、拳を振り上げる。それと共に空からけたたましい断末魔が鳴り響く。
そしてけたたましい断末魔と共に、竜の頭がモータの頭上へ落ちてきた。
ご視聴ありがとうございました(っ´ω`c)
書きたいこと詰め込んだらクソ長くなってしまった…(;゜д゜)
許して下さいなんでもはしませんから。
~勇者の魔物ート~
ウィング・シイング
[使用魔法]クダサ・バサヲ
(羽を自在に操る魔法)
翼を生やし、モコモコの羊のような服に身を包んだ男。本人曰くタンクトップらしい。羽は元々鳥のものを魔法でくっつけて作っているらしい。