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目覚め

投稿遅れてすみません。本日中には完結させるはずでしたが間に合わず。10月完結目指して更新します。

夢を見ていたような気がする。暖かくて白い、いつかの記憶。


微睡に揺蕩いながら、ふっと目を開けると


「え?」


視界に飛び込んできたのは見慣れた天井ではなく、白い天蓋。


「お嬢様、お目覚めですか?」


横から女の声が聞こえ、驚いた雪華(せつか)は素早く振り向いた。

目の前にいるのは、黒いワンピースに白いエプロンをつけた若い女性。赤毛をお団子にし、ヘッドドレスをつけている。なんとなく後宮の侍女を彷彿とさせた。緑色の瞳がこちらを気遣わしげに眺めている。


「お嬢様、頭を強く打たれて、昨日からずっと眠っていたんですよ。体調はいかがでしょうか」


「頭を……」


意識を向けた途端、後頭部に鈍痛を感じた。手を当てると包帯が巻かれていた。思わず顔を顰めると、その女性は心配そうな顔をした。


「私どもの方で、手当はしたのですが……少し席を外しますね。よろしかったら、隣のドアを開けたところにある洗面台もお使いください」


そう言うと、彼女は部屋を出て行った。


(ここはどこ?何が起こっている?)


慎重に周囲の気配を探りながら、雪華(せつか)はベッドから抜け出し、洗面台に向かった。繊細な彫刻が施された扉を開けると、


「うわっ、なんて豪華な部屋」


大理石でできた大きな洗面台があった。大きな鏡に、金色の蛇口。獅子の口から水が出てくる仕組みらしい。

鏡の周りを取り囲む大理石は、蔓薔薇や小鳥の彫刻がしてある。

触るのも恐れ多いシロモノである。

そして、隣にも扉がある。え、まだ部屋があるのか。


どうやらここは身支度を整える部屋らしい。小部屋ですらこんな豪華なところ、見たことない。若干腰が引けつつも顔を洗い、残ったままだった化粧を落とした。


「というか何がどうなっているの」


捕虜というわけではなさそうだ。

鏡を見ると、不安そうな顔をした少女がこちらを見返す。黒い瞳が所在なく揺れる。その度に、黒い虹彩の隙間にわずかに見える青色がキラキラと光る。


「あ、簪がない」


髪の毛を見て気づいた。

私の唯一の武器である万能簪がない!せっかく芙蓉姉さんが贈ってくれたのに。


大事にしていた簪が失くなってしまったショックと、丸腰でいる不安感から、急に心細くなってきた。

フラフラしながらベッドの上に戻ってくると、扉がノックされた。


「お嬢様、ただいま戻りました」


先程の女性の声だ。


「はい、どうぞ」


扉が開くと


「やあ、おはよう。気分はどう?」


視界に飛び込んできたのは金色の絹に、宝石みたいにキラキラ輝く碧色。


「え……!?あ、痛っ」


驚いて身動ぎした拍子にに傷口に響いたみたい。


「ごめん。そんなに驚くとは思わなくて。」


そう言いながら、サラサラのプラチナブロンドに紺碧色の目をした青年が部屋に入ってきた。垂れ目せいか、穏やかそうね雰囲気がする。……ルミリオ王子だ。


彼はどんどんこちらに近づいてくる。


私はサッと残りのメンバーを見回した。殿下の後ろには護衛らしき鎧を纏った青年。アッシュブラウンの髪に、濃い茶色の瞳をしている。先程の侍女らしき女性もあとから入ってきた。

今のところ護衛の青年以外は武器を持ってなさそう。


「あ、いえ、えっと……?」


警戒しつつ掠れた声で呟くと、先程の侍女らしき女性がすぐに答えてくれた。


「お嬢様、こちらは天の国第一王子のルミリオ・シェーシュタット殿下。そして隣が、殿下の護衛騎士のルーク様です。」


「改めまして、僕は第一王子のルミリオ・シェーンシュタット。貴女は事件の時にひどく頭を打ったようだね。大丈夫かい?」


「事件……?」


「ほら、あの腕輪を奪おうとして襲撃を受けて、会場が大混乱したじゃないか。覚えてない?」


「え……」


雪華(せつか)は質問をはぐらかすことにした。そして嘘ではなくて本当のことをちょっぴり混ぜて返す。


「事件というか……直前に暗闇の中で誰かに引っ張られて倒れたような気がします。」


「なるほど。だから傷ができたのか。僕たちは、パーティーで倒れていた君を保護して、天の国の参加者達全員を急遽タワーを使って天の国に戻ってきたんだ。ここは王宮の客室だよ」


「そうだったんですね。感謝申し上げます」


ということはつまり、


(まずいまずいまずい!!私敵陣のど真ん中にいる!!!!!???)


完璧なポーカーフェイスを保ちながら、雪華(せつか)は内心大絶叫した。


「それで――お嬢さん、貴女の名前を伺っても?」


どうしよう。パーティーで名乗った名前を言えばいいのか、全く違う名前を言えばいいのか。

天の国が地の国に対してどんな感情を抱いているかわからない。

かといって、下手に天の国民のふりをしてバレたらまずい。


「もしかして、言えないの?」


「いえっ、そんなことは……」


しかし目の前の御仁は追及の手を緩めない。


「お嬢さん、貴女は誰?」


物理的にも精神的にもズキズキする頭を抱えながら、口を開いた。


「私は――」

 

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