絶対認めない(リディアナ視点)
「ーー・・・なんてことなのっ!!」
朝一番に届いたお父様からの手紙を読んで、わたくしは呆れと怒りの混ざった声をあげてしまいました。
内容は『オルステッド殿下の王位継承権復活を願う嘆願書が故意に隠されていた』、というもの。
ルーカス王太子殿下が亡き今、王太子はジークムンド殿下になる筈でした。
けれどお父様以外の『前王妃派』や一部の中立派の貴族、大きな商会を中心とした国民、更に他国の王侯貴族からテッド様の王位継承権復活の嘆願書が届いていたのです。
子爵家以下の貴族と国の商会はほぼ全部、他国の王侯貴族からの嘆願書も2桁を軽く超えているとのこと。
「テッド様の魔道具人気がこんな形で争いを復活させてしまうなんて・・・」
此処クワンドゥルス王国は同じ歳で複数王太子候補がいる場合、貴族投票で決めると国法で決まっております。
相当数の嘆願書が来ている時点でジークムンド殿下に勝ち目はありません。王もそれが分かっているのでしょう。
でもだからって隠してしまうなんて、やり方が幼稚すぎる。
「ジークムンド殿下のお呼び出しはきっとこのことだわ。お2人とも王位争いは望んでおられないもの・・・」
ーーコンコン
「どなた?」
「フェルルでございます。お嬢様、オルステッド様付きの影が参りました」
「あらっ!どうぞ入って」
「失礼いたします」
落ち込んでいた気持ちがフッと浮上します。フェルルと一緒に入って来たテッド様付きの影は笑顔でわたくしの前に跪きました。
「オルステッド殿下が無事寮に到着いたしました事をお伝えしに参りました」
「まぁ、ありがとう!いつ呼ばれても良いよう準備しておかなくてはね!」
「殿下のお好きな銘柄の茶葉とお茶菓子はすでに準備しております」
「さすがフェルルだわ!後は「失礼いたしますっ!!」
浮かれているところに窓を破る勢いでもう1人の影が部屋に転がり込んできました。ジークムンド殿下を調べさせていた、わたくし付きの影です。
「ど、どうしたのです、そんなに慌ててっ!」
「大変ですお嬢様!国王陛下とジークムンド殿下がオルステッド様に冤罪を着せて処刑する計画を企てております!!」
「なんですって!!?」
「エリス!!その情報は確かか!?」
「アリト?!何で貴方が此処に」
「良いから答えろ!!」
「た、確かよ!ジークムンド殿下のお部屋にオルステッド様が関わっていないのに署名がされた決算や買収の書類がたくさんあったの。明らかに偽造されたものだったわ!更に王と殿下が処刑を計画する密談も聞いたの、これが証拠よ!!」
エリスが取り出したのはテッド様がお作りになった音を記録する「カセトト」と、風景を記録する「キャメラ」という魔道具。それらで記録したということは、彼女の言っている事が事実だという事。
「まさか、そんな事にジークムンド殿下が加担されているなんてっ!」
わたくしが取り乱しそうになる横でアリトがフェルルに掴みかかり
「今すぐ俺を殿下の元に送ってくれ!!今お一人なんだ!」
「「「っ!!!!?」」」
恐ろしいことを言った。
テッド様が、今、お一人?
最悪の考えが一気に駆け巡ります。きっとここに居る全員が、同じ考えに行き着いたのでしょう。
皆がフェルルに飛びついたのと、フェルルが魔力を一気に高めたのは、ほぼ同時でした。
「フェルル飛びなさい!!!!」
「はいっ!!!」
風属性のマスターランクのみが使える『瞬間移動』。
一度行った事がある場所なら自分と他3名まで、瞬時に移動させる事が出来る魔法です。
お願い!間に合って!!!!!!
そんなわたくしの願いは届かず。
お部屋に着いたと同時に目に飛び込んできたのは、鋭い刃がテッド様の胸を貫く瞬間でした。
「テッド様ぁぁぁぁああああーーーーーーっ!!!!!!」
泣き叫ぶわたくしの横を3人の影が走り抜け、瞬時にテッド様を襲った悪漢を取り押さえました。悪漢共もわたくし達があまりに突然現れたので、大した抵抗も出来ないまま捕らえられます。
「アリト、殺してはいけません」
「止めるなフェルル。コイツらに生きている価値などっ!」
「気持ちは分かるけど抑えなよ!色々聞き出さなきゃでしょ!!」
影達の声が遠く、自分の心臓の音だけが嫌に耳に響きます。
「・・・テッド、さま・・・」
近付いて、声をかけても反応はありません。
お顔はたくさん血が流れた所為で雪のように白い。
でも、触れたらまだ温かくて。
でも、息はしていなくて、心臓も止まっていて。
「あぁ・・・そうだったのですね」
「お嬢様?」
「わたくしのこの力は、この時の為に・・・っ」
魂は、テッド様の優しい光を纏った魂は、まだ身体の中で光り輝いている!
「テッド様!!貴方様の魂は、わたくしがお守りいたします!!!!!」
魔力を最大限に高め、まだ輝きを失っていない魂を包み込みます。まるで薄いガラス細工にような、いえ、もっと繊細なシャボン玉に触れるような感覚。
シャボン玉・・・そうだ、これも貴方様が教えてくれた遊びでしたねテッド様。
わたくしはまだ、それを思い出にしたくない。
貴方様との未来を、諦めたくないの!!!
「テッド!!無事かーーっ!?!」
魔力を抑え始めた頃にカール様が部屋に飛び込んできて息を飲んでいました。あちこちに切り傷があって血が流れていますが、どうやらどれも軽傷のようです。
「カール様・・・今までどちらに?」
「ジークムンド殿下に知らせに行っていた。なのにどこにも居ないどころか変な奴らに襲われて・・・テッド、は・・・まさか・・・」
「お一人のところを襲われました。影も、テッド様に請われてわたくしのところにいたのです・・・」
「そんなっ!?・・・俺は・・・テッドの事も、守れなかったのか?」
膝から崩れ落ちて床を叩くカール様。影達も消沈して力の加減ができなかったのかどこからかボギッ!という音と呻き声が響きます。
「テッド様はご無事ですわ」
でも今は気落ちしている場合ではありません。ここからは完全に時間との勝負なのですから。
「・・・えっ!?」
「今わたくしが、テッド様の魂を保護いたしました。他の身体に移せば、テッド様は生き返りますわ」
ただこの保護も長くは持たない。早急に移動して新しい身体に入れ込まなくては、わたくしの魔力が強すぎて繊細な魂を傷つけてしまう。
「は!?え?そ、そんなこと、可能なのか?!」
「可能かどうかではありません。やるのです、絶対に」
失敗は出来ない、いや、しない。する訳にはいかないのだから。テッド様を失うなど、わたくしは絶対認めない!
「任せて、良いんだな?」
「はい」
「・・・分かった。テッドを、頼む」
「はい、その者達のことお願い致します。詳細は影達にお聞きくださいませ。もちろん、ここでの事は全て内密に。尋問と洗脳はそこの2人がそれぞれ得意としております」
「あぁ、分かった」
お互いに頭を下げ合い、わたくしはフェルルを側に呼びます。
「フェルル、まだ飛べて?」
「あと一度が限界でございますが、どちらへ?」
「お祖母様のところへ」
「了解いたしました」
フェルルがわたくしを抱き上げ、魔力を高めます。わたくしもその魔力が魂を傷つけないように、細心の注意を払って魔力の繭で囲って抱きしめます。
本日2度目の浮遊の感覚。
そして次に目を開けた時、目の前には巨大なドラゴンが横たわっていたのでした。
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