番外編3:かの家の影の日常・後編
長くなったアリト語りも今回でラストです!
オルステッド殿下と過ごす事、3年。
リディアナお嬢様のお力で霊体のソフィア様と対話が可能になった殿下は、正式な婚約が出来るようにとお嬢様の部屋で計画を練っていた。
「どーしても証人がいっぱいいる時じゃないとダメ?」
『ダメね。言い逃れが出来ない状況にしないとあのクズはすぐに屁理屈こねてもみ消してくるから。最悪、王位継承権放棄だけ受理して他は無視もあり得るわよ」
「うげっめんどくさ」
『そういう時だけ頭が回るのよ』
「他で回してよマジで。というか、そうなると兄上の立太子式典か・・・あぁ〜人いっぱいだぁ〜」
『頑張って!リーちゃんとの甘々ハッピーな未来の為よ!』
「やる気出てきた頑張る」
「ぁ、甘々だなんてそんなっ」
『やーん、リーちゃんってば顔真っ赤で可愛い〜!テッドちゃん、母さんにリーちゃんちょう「ダメに決まってんだろ!」
・・・平和だ。
全貴族の前で国王陛下を貶める作戦を練っている筈なんだが、そうとは思えないほど平和だ。
まぁ本来なら作戦など立てる必要のない話だ、これくらい軽い方がいいだろう。
殿下は正妃のお子だが第三王子。そんな殿下の婿入り先としてガーディア家は全く問題ない。公爵家のように王家に影響を与える訳でもなく、それでいて王族が婿入りしてもおかしくない身分の高さ。見事な好条件にこの婚約はすぐに決まるものだと、誰もが疑っていなかった。
が、予想とは裏腹に、国王陛下は婚約を認めなかった。
何故かと調べてみれば何と皮肉か、当主様が前王妃派の筆頭と思われているからだった。どうしてそんな誤解がと更に調べれば、殿下と接点が増えたのと、一緒に立ち上げた商会があまりにも上手くいきすぎてガーディア家の資産が公爵家に追いつく程になっていた為だった。それらによって前王妃派の中でも中枢人物と位置付けられ、国王派にも前王妃派筆頭なのだと勘違いされる要因になってしまったのだ。
そんな家に殿下が婿入りしようものなら、前王妃派の団結力が計り知れないものになる。国王はそれを恐れて婚約を認めないのだ。
だから作戦を練る羽目になったのだが、ソフィア様が考えている時点で勝ち確である。あとは本番で殿下の人見知りが爆発しない事を祈るのみ・・・。
そんな事を考えていたら、十数人の人間がこちらに向かってきているのが分かった。あぁ来たか、と俺は殿下の前に降り立つ。
「ご歓談中失礼致します」
「アリトさんどうしたの?」
「エルディアナ様がいらっしゃいました」
「あぁ、大事な話があるって言ってたっけ」
そう言って殿下が立ち上がったと同時に部屋の扉がノックされ、エルディアナ様と多くの護衛・・・『影』のメンバーが部屋に入って来た。あまりの人数に殿下は驚くが、お嬢様は分かっているのか表情が暗く、ソフィア様に至ってはエルディアナ様の前に立って深い礼をとった。
「ソフィア様、お顔をお上げくださいませ」
『いえ、真にこの国を守りし守護者の前では当然にございます。それどころかお孫様のお陰でこうして息子と過ごせているというのにご挨拶とお礼が遅れましたこと、誠に申し訳ございません』
「お気になさらず。孫にとって良き鍛錬となっているようでこちらからもお礼申し上げますわ」
国のトップであった筈の母親が取る異例の態度に殿下は困惑している。だがソフィア様はその態度を崩さないまま、殿下へと厳しい表情を向けた。
『オルステッド、これからこの方がお話して下さる事を良くお聞きなさいね』
ソフィア様に言われ、姿勢を正す殿下に、エルディアナ様は優しく微笑んで話し出す。
この国で誰もが知る勇者と魔王の物語、そこに関わるガーディア家の始まりと魔王封印という守護者のお役目。更に今なお魔王復活は目論みられ、その為に俺達『影』が存在する事。・・・お嬢様が次代の守護者であると言う事。
全てを聞き終えて、殿下は黙った。
当然の反応だろう。いくら聡明で大人びているとはいえ、まだ8歳。国を影ながら守護しているという重責はなかなか理解出来るものではない。例え理解出来たとして、いずれその重責が殿下とお嬢様にのし掛かると、それに耐えられるのかといえば、また難しい。
最悪、婚約の話も無くなる可能性すらある。お嬢様も分かっているからか、表情がずっとお暗いままだ。
殿下にはよく考えていただ
「--カメラが必要だね」
ん?
「て、テッド様?キャメ、ラ?とはなんですの?」
「今見えてる物をそのままの見た目で残せるもの、かな」
「??・・・絵師を呼ぶ、ということでしょうか?」
「んーそういうのじゃなくて、例えば今日のリディの服や髪型を記録するってなると文字でメモするか、それこそ絵師を呼んで描いてもらわなきゃだよね。でも時間がかかるし正確じゃない可能性がある。だから見えてる物をそのまま、鏡に写ってるような感じで残す。それが出来る物を作ろうと思って」
「急に、どうして?」
「だって影さん達の証拠集めに必要でしょう」
影が全員驚愕した。勿論、俺もその1人だ。
この方は、どれだけ頭の回転が早いんだ。今の話を聞いて俺たちが日々何をしているのか理解しただけでなく、必要な道具のアイディアまで出してくるなんて!
「あ、会話が撮れる物も必要か。紙や物の証拠だけ撮っても偽装だって言われそうだし。でも声も一緒なら言い逃れ出来ないよね!」
もうどこからツッコめば良いのか。
殿下、それが本当に出来るなら俺達は貴方を崇め奉りますよ!なんだそれ!めちゃくちゃ欲しいわ!
「あ、あの!テッド様!!」
「なにリディ?」
「わたくしのお役目、怖くないのですか?こんな、魔王を見張るだなんて・・・しかもそれで、命も、狙われるかもしれなくて」
「その為にアリトさん達が、影さん達がいるんでしょ?」
殿下の言葉にフェルルやエリスと言ったお嬢様とエルディアナ様筆頭の護衛達が大きく頷く。
そう、俺達の最も大事な役目は守護者をお守りすること。
「え、あ、はい!それはそうなのですが」
「なら俺がすべき事は、婚約者として影さん達がいつでも万全な状態でリディやお祖母様達を守れるように情報収集の負担を軽減させる事だと思うんだよね」
笑顔で言いきる殿下に、お嬢様が泣いて抱きついた。
影も泣いた。
ソフィア様は自慢げに胸を張っていたし、エルディアナ様はうんうんと満足そうに頷いていた。
ソフィア様、胸張って良いです、自慢しまくって下さい。
エルディアナ様、貴女様の先見の明は本物です。俺だけじゃない、今ここにいる影全員が殿下のファンになりました。
お嬢様、思う存分泣いてください。
貴女様の婚約者は最高です。
それからルーカス王太子殿下の立太子式典で国王陛下を言い負かし、殿下は正式にお嬢様の婚約者となった。
2年後にはキャメラとカセトトを完成させてくれ、影の情報収集は格段に楽に正確になった。おかげで殿下の護衛の競争率が上がったが、絶対に譲らなかった。
5年、10年・・・殿下の傍は平和で、でも刺激的で、楽しかった。エルディアナ様とお嬢様とは別で、この方になら命をかけれると、本気で思っていた。
だからーー
「テッド様ぁぁぁぁああああーーーーーーっ!!!!!」
あの瞬間を俺は一生忘れない。
護るべき宝が、護りたかった命が零れ落ちてしまった、あの瞬間を。
忘れないからこそ、願う。どうか、どうか--
「見つけましたよ、お2人とも」
「あ、さすがアリトさん。もう見つかっちゃったか」
「もうすぐフェルル達も合流いたしますよ」
「ふふふ、みんな早いですわね」
「だね、じゃあリディと2人っきりの新婚旅行もここまでか」
「はい、申し訳ありませんが」
ずっと傍で護らせて欲しい。
今度こそ、その笑顔を消させはしないから。
「我らは貴方様方の護衛であり『影』ですので」
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