番外編3:かの家の影の日常・前編
お待たせ致しました、番外編第三話です!
今回はガーディア侯爵家の『影』のお話です。思っていたより長くなりそうで、前編後編に分けました。
どうぞお楽しみください!
私はガーディア侯爵家の『影』だ。
『影』とは所謂『諜報部隊』というもので。他国の情報は勿論、本国の情報もありとあらゆる方法で集めている。
なぜそんな部隊が侯爵家にあるかと言えば、この家が、いやこのガーディア侯爵領が特別な場所だからだ。
クワンドゥルス王国初代国王となった勇者がガーディア家初代当主と封印した魔王、それがこの地には封印されている。
人間とは愚かな生き物で、いくら歴史を伝えようとも経験していない脅威は忘れ去られる。倒すことが出来ずに封印という形を取らなければならないほどの災厄を、己ならば制御出来ると思う愚か者がいつの時代も現れるのだ。
・・・本当に、なぜそんなおめでたい阿呆な考えが思い浮かぶのか私には皆目検討もつかない。が、いるからにはしょうがない。
私達『影』は愚かな阿保を早い段階で見つけ出して対処・始末する、その為の部隊なのだ。
そんな『影』は誰でもなれる訳ではない。
ガーディア領内にあるいくつかの孤児院とガーディア侯爵家に専属で支えている家の者、その中から身体能力・頭脳・性格など全てにおいて優秀であると判断された者だけがガーディア侯爵家に使用人見習いとして呼ばれる。そこで使用人としての基本的な技術を学びながら、諜報に使う技術も同時に会得していく。話術・戦闘技能・潜入技能・魔術・洗脳・拷問などと多岐に渡り、そこで更に篩にかけられ、最後に魔法レベルがマスターランクに到達した者だけが『影』の部隊に配属されるのだ。
ちなみに使用人見習い時と『影』に配属時に外部に漏らす事を許さないという二度の魔法契約をする徹底ぶりである。
これだけ聞くと奴隷のようではないか、と思われるかもしれないがそんな事はない。激務は否めないが休日と給金は当然の様に支給されるし、魔法契約によって機密は漏れないので恋愛・結婚も自由。
何よりこれほどの技術を教えてくれておきながら、『影』になるかどうかの最終決定は自分でさせてもらえる。これには私自身、本当に驚いた。
人ひとりを使えるレベルまで育てあげる時間と金と労力は相当なものであるのに、無理強いは絶対にしないのだ。そこにガーディア侯爵家の方々の人の良さが滲み出ていると思う。道具として意思を無くさせて使えば良いものを、本当にお人好しで義理堅い家だというのが『影』全員の総意である。
そんな私達『影』は正確に言うとガーディア侯爵家に支えてはいない。『影』が忠誠を誓っているのはガーディア侯爵家という家ではなく、魔王を今も封印し続けている『守護者』個人だ。
故にカーディガ家当主ですら『守護者』から『影』を借りているというスタンス。しかも当主の命令の後に『守護者』が何か命じてくれば、それがどんなくだらない命令であっても『守護者』の命令が最優先事項となる。
まぁ今の守護者である『エルディアナ』様はそんな他の事を無視してのご命令など一度もされた事はないのだが。
ーーと、思っていたら
「貴方達は今日からリディちゃんとリディちゃんの婚約者候補の護衛ね」
遠方の配属地にいた私と他数名の『影』を急に呼びつけたエルディアナ様はとても素敵な笑顔で、そうご命令された。
突然の命令に私を含めた全員がポカンとしてしまったのは言うまでもないだろう。
子どもの護衛とは、何の冗談だ。自分でいうのもなんだが、集められた者は全員が全員、重要な任務を任されている。『影』の中でも特に能力の秀でた若手ばかり。
そんな私達に5歳の子どもの護衛をしろと?
リディアナお嬢様はまだ分かる。
ガーディア侯爵家の1人娘であり、このままご兄弟がお生まれにならなければ次代の当主だ。しかも魔法属性が冥属性だと判明したので次代の守護者でもある。
だが、婚約者まで護衛とはどういうことだ。まだ候補な上に相手はこの国の第三王子だという。この国の裏事情に精通する私達からしたら微妙な感情になるのは仕方がない。
「あらあら、みんなすごい顔ね」
マスクで見えない筈なんですがもしや千里眼持ちですかエルディアナ様。
「今はまだ候補だけど、あの子は絶対うちの婿になるわ。それにとぉっても良い子なの。貴方達も絶対気に入る筈よ」
そう言ってニコニコ笑う主の命令に私達が逆らえる筈がなく。
結局リディアナお嬢様に3人、婚約者候補に2人着くことになり、私は婚約者候補の護衛に回される事になった。
正直に言おう。
とても嫌だった。
王家で唯一尊敬出来るソフィア前王妃の忘形見。離宮に隔離されている現状にも同情する。
だが、そうは言っても半分は無能を絵に描いたような王の血が入っていて、まともな教育係もつけられていない子どもだ。父親同様に我儘放題なのではと、エルディアナ様の言葉をつい疑ってしまう。
私ともう1人はそんな事を考えながら、けれど口や態度には出さずに配属地となる王家の離宮に向かった。
「オルステッド殿下、こちらガーディア侯爵様より配属していただいた新しい護衛の方々ですわ」
侍女に紹介されてお会いしたオルステッド殿下は紺碧の瞳以外は全く父親の血を感じさせないほどソフィア前王妃にそっくりだった。この見た目では益々馬鹿陛下も可愛がらないだろうな、と同情心が湧き上がる。
「護衛?俺に?」
本を読んでいた殿下は私達を見てコテンと首を傾げる。くっ、かわいあざとい!
「え、どうしよメリー!うち貧乏だからお給金払えないよ!?」
給金はガーディア家からキチンと頂いてますが、じゃない!気にするのそこなんですか殿下!?
「大丈夫ですよ、お給金はガーディア侯爵様が払ってくださいます」
「でも俺の護衛になってくれるのに・・・」
「この間ガーディア侯爵様に玩具のアイディアをお売りになられましたでしょう。商会の話も順調に進んでいると聞いております。お気になさるのでしたらそこから得たお金を護衛の方々にお支払いしてはいかがでしょうか?」
「あ、そっか!・・・でも、それは先ずメリー達に渡したい、かな」
その言葉に侍女は号泣して殿下を抱きしめ、側で控えていた執事と侍女頭が目頭を押さえていた。
あ、この子めちゃくちゃ良い子だ。
最近当主様が商会立ち上げに奔走してると聞いたが、まさか殿下が関わっていたとは。この年齢で玩具のアイディア出せるってすごいな。読んでる本も分厚い歴史書だし・・・と思ったらもしやあれはソフィア前王妃直筆の教科書か!?え、読みたい!!
というかあれを読んで理解しているのか?確かに読みやすいと有名だが内容はかなり濃いと聞いたが。これはルーカス殿下同様、相当に頭の良い方のようだ。
あの馬鹿陛下に似た我儘な子どもとか考えてしまってごめんなさい。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
誤字脱字ありましたら、知らせていただけると大変助かります。
少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価、感想コメントなどをいただけると嬉しいです。




