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黄道を刻む二十四の時の詩

白銀野原の小春日和

作者: 日浦海里

白銀の原っぱには

柔らかな陽射しが射し込んで


氷の精たちは煌めきながら

跳ねて飛んで空に還っていく


空に還るそれすらも

楽しいことと言うように

風にのって小さな笑い声が聞こえてくる


小さな笑い声たちの中に

心に響くような歌う声


精霊たちの無邪気さと違う

力強くてどこか切ない


その歌声は一面雪野原の中で

一滴の彩りを添えるように立ち続けている

柊の根の下から聞こえてきた



柊の真似をするように

まっすぐ立ち上がる霜柱の光

その柱と並ぶように

空を見上げる氷の精


生まれては消えを繰り返す

幼子のような氷たちなのに

その子は笑顔を見せることもなく

訴えかけるようにわたしを見上げ

もう一度歌を歌い始める


――それでも、また逢えるから


それは去りゆく季節と共に

巡る生命を詠った詩


  終わる生命と生まれる生命を

  見送り見守る切ない想いと

  精一杯に生きようとして

  叶わず果ててく悔しい想いと

  残り託され生命を宿した

  強い意思と慈しむ想い


  祝いと喜び

  出会いと別れ


  祭りは過ぎて

  風が吹き抜けて


  そしてまた

  生命は終わっていくけれど

  それを見守る優しさがあるから

  世界はこれからも生きていける

  生命はこれからも巡り続ける



歌う氷の精の瞳から

溢れて落ちた氷の欠片が

射し込んでいた陽射しに溶けて

空へ高く還っていく


そこにあるはずのない

夏草の香りと

鮮やかに色づいた草葉の輝きを

微かに残して




気付けば、歌っていたはずの氷の精も

陽射しの中に溶けていったのか

いつの間にかいなくなっていた


後にはまっすぐ立ち続ける柊

その葉先を揺らすように

ぽたりと小さな雫が一つ


白銀の原っぱには

柔らかな陽射しが射し込んで

今日は冬至


一年のうち最も日照時間の短くなる日です。

違う見方をすると、冬至から先は少しずつ日が長くなっていくということでもあります。


寒さ、厳しさはこれから更に増していきますが、

その寒さの下では、新たな生命が次の芽吹きに備えて、雪に守られながら眠りについています。

春になればこの雪が溶けて、沢山の生命を潤す水に変わる。

生命も季節も、こうして巡っていくのでしょうね。


【登場人物紹介】


○冬姫

 別名 氷姫。

 温められた世界を冷やす力を持ちます。

 自らに与えられた力を制御することは出来ず、

 その力は世界を凍りつかせることしか出来ません。

 その力が生命の温もりを奪いつくすこともありますが

 一方で、彼女によって生み出される氷や雪は、

 地の下で新たな生命を育む役割りも持っています。


 自分にできることは奪うこと、

 眠りにつかせることだけで、

 生命を育むことは出来ないし、

 他の生命に触れることもできない


 そう考えている彼女に

 夏の残り香は届いたのでしょうか

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― 新着の感想 ―
[良い点]  まるでウォータースライダーで何度も何度もはしゃぎまわっては滑り遊ぶ子供のような氷の精を浮かべると、雪や霜が土や葉に触れ水に戻ると離れ舞い上がり、水が凍りかたまり厚くもなると、それが氷の精…
[良い点]  夏姫の姿を見ることはない冬姫。  冬姫には、夏姫はこうして凛然と立つように思えているのでしょうか。  冬姫自身がそう受け取ることはないのかもしれませんが。  巡る生命を詠った詩は、その…
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