親の事情に子どもを巻き込むな!(使用人一同の声)
「おはようフリッド、サリナ」
「おはようございますオルステッド様」
「おはようございます殿下。本日のお身体の調子はいかがでございますか?」
「今日も元気だよ!」
「それはようございましたわ。ではすぐにお食事の準備をいたしますね」
「さぁオルステッド様どうぞ」
「うん」
食堂に入って迎えてくれたのは40代後半くらいの夫婦、執事のフリッドと乳母のサリナだ。ちなみにメリーは2人の娘で、基本的に俺の世話はこの3人がしてくれている。
あとはコックのアランと警備兵のウィル、ザック。全員ここに住み込みで働いてくれていて、俺にとっては使用人というより家族と言って良い。
だから
「アラン、おはよう」
「おぉ、坊ちゃんおはようです。いつも早起きですな。感心感心」
「えへへ、今日のごはんはなに?」
「ポーチドエッグのサラダと炙りベーコン、胡桃のパンに芽キャベツとミニトマトのコロコロスープですぜ。坊ちゃんお好きでしょう」
「大好き!あ、ウィルおはよう!聞いて、今日コロコロスープだって!」
「おはようございます殿下。コロコロスープ良いですね、アランさん配膳お手伝いしますよ」
「おぅ頼むわ」
「みんなそろった?それじゃ
「「「「「いただきます」」」」」」
みんなで朝食を取るのがこの離宮のルールだ。
本来は使用人と一緒に食事なんてあり得ないらしいんだけど、俺がわがままを言ってこの形にした。
だって広い食堂のバカでかいテーブルに1人だけで飯食うって寂しすぎるだろ!給仕してもらうのも元々庶民な俺には緊張して逆に食べにくいし!!
ちなみに警備兵は門の前で立ってなきゃいけないから、この朝食参加は交代制。後で軽食を持って挨拶に行くのも俺の日課だ。
兄達はもちろん、母も父も一緒には住んでいない。
此処は広大な王宮敷地内に作られた俺専用の離宮。
専用と言えば聞こえは良いが、まぁ言ってしまえば厄介払いだ。
俺は本来正妃である母ソフィアと王宮で暮らしている筈だった。でも母は産後の肥立ちが悪くて、俺を産んでから数ヶ月後に亡くなってしまった。
この時、兄上達の母である側妃アルジュリーネが好機とばかりに正妃の地位に着き、まだ赤ん坊だった俺と母の専属だったサリナ達をこの離宮に追いやったらしい。
ここで父親である国王が声を上げれば良かったんだが、側妃が即行で正妃になれたので察せる様に、父の愛は俺の母に無かった。元々政略結婚で形だけの夫婦だったらしいしね。
だからアルジュリーネと一緒に嬉々として俺を離宮に追いやり、愛する人と家族水入らずで王宮に暮らしている。
そんな訳だから俺は一度も父に会ったことはない。
本来毎年あるらしい誕生日パーティーも開かれた事はないし、5歳でつけてもらえるはずの専属護衛や教師、指南役騎士もいない。
ゲームのオルステッドはこんな風に他の兄弟と明らかに違い過ぎる扱いを受けてきたから、何がなんでも王太子になりたかったんだろう。
だってこれ明らかに放置、地球でいったら完全にアウトなネグレクト!衣食住が保証されててサリナ達が居てくれたから良かったけど数ヶ月の赤ん坊を放り出すってどうなんだよ!
宏哉、お前がいつも「あのライバル王子マジうざい!」って言ってたけど、色々裏事情があったみたいだぞ。これは嫌でもグレるって。
「おいしかったーっ!ごちそうさまでした!」
「はいよ、坊ちゃんはいつも綺麗に食べてくれるから気持ちいいなぁ!ではザックへの飯の配達、お願いしますぜ」
「まかせて!」
「殿下、僕が持ちますよ」
「ウィルは今からおやすみだろ!はたらいちゃだめ!」
「はっはっはっ、オルステッド様はお優しいですな。ではこちらはわたくしがお持ちいたしましょう。ザックに本日の予定も知らせなくてはなりませんしね」
「うん、フリッド行こう!じゃあいってきます!」
「「「「いってらっしゃいませ」」」」」
軽食の入ったバスケットをフリッドに持ってもらって俺は門で警備をしているザックの所に早足で向かった。
中に入っているのは今日のサラダの玉子固茹でバージョンとベーコンをサンドイッチにした物だろう。焼きたてのパンとベーコンの香りがして、今朝食を食べ終わったばかりなのに涎がでそうだ。温かいうちに持って行ってあげなくては!
そんな張り切る俺を全員が温かく見送ってくれ、手を振って答えた。
俺の姿が見えなくなってすぐ、使用人達が痛ましげな表情を浮かべているとも知らずにーー。
「・・・サリナさん、殿下の専属護衛や教師陣の話はどうなりましたか?」
「何も・・・。主人が随分前から王宮に掛け合ってはくれているのだけど、陛下まで届いているのかどうか・・・」
「届いたところであの陛下が聞いてくれる訳がねぇさ!この離宮の必要経費だって減らされる一方じゃねーか!」
「ソフィア様のご実家からの援助金があるからどうにかなっているものの・・・。ご自身のご子息なのに、こんな扱いあんまりです!」
「アランさん、メリー、口を慎みなさい」
「だってお母様!!オルステッド殿下はあんなに可愛らしくて利発で本当に本当に良い子で!なのに・・・こんな狭い離宮に追いやられてるんですよ!酷すぎるじゃないですかっ!!」
「メリーさんの言う通りです。この状況と待遇が王国の王子として有り得ない事だと・・・殿下がお気づきになった時どう思われるか・・・」
「ウィルさん、もしその時が来てもわたし達がやる事は何も変わりませんわ。ソフィア様の代わりにどんな時も殿下の味方でいる。・・・わたし達が出来ることはそれだけなのです」
「はい・・・」
「唯一の救いは、ルーカス殿下が坊ちゃんを気にかけてくれてる事だな」
「本当に・・・。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ、誰とは言わないけど」
「うわぁそれすっごく飲ませたいですね。誰とは言いませんが」
「ガッハッハ!一級品でございますって茶葉に入れて献上するか!!誰にとは言わんが」
「ふふふ。さぁさぁ、お喋りはこれくらいにして、仕事を始めましょう。今日も殿下が健やかに過ごせるように、ね」
「「「はい(おぅよ)」」」
我らが敬愛する主のたった1人の忘れ形見。
今はまだ幼き新たな主が心穏やかに、愛に飢えることなく、成長してくれます様に。
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