番外編3:かの家の影の日常・中編
アリトさんの思い出語りが止まりません!
前後編ではなくまさかの3話編成になりました
そんな謝罪全開の心情を隠している中、殿下は私達に近づいて来てペコリと頭を下げた・・・ん、王族が頭を、下げた!?たかが護衛に!?
「えっと、改めて宜しくお願いします。オルステッドです」
「で、殿下、お顔をお上げください」
「でも俺を守ってくれるんでしょ?俺なんかに命をかけてくれるんだから、これは最低限の礼儀だよ」
なんかって、礼儀って子どもが言うか?
チラッと侍女頭と執事を見れば悲しそうな表情をしている。
成程、この子は王族というモノを理解した上で自分の価値は底辺だと思っているんだ。離宮に押し込まれ、父親に見向きもされない自分に価値などない、と。
これは支える者として辛いな。
「ねぇ、2人の名前を教えてもらえる?」
ニコニコ笑顔で詰め寄られて言葉に詰まる。
本当に先程から驚くことしかしないなこの殿下は。まさかわざわざ護衛の名前を聞いてくるとは。
しかし、
「我らは影のようなモノ。今は姿を見せておりますが、普段は見えぬ所におります」
「ですので、どうか我らの事はおらぬものと考えお過ごしください。名も覚えて頂く必要はございません」
今日は顔合わせで居るだけ。基本的に見える場所にいるつもりはない。この子の知らぬ間に、悟られる事なく全てを終わらせる、それが私達の仕事だ。
故に、名など必要ない。
「なにそれやだ」
ん?
「俺は側に居るならちゃんと一緒に居たいし話もしたい、貴方達の名前も呼びたい。それはダメなことなの?」
これは、ーー困った。
もう1人の護衛も困惑しているのが空気で伝わってくる。
今まで、たくさんの命令を受けて任務を行ってきた。どんな命令も主人の期待通りに遂行してきた自信もある。ただそこに『個』は無い。
全ては我らの主人の為に。
我らは全であって、一にあらず。
『影』として、最初に教わる事だ。だからそう、生きて来た、ずっと。
なのに殿下は、それが常の私達に個の『名』を聞き、それを呼びたいという。
「私、いえ、俺は『アリト』と申します」
こんな、心にくる『お願い』は初めてだ。胸がムズムズするというか、こそばゆく感じる。
「宜しくお願いいたします、オルステッド殿下」
なかなかどうして、退屈しない任務になりそうだ。
◆◆◆
それからの毎日は、色々な意味で驚きの連続だった。殿下は本当に破茶滅茶過ぎたから。
魔法を覚えたばかりと聞いた筈なのに、既にしっかり使いこなして自分の畑と果樹園を作っていたり(ブルーベリー美味かった)。
おもちゃを作ると言って材料から調達したり(魔法で育てた木を水魔法で切り倒して加工するってどういう発想なんだ)。
自分じゃ作れない物を書き出してわざわざ工房に出向いて説明したり(専門用語が多すぎて全く理解出来なかった)。
「・・・あの、アリト先輩」
「なんだ、ラッシュ」
「殿下、おかしくないっスか」
「ソフィア様のお子だからだろう」
「いやいや!それで片付くレベルじゃないっスよね?」
「メリー殿達はそれで納得している」
「あれは納得させてるの間違いっス!」
初顔合わせ以降、同じく護衛に任命された後輩のラッシュともこんな軽口を叩き合う仲になった。他の離宮の方々とも必要以上に話をして仲を深めている。
今までの任務ではあり得ない状況だ。
しかも
「アリトさん!魔法教えて!!」
俺が殿下と同じ水魔法の属性持ちだから、いつのまにか殿下の魔法教師まで兼任することになってしまった。
事前に話を聞いていたとは言え、本当に剣術指南役も教師陣も全く居ないと分かった時は驚いた。しかも殿下が仰った『うちが貧乏』も事実で、離宮の必要経費が雀の涙程度だと知った時はラッシュと一緒に毒でも盛ってやろうかと本気で考えたものだ。
誰に、とは言わないが。
とは言っても教師陣に関しては礼儀作法や読み書き計算等の基本的な学問はサリナ殿達が、王族としての知識はルーカス王太子殿下が教えている。だから下手な教師をつけられるより今の方が殿下にとっては良いのかもしれない。
実際、他はソフィア様の教科書のみの独学状態だが、学園に入学しても問題ないレベルの知識を習得されているし。
何よりこの子は、いやこの方は発想力が異常だ。
「アリトさん、水のお皿?みたいなのって魔法で作れるかな?」
「皿・・・一体何をなさるので?」
「ちょっと試したいことがあって。できる?」
「可能です。魔法はイメージと以前話しましたね。頭の中で明確に形を思い描き、それを魔力で形作れば・・・ほら」
「おぉキレイなお皿!!」
「殿下も出来ますよ。イメージは勿論ですが魔力コントロールを忘れずに」
「はーい!」
今もこうして魔法を教えてはいるが、本来の授業とはかけ離れている。
魔法は第一に魔力コントロールが大事だからそこは殿下も同じだ。その後は属性に合わせた防御と攻撃魔法を教師に見せてもらって模倣するのだが、そのやり方を殿下はしていない。
何故なら、
「あ、出来た!アリトさん見て見て!ほら、水魔法で落ち葉に火が点けれたよ!」
「んん!?殿下、これはどういった原理ですか?」
「水のお皿を虫眼鏡と同じ形にして太陽光を集めたんだよ。昼間限定だけどこれで俺も火おこしが出来るね!」
「お見事です・・・」
こんな風にとんでもないことを形にしてしまうからだ。
攻撃も防御も見せて真似させるよりご自身で考えた物を形にした方がずっと強力だったりするのだから恐ろしい。これなんて昼限定とは言っても歴とした攻撃魔法として使える。皿も光も無色透明で避けようがないのだから。
こんな風に俺は教師と言いながら殿下に教えてもらっていることの方が多いくらいだ。
そういえばこの間もーー
「ーーと、いうように魔法属性にはそれぞれ得意分野があるのです。ここまでで何か質問はございますか?」
「んー、風属性が人探しに向いてるって言うけど、これ他の属性でも出来るよね?」
「大地属性が野外であれば足音などの振動を感知して探れますが、それ以外の属性はちょっと・・・」
「出来ると思うよ、待っててね」
「(魔力が動いた・・・が、何も出てこないな。何をされてるんだ?)」
「ーー見つけた。ラッシュさ〜ーん!!俺から見て左側の樫の木の上にいるよね〜ッ!!」
「えッ!?」
「ーー殿下!急に叫ばんでくださいよ落ちかけたじゃないっスか!あとオイラは見張りで隠れてるんスよ!あんな大声で言ったら周りにバレんでしょうが!!先輩もなんで殿下に場所を・・・って先輩?頭抱えてどうしたんスか?」
「教えてない」
「はい?」
「俺は一切教えてない。殿下、種明かしをお願いします」
「あはは、ごめんねラッシュさん。えっと、俺は空気中にある水の流れを読んだだけだよ」
「空気中に、水?」
「うん。ほら、雨上がりとかって空気がじめってしてるでしょ?それって見えないだけで空気の中に水があるって事なんだよね。だから風の流れを読むのと同じように空気中の水の流れを魔力で読んでラッシュさんの居る所を探し当てたってわけ」
「「・・・」」
「火属性なんてもっと簡単じゃないかな?だって火を操るってつまりは温度を操るって事でしょう?人なんて高い温度の塊なんだからその熱源を探るだけで見つけられると思うんだけど、難しいものなの?」
「・・・殿下、それ仲間内で出来ないか試してみて良いっスか?」
「良いよ〜」
「・・・ラッシュ」
「分かってるっスよ。ちゃんとエルディアナ様にお伺いは立てますって」
「あぁ、あと出来るだけ内密にやれ。もしこれが本当に可能なら広まってしまう方が厄介だ」
「りょ〜かい」
ーーなんて事があって、『影』の間で急遽新しい魔法訓練が追加された。そして殿下の考えは当然の如く当たっていて、結果として正確な索敵ができる影が劇的に増えたのは言うまでもないだろう。
こんな風に殿下は本当に、驚きの塊なのだった。
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