番外編4:師匠と親方のお茶請け話
お待たせ致しました、番外編第4話です!
今回はオルステッドと関わりのある職人さん達のお話です。
視点がコロコロと変わりますがご容赦くださいませ。
どうぞお楽しみください!
「はぁぁぁぁぁーーーーーーーー〜・・・暇ねぇ」
「そうかよ、ワシは忙しい」
自分の家の様に我が物顔で茶をすすってるペスターをワシは適当に相手しながら槌を振るう。本当は相手したくないんだが、しなかったらしなかったでずぅぅぅぅっと居座るもんだから適度に相手してやらねぇといけねぇ。
面倒くさいやつだ。
「今頃お坊ちゃん達はどの辺りかしら?」
「お嬢が海に行きてぇっていっとったからな、南の方じゃねぇか?」
うちは鉄がメインの総合工房だ。デカいからこそあちこちでトンカンやってて喧しい・・・筈なんだが、コイツの声は嫌に通ってハッキリ聞こえやがる。おかげで無視も出来ねぇ。
「良いわねぇバカンス。アタシも行きたかったわ」
「・・・新婚旅行になんで赤の他人が着いて行くんだよ」
「赤の他人とは失礼ね!アタシはあの子の師匠よぉ!」
「つまり他人だろうが」
「はああぁぁぁぁ、暇だわぁ」
また同じ言葉を繰り返すペスターにワシはもう無視を決めた。
「・・・あの子が居ないと張り合いが無いっていうか、やる気出ないのよねぇ」
「追っ付かれないようにってか?」
独り言を言ったつもりだったのにガリオから返事が返ってきてちょっとびっくりしたわ。さっきまで話しかけんなオーラを醸し出してたのに。
「そうよ、悪い?」
「天才の名を欲しいままにしてたお前さんがねぇ」
「そんなの過去の話よ。今ならパパの気持ちが痛いほど分かるわ」
『天才』なんて、真の『天才』の前では空しいもんよ。
一回りも二回りも歳の違う幼い子どもが、自分では絶対に思いつかないような事を話してくる興奮と、それを上回る恐怖。
あれは本当にいつまでたっても慣れないわね。
作っている物を見て、どう動くのかを理解するならまだ良いのよ。アタシもそれを良くやって、師匠であるパパを驚かせたもの。けどあの子はその先を、何処でどんな風に使って、どう発展させていくかまでを語って来たのよ。
お坊ちゃんの作る魔道具を見てから、それを発展させた派生品を思いつくことはアタシにだって出来るし、色々やったものよ。でも実際に動いた所を見てもいないのに派生品まで考えつくなんて芸当は無理だったわ。
「あの子の物を見る着眼点は異常よ、ぶっちゃけ常人のそれじゃないわ。円に固執してなければ、もっともっとヤバいもんを作ったでしょうね」
「あー・・・確かにそれには同意見だなぁ」
あら、ガリオがアタシの意見に賛成なんて珍しいわね。
「なぁによ、何か思い当たる事でもあるの?」
「まぁな」
「え〜、ちょっとあの子なにやらかしたの?話しなさいよぉ」
「別に大した話じゃねぇぞ?」
「暇なのよ」
「へいへい、・・・アレは若が初めてうちの工房に来た時のことだ」
ワシと若が初めて会ったのは、ガーディア侯爵が6歳になったばかりの若を連れて来た時だ。何でも誕生日プレゼントに工房の紹介を頼まれたらしい。
貴族の、いや王族の子が工房見学だなんて、酔狂な。侯爵様も王子様に我儘を言われて断れなかったのだろう、可哀想にな、と。その時は思ったもんだ。
だがそんな考えはすぐに消えた。連れてこられた若は工房主であるワシが挨拶すると、『他の作業員達の手を止めなくて良い、邪魔はしたくない、むしろ作っているところが見たいんだ』と言ってきた。
いや、工房に来たら普通作ったもんを見るんじゃねぇのか?
そう思って、つい聞いちまった。驚きで言葉も普段通りの粗野なもんになってたと思う。けど若は全く気にせず、
『なら、この工房で作られてる1番小さなネジと1番大きなネジを見せてもらえますか?』
と言ってきやがった。
紺碧の瞳をそれはそれはキラキラに輝かせて。
「ネジぃ?!あはははもぉあの子らしい!!」
「全くだ。今ならそう言えるがよ、あん時はそら驚いたもんよ。ガキの癖になんてところを見たがるんだ、そんなのは熟練の職人が目ぇつけるとこだ、ってよ」
コイツは面白れぇガキが来たもんだって、つい悪戯心が出ちまったワシは2番目に小さいネジと1番デカいネジを若に見せた。
極小の円形ネジと六角形ボルト。
でっかい目をもっとでっかくして、まだ光るのかってくらいキラキラさせて。こっちがドン引きする勢いで円形とネジ曲線を語り出した。
「ま、そこは割愛するぞ。ぶっちゃけ長すぎてワシも覚えてねぇしな」
「あ〜大丈夫大丈夫、想像出来るわ」
「ははは、だろうな。まぁそれで侯爵様までドン引きするほど語った後によ、若が言ったのさ」
『これ、もう一回り小さいネジ作ってますよね?』
「何の疑いもなく言われて・・お前さんと一緒さ、ゾッとしたよ。何だこのガキは、ってな」
「わぁ・・・因みになんであの子は1番じゃないって分かったの?」
「ほれ、あそこの壁に排水溝用の筒と留め具板が並んどるだろ?まだどれも穴は空けとらんが、若はあの細さの留め具板があるならもう一回り小さいネジを作っとる筈だって言い当てやがったのさ」
「うわ怖っ」
全くだ、普通ならそんなもん分かるわけが無い。けど若はそれを言い当てて、騙したワシを怒る事なく、1番小さなネジを嬉しそうに見ていた。
「で、図面を渡してきやがった」
「・・・はいぃ?」
「図面っつーか、ありゃデザイン画だな。こんな部品作りたいんだ、ってよ。ほれ、うちの小物部門で作っとる人形の関節があるだろ」
「あぁポールジョイントね、知ってるわよ。あれ画期的よね・・・え、あれもお坊ちゃん?」
「おぅ、お嬢に動く着せ替え人形作ってやりたいってな」
「やだもぉ動機が!その頃からお嬢ちゃん中心かい!!」
「若だしな」
「あははは!そうね、お坊ちゃんだもんね。・・・今もお嬢ちゃんの為に何か作ってるのかしら」
「そりゃそうだろうな」
「ほんと、死んだって聞いた時はどうしてやろうかと思ったけど、生き返ってドラゴンになるって何?お坊ちゃんは落ち着いた人生ってもんが歩めないのかしら?」
「無理だろ」
「あはは、そうね無理ね」
「良いじゃねぇか、おかげでワシらも退屈しねぇんだからよ」
「今絶賛アタシは暇で退屈なんだけど?」
「そんなの今だけに決まってんだろ?どうせそのうち「親方〜ーーーーっ!ちょっと手伝って〜〜っ!!」・・・ほれ見たことか」
「あ、ペスターさんもいる!丁度良かった!」
初めてうちの店に顔を出した時と変わらないキラキラの顔でお坊ちゃんが工房に入ってきた。確か南の隣国の方へ行ってる筈なんだけど、あれかしら、飛んで帰って来たのかしら?
「これ作りたいんだけど相談にのってもらって良い?」
「はいはい、今度は何作る気よアンタ」
「なんだこりゃ?穴ボコだらけの、鉄板か?」
「鉄板は合ってるけど穴は空いてないよ。丸く凹ませてるだけ」
「あー、半球型に凹ませてるってことか。それをたくさん・・・何すんだ?」
「たこ焼き作る!!」
「「たこやき??」」
「たこって・・・あの海にいるうねうねのやつかしら?」
「そう!赤くてうねうねして吸盤が丸い!最高!!」
「ペスターは知っとるのか?」
「留学時代に食べた事があるの、南の方じゃ珍味としてそこそこ有名よぉ。ただ美味しいんだけど見た目が良くないし、ちょっと硬いのよね〜」
「ほぉ。で、焼きってことはなんだ、コイツでそれを焼くのか?」
「ていうかこの形なに?随分横長だけど一体いくつ魔石使う気よ」
「それを相談したくてペスターさんにも声かけたんだよ。旅先の工房にお願いしようとしたんだけど全然理解してもらえなくてさ」
そりゃこの子の突拍子もない発明に慣れてない人がいきなりコレを見せられて理解出来る訳がないでしょうよ。
多分ガリオも同じ事を思ってるでしょうね。可哀想な者を見る目してるわ。
「だからやっぱり2人にお願いしなきゃって思って飛んで帰って来た!」
あ、やっぱり飛んで帰ってきたのね、本当に文字通り。
良いわ、協力してあげようじゃないの。
だってこの子は、アタシ達の可愛い可愛い刺激物だもの。
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