離宮の悲しきお財布事情
「ザック、おはよう!」
「おぉ殿下ぁ!!おはようございます!!」
離宮前の門に居るザックは俺が来た事に気付くとすぐに腰を下ろして手を広げてくれた。飛びつく俺を簡単に受け止めて高い高いしてくれる。
中身18歳なんでちょっと恥ずかしいけどね!でもジェットコースターとか好きだったし、何よりこういう触れ合いは前世でもしてもらった事がないから実はちょっと、いやかなり嬉しかったりする。恥ずかしいけども!
「お、昨日より少し重くなりましたかな?朝食もたくさん食べたようでお腹がポンポンですなぁ!」
「うん、お腹いっぱい!ザックの分も持ってきたよ」
「食欲をそそる良い香りです、さすがアラン殿!殿下もいつもご足労頂きまして、このザック、有り難く頂戴いたしますぞ!!」
そう言ってバスケットを受け取ったザックは早速とばかりにデカい口を開けてサンドイッチを頬張る。超美味そう。
それにしても、もっとこの離宮に人が居ればこんな風に立ったまま軽食を食うなんて事しなくて済むんだけどなぁ。
最初は俺1人に6人も使用人がいるの!?って思ってたけど、みんなの仕事量や休みのこと考えたら少ない、むしろこの人数でよく回してくれてるよって話だ。
だってみんなこの5年間無休だよ!?ブラック企業も真っ青ですよ!!
でも人を増やさない、いや増やせない。
何故か?
答えは簡単、お金が無い!!
メリー達は俺に隠してるみたいだけどぶっちゃけ一目瞭然なんだよな。俺には出来るだけ不自由なく良い物を、ってしてくれてるけど、メリー達が新品の物使ってるところなんて見た事無いし。
この国ってもしや貧乏なのかとも考えたけど、違った。
だって離宮にこっそり遊びに来てくれる兄上達は俺の物より数段良い物を身に着けてる。それこそ護衛達も、だ。
つまりここの必要経費を誰かが横領してるか、親父共が必要ないって減らしてるかとか、そういう事なんだろう。いやもうこの際どっちでも良いんだけどね、お金が無い事実は変わりませんから!
それよりもみんなが過労で倒れてしまう前にどうにかしてお金を稼ぎたい!!
ただ今の俺は非力な子どもな訳で、伝手も何も無い。更に伝手があったところでこの国でどうやってお金が稼げるか分からない。完全に八方塞がりな状況だ。
本当に、どうしたらいいんだろう。
「オルステッド様、どうされましたか?何やら唸っておりますが・・・何かお悩み事でも?」
「うぇ!?ううん、大丈夫だよ!それよりフリッドはお話終わった?」
「はい。ではザック、殿下方が来られた時は宜しくお願いしますね」
「うむ、すぐにお知らせしますぞ!・・・と言いたいところでしたが、あれはその殿下方では?」
「え?」
門の外を見るとこちらに向かって来る人影があった。そのうちの1人が俺達に気付いて手を振りながら走りだす。
「テッド〜ーっ!!」
「ジーク!!」
笑顔満開で俺に抱きついてきたのは金髪碧眼で天使みたいな見た目のジークムンド。さすが主人公、顔面偏差値高ぇ!
「やぁ、知らせた時間より早く来てしまってすまない。ジークが早く行きたいと急かしてね」
「いえ、俺も早く会いたかったから嬉しいです!いらっしゃいませルーカス兄上!」
少し遅れて来たのが長兄のルーカス。ジークムンドがそのままでっかくなったらこんな感じだろうなって思える程2人はそっくりだ。
ちなみに俺は黒髪碧眼。この真夏の海や空の様な透き通った紺碧の瞳が王家の血を継いでいる証らしい。
「それなら良かった、フリッド達もすまないね。今日は天気も良いし魔法も見せたいから外にしよう。ガゼボを借りて良いかな」
「もちろんでございます。直ぐにお茶をご用意いたしますのでどうぞこちらへ、ご案内いたします」
そう言ってフリッドは懐から金色の小さなベルを取り出してチリンと一度だけ鳴らした。
「ありがとう、では行こうか」
ベルの音、結構小さな音だったのにあれでメリー達に聞こえたのかな?
不思議に思っていたら、なんとアレは魔道具なんだと移動しながら教えてもらった。元々2個セットで片方を鳴らせば離れた場所にあるもう片方も鳴って知らせてくれるらしい。
前世でいうところのファミレスの呼び出しボタンとか病院のナースコールみたいな感じだな!
魔道具ってランプ以外あまり見たことなかったけど、もしかして他にもあるのかな。今度見せてもらおう!
ちなみに本当にもう一つのベル(サリナが持ってるらしい)が鳴ったみたいで、俺たちが庭の端にあるガゼボに着いたのとほぼ同じタイミングでメリーとサリナがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
魔道具すげ〜ッ!
元工業系の高校に通ってた身としては是非とも構造が知りたい!今度と言わず、兄上達が帰ったら即で見せてもらおうそうしよう!!
「さて、早速だけど魔法学の勉強をしようか。2人は魔法がどういうモノかどれくらい知っているかな?」
「えっと、大地と水と火と風と雷と木と、あと聖と冥の8種類があるって本で読みました」
「でも使える魔法は人によってちがうって、だいたいの人はひとつかふたつって先生が言ってた」
「うん、2人ともよく勉強しているね。えらいよ」
「「えへへ」」
超絶美形のお兄様に頭撫でられるとか照れるわ〜ッ!
でも悪くない!前世は一人っ子だったから高い高い同様こういうやり取りってこっそり憧れてたんだよな。
「じゃぁ聖と冥はどういう魔法か説明出来るかな?」
「聖はいたいのをなおせるよ!冥は、おばけとお話しできるって・・・兄上、おばけって本当にいるの?」
「おばけは怖いかい、ジーク」
「えっ!だって死んでるのにそこにいるんでしょ?それってモンスターと同じじゃないの?」
「そうだね。悲しみや怒りを持ったまま亡くなって、その感情を亡くなってからもずっと忘れられずにいると、どんどん感情に飲み込まれてモンスターになってしまうこともある。冥の魔法はそう言った魂を浄化する為にあるんだと僕は思っているよ」
「辛かった事とか悲しかった事を聞いてあげて気持ちを落ち着かせてあげるんですね」
「そういう事。あとは死者の魂を操れる、なんてのも聞くけどそんな事絶対出来ない風評被害だ!って知り合いの冥属性の人は言ってたよ」
そりゃそんな事出来たらヤバいよな、死霊使いじゃん。でもそのイメージが強い所為で冥属性の人は気味悪がられるらしい。
俺も両親がいないからって色々言われたけど、どこに行ってもそういう風評被害って無くならないもんなんだなぁ。
「さて、属性のことはこれくらいにして。お待ちかね、2人の魔法属性を見てみようか!」
「やった〜!!ぼくなんの魔法だろう!!」
ジークが盛り上がってる隣で俺はあるものに釘付けになった。ルーカス兄上が懐から出した手のひら大の丸い水晶玉。
そう丸い、球体!!!!!!
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