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いじめダメ!ゼッタイ!!



 そんな訳で、俺達はお茶会の中心には戻らず、俺がさっきまで避難していた離れのガゼボに戻ってきた。

 すぐメリーにお茶を淹れてもらうとリディアナ嬢はその香りに安心したのか、ほぉ・・・と息を吐いて落ち着きを取り戻していく。そのタイミングでススッと冷やした濡れタオルをリディアナ嬢に手渡すメリー。

 さすがメリーねえさん!出来るメイドは行動がスマートでカッコいいね!


「あ、あの・・・」

「ん?」

「おみぐるしいところを、おみせしてしまいました・・・。それなのにこのようなおきづかい、かんしゃもうしあげますわ」

「良いよ、気にしないで」


 リディアナ嬢は目元を濡れタオルで冷やすと座ったままでありながら優雅だと思える所作でお辞儀をした。辿々しいと見えていた言葉使いと所作は緊張が解れたからか余裕が生まれていて、割としっかり身についている事が分かる。

 俺も付け焼き刃で終わらないように頑張んなきゃダメだな、うぅ。


 そんなリディアナ嬢が大事に大事に、ハンカチに包んで持っている物・・・、片腕の千切れた手のひらサイズのクマのぬいぐるみに俺は視線を向けた。


 途端、身体をビクッと震わせてぬいぐるみを守るように抱える。


 随分と過剰な反応だ・・・。庭園の薔薇の棘や蔓に引っかかって千切れちゃったのか、と思ってたんだけど・・・。もしかして、そうじゃない?

 『誰か』に、故意に千切られた?

 うーん、なら直球で直すよって言っても信用されないだろうから、少し対話してみますか。


「リディアナ嬢、良かったらお友達の名前を聞いても良い?」

「・・・え?お、おとも、だち?」

「あ、急にごめん。その可愛いぬいぐるみ、とても大事にしているようだったから。きっとリディアナ嬢の大切な友達なんだろうと思ったんだけど・・・」

「い、いえ、まちがって、ないですわっ!ブルーベリーはわたくしのだいじなおともだち!・・・です」


 ぎゅぅっとぬいぐるみを抱きしめるリディアナ嬢。

 無地の濃い紫色と小花柄の薄紫色の布で作られたぬいぐるみは確かにブルーベリーって感じだ。

 というか名前がブルーベリー!!良かった、もうこれピッタリじゃないか!


「良い名前だね、俺も好きだから今育ててるよ。丸くて可愛くて美味しいよね!!」

「そ、そだててる?でんかが、ですか?」

「うん、俺は魔法属性が木だからね。・・・さて、メリー」

「はい、オルステッド殿下」

「裁縫セット持ってるよね」

「はい、けれども応急処置用の小さな針と糸くらいでございます」

「十分だよ、それちょっと貸してくれる?あとカフスボタンも出して」

「・・・宜しいのですか?」

「兄上達には他にも渡す物あるから大丈夫。何ならまた作れば良いしね」

「かしこまりました」


 メリーとのやり取りに訳が分からずキョトンとしているリディアナ嬢に俺は渡してもらった裁縫セットとカフスボタンを見せた。

 カフスボタンには鈴蘭によく似た小さな白い花ー俺の育てたブルーベリーーの押し花が丸い透明のガラス細工に封じ込まれて飾られている。リディアナ嬢もブルーベリーの花だと気付いたようで、暗い表情がパッと笑顔になった。


「リディアナ嬢、絶対に傷つけないと誓うから、俺にブルーベリーを直させてくれないかな?」









 ・・・ものすごく、ものすごーーーーーっく、不安そうに、でも最後はブルーベリーを渡してくれた。

 そりゃメリーが直すって言うならまだ分かるけど、自分と同じ5歳児の男の子が直すって言っても信じられないよね!分かる〜!俺もリディアナ嬢と同じ立場だったら信用しない!!

 でも第三とは言え、自国の王子に言われて嫌です!なんて言えないよな。本当にごめん、ちょっとそれも分かってて言いました。

 今もまだすっごくハラハラした目で俺の手元を見てる。


「心配しないで。これでも手先はそこそこ器用だから」

「は、はい・・・」


 むしろおつむが宜しくない分、器用さでどうにかカバーしてたんだわ前世!!なのでこれくらいの破れた修繕くらい、パパッとやっちゃうよ〜!


 俺は手早く針に糸を通して、先ずは大きく破れた身体の脇部分を修繕していく。その時にカフスボタンのスナップも中に埋め込む形で一緒に縫い付けた。

 次に千切れた腕。こちらも一部破けた所を修繕、でも全部は閉じずにカフスボタンの凸部分が入る程度の穴を残す。そこにカフスボタンを通して胴体のスナップに嵌め込めば・・・。


「よし!でーきたーーーっ!」


 ジャジャーン!カフスボタンがジョイント代わりになって腕が可動式になりました!!いえ〜い、円形バンザーイ!ブルーベリーも片手バンザーイ!


「はい、どうぞ」

「え、あ、すごいっ!!なおってる、だけじゃなくて、おててがうごくように・・・!すごい!すごいですでんか!!ありがとうぞんじますわ!!」


 ブルーベリーを受け取ったリディアナ嬢は腕が動くのに感動して超笑顔。

 お、おぉ5歳児とはいえ、美少女の満面の笑みは破壊力あるな!一瞬ドキッとしちゃったよ。


 ・・・メリー、お願いだから生暖かい目で見るのやめて!


「こほん、あーリディアナ嬢。良かったらもう片方の腕も動くように出来るよ?どうす「おねがいしますわ!!」


 間髪入れずにブルーベリーを渡して来たのにちょっと笑って、俺はすぐに無傷の方の腕を外しにかかった。それをワクワクしながら見ていたリディアナ嬢がゆっくり下を向く。


「ほんとうに、ありがとうぞんじます・・・。うでがちぎられちゃったときは、わたくし・・・どうしようかと・・・」

「千切られた、って事はやっぱりこれ誰かにやられたんだね」

「っ!?おきづきだったのですか?」

「まぁ君の態度を見てたら、ね。しかし酷いことするよ、人の大事な物を傷つけるなんてさ!」


 いじめダメ!ゼッタイ!!

 ブルーベリーもきっと痛かったに違いない。今絶賛ぬいぐるみ手術中の俺が言うのもなんだけどね!


 そんな風に俺がプンプンしてると、本来怒るべきリディアナ嬢がどこか諦めたような顔をしていた。


「しかたがないのですわ・・・。わたくしはめいぞくせい、ですから・・・」


 そう言ってリディアナ嬢はこうなった経緯を話してくれた。


 簡単にまとめるとこうだ。

 一緒に来ているお父さんがお仕事の話をしていたから1人で飲み物を取りに行ったんだが、人が多くてお父さんのところに戻れず、仕方なく隅っこにいたら茶会に参加している子どもたちのグループの一つに目をつけられてしまった。その目をつけられた理由が彼女の魔法属性が『冥属性』だから。幽霊と話せるのが気持ち悪いとか死霊を呼ぶ魔女だとか死体集めてるんだとか・・・散々な言われっぷりだったみたいなのにその時は我慢した。

 割と、よくあることらしい。


 でもその我慢という無反応が子どもたちには面白くなかったみたいで。リディアナ嬢が大事に持っているブルーベリーを取り上げて、腕を引きちぎった。リディアナ嬢は泣きながら笑っている奴らの隙をついてブルーベリーを取り戻し、庭園の奥に逃げ隠れた。

 そこを俺が見つけたんだそうだ。




 ・・・うん、子どもたちの特徴は聞けた、どこのどいつかも分かった。あとでルーカス兄上にチクろうそうしよう。


 俺が黒い笑みを浮かべてそんな事を考えてたら、メリーがお茶を入れ替えて差し出してくる。

 あ、落ち着けってことね、ごめんごめん・・・と思ったらメリーも黒い笑顔で親指グッとやってた。



 ですよね!許せないよね!

 オッケー、やっちゃいましょう!

 兄上仕事増やしてごめん!



ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。


少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価、感想コメントなどをいただけると嬉しいです。

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