番外編5:小さい兄の夢語り・後編
その日から、僕はテッドの所に行けなくなった。
母上が警戒して兄上とあまり話させてくれず、恒例の勉強会も中止になってしまったからだ。
僕としては寂しかったけど、でもどこか安堵もしてしまっていた。テッドの大事な物を、自分のせいで無くしてしまったから。
だけど、直接謝ることも出来てない状況にモヤモヤしたものが溜まっていって・・・。3ヶ月ほどたった頃、僕はベルトに無理を言ってこっそりテッドのいる離宮に向かった。
どんな反応をされるかとドキドキしながら行けば、テッドは
「あ、ジーク!!久しぶりだな、元気にしてた?」
「ジークムンド殿下、お久しぶりでございます」
婚約者候補のリディアナと一緒に笑顔で迎えてくれた。
「あら?殿下、お顔色が悪いように見受けられますわ。もしや体調がよくありませんの?」
「本当だ、大丈夫か?とりあえず座って!今メリーがあったかいお茶いれてくれてるから」
「ちが、ちがうんだ、だいじょうぶで・・・あの」
それだけでも嬉しくて泣きそうだったのに、2人揃って僕の体調を心配してくれて。なかなか謝りにこれなかった自分が情けなくて。
僕はその場でぼろぼろと泣き出してしまった。
「えぇ!?ジーク本当にどうしたの?大丈夫?」
「テッドごめん・・・本当にごめんっ!」
「?なんで謝って・・・あぁ、もしかして本のこと?」
「う、うん、ごめーーっ!?」
泣きながら謝り続ける僕をテッドが力いっぱい抱きしめてきた。
「そんなの、気にしなくていいんだよ」
ぎゅうって、ちょっと苦しいくらいに抱きしめてきたと思えば、次は背中をぽんぽんって叩いてくる。
「でも、でもぼくのせいで・・・ッ!」
「いやいや、悪いのは親父たちだろう?兄上から聞いたよ、ひっどいことするよなぁ目の前で破って燃やすとかさ」
「テッドぉ・・・」
「大丈夫だよジーク、こんな事でジークのこと嫌いになったりなんかしない。絶対にだ」
いつも通りの口調が、背中の手の温もりと一緒に染み渡っていく。僕が1番気にしていた事を言ってもらえて、ますます涙が止まらなくなってしまった。
「ま、親父達のことは更に嫌いになったけどね〜。ジークをこんな泣かすなんてマジ許さん」
「あ・・・ぼくも父上たちイヤ、かも」
「ははは、大事な息子に嫌われてやんの!いい気味じゃん」
「大事じゃないよ、全然・・・」
涙がちょっとずつ落ち着いてきた僕にテッドが冗談とも本気とも取れる声で言ってくる。
多分本気なんだろうけど、僕もそうだ。
だって、あの人たちにとって僕はアクセサリーと一緒だから。
そんな風に話していたら部屋の扉がノックされた。テッドが返事をすると、いつのまにか席を外していたリディアナがメリーを連れて入ってきた。
「テッド様、ジークムンド殿下、お茶にいたしませんこと?ブルーベリーパイがちょうど焼けたそうですわ」
「やった!ジーク食べよう!」
「うん」
「あ、そうだ。リディ」
「はい、なんでしょうかテッド様」
「母さん喚んでもらえる?」
テッドに謝って、許してもらえて、ほわほわした気持ちでいたところにビシッと亀裂が走ったような気がした。
母さんを、呼ぶ?
え、それってまさか母上を呼ぶってこと!?
何でそんなことを?
もしかして本当は怒ってる?
だって母上が呼ばれたら僕は本当に二度とここに来れなくなってしまうのに!!?
「ジーク殿下がおりますが、よろしいのですか?」
「うん、大丈夫。必要なことだからお願いしていい?」
「承知致しましたわ」
混乱する僕を前にリディアナがメリーに言伝を・・・なんてことはなく。それどころか手のひらに魔力を集めてテッドの方にフワリと放った。
感じたことのない魔力の波動だ。攻撃魔法ではないみたいだけど一体?
なんて首を傾げていたら、魔力がテッドの肩あたりで止まって、光を強めて、広がって・・・
『はじめましてジークムンド殿下、オルステッドの母のソフィアでーす』
ぼんやりした輪郭の女性が出てきた。
「・・・・・え?え?えぇぇぇーーーーー???!?」
訳が分からなくてつい叫んじゃった僕にテッドとリディアナ、そしてソフィア様がゆっくり説明をしてくれた。
ソフィア様がお化けになってもずっとテッドの側に居たこと。リディアナが冥属性の魔力持ちで、テッドの側にいるソフィア様を魔法でみんなの目に見えるようにしてくれたこと。最近魔法レベルが上がって、ソフィア様と会話まで出来るようになったこと。
「そういう訳だから、本のことは気にしなくて良いからな。リディのおかげで母さんから直接授業受けれるようになったし」
「なんというか・・・すごいね」
「だろう!リディって本当すごいよな!」
笑顔のテッドに、僕は心の中で答えた。
違うよ、テッド。
リディアナも確かにすごいけれど、僕は君をすごいと思ったんだ。
君の大事な物を無くした僕なんかを、笑顔で迎えてくれて、心配してくれて、許してくれて、抱きしめてくれて、嬉しい言葉をかけてくれて。
それだけじゃなくて、僕がもうこれ以上気にしないように秘密にしなきゃいけないソフィア様のことを教えてくれて。
テッドはすごいな。
自分のことよりリディアナが褒められたと思って喜ぶテッドが、とても眩しかった。
そんなテッドに寄り添って答えるリディアナも素敵で、僕はその時思ったんだ。
あぁ、2人がーーーーー。
◆◆◆
--とある国の世界樹の虚の中。
「え、ルーカス兄上は来世の輪に行かないの!?」
『あぁ、君の魂をドラゴンの身体に移したように僕もそうしてもらえないかと思っている』
「勿論頑張らせていただきますが、封印されたドラゴンなど他に聞いたことが・・・」
『いやいや、なんでドラゴン限定なのさ!そうじゃなくて、出来れば鳥になりたい』
「「『鳥?』」」
『あぁ、王太子とかそういう肩書き無しで世界を自由に回ってみたいんだ。それには鳥が1番良いと思ってね』
『兄上の夢だったんだんだね』
『・・・あぁ、そうだね。お前達を自由に、と思っていたんだが、それは僕の夢を代わりに叶えて欲しかっただけなのかもしれない』
「そういう事であればご希望に添えるように尽力いたしますわ」
『ありがとう』
「ジークはどうするんだ?」
『僕はもうリディアナに希望を伝えてあるよ』
「そうなの?」
「は、はい・・・」
「リディ?何か顔赤いよ?」
「いいえそんなことありませんわ!テッド様、ジーク様のご希望に添えるように、が、頑張りましょうね!」
「『??』」
2年後、世界樹の麓で神竜と神子の間に待望の第一子が誕生する。
その子は記憶がないながらも、両親からのあたたかな愛を受ける度にぽろぽろと嬉しそうに泣いたという。
あぁ、2人が---僕の親であったら良かったのに。
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