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 俺は集団へと向かって叫んだ。

 戦いの最中に危険? 知ったことではない。どうせチャンバラに過ぎないだろう。

 それに俺の為に用意された舞台なら俺が入っていかなければ始まらない。まぁもっと俺が慌てふてめく展開なんかを見たいのかもしれないが、こっちも腹は決まった。あえて雰囲気ぶち壊しな感じでしらけさせてやるよ。


 すると俺の声に反応したのか、戦っていた面々が一斉に俺の方を振り向くのが分かった。

 まぁそれなりの声量を出したからな、気づいて当然か。まぁ気づかないフリをされても訳わからないくらい叫び倒してただろうがな。


「おいおいなんだよその下手くそな演技はよ! いくらで雇われてるのか知らないが、よくそんな拙い演技し続けれるな! めちゃくちゃ爆笑ものだわ。まぁ顔だけはすごい真剣な感じだからそこだけは練習したのかな。というかこの後どうするの君たち? どっか飲みに行く予定とかある? 演技でたっぷり汗もかくだろうし、やっぱり水分は欲しいよな。となると鍋か? 鍋料理なのか? あれなら水分とタンパク質をいっぺんに取れるしめちゃくちゃいい感じだよな。よし! それじゃこの演技が終わったら鍋料理食いに行こうぜ!!」


 よっしゃ、雰囲気を完璧に壊してやったぜ。

 ここまでメタ発言されればもう演技する気力もなくなるだろう。

 演者さんたちには申し訳ないが、俺も素直に付き合うほどいい性格はしてないものでな。恨むなら上流階級の支配人どもを恨むことだな。


 そして俺の言葉が効いてしまったのか、獣人たちはぽかんと固まってしまっていた。

 だがそれも一瞬で、次の瞬間そのうちの何人かが俺の方に突っ込んできた。

 え! なに、そんなに怒っちゃった?

 いや、これもきっと台本にある動きなのだろう。

 大丈夫、ものすごい形相で本気で俺をやりにきてるような雰囲気だが、これもきっと演技の一環だ。まさか俺に本当に危害が及ぶということはありえないだろう。というかさっきは演技下手とか言ったけどそんなこともなかったかもしれない、やっぱりかなり上手いんじゃないか雰囲気づくりとか。さっきの発言は撤回だ、でもそうなると俺も演技に混ざりたくなってくるな。よし、とんだ茶番ではあるが俺も少しは協力してやろう、多分このまま攻撃してくるだろうから、思いっきりやられたフリでもしてればいいよな!


 そして先頭で突っ込んできた獣人の持っていたナイフが俺を襲う!

 おお、すごい迫力。

 でもそのナイフも所詮レプリカだろ? 適当に食らった雰囲気出して盛大に倒れてやろう。よーし見とけよ。


 グサッ


 ナイフは俺の胸に袈裟懸けに振り下ろされた。


「うわー、やられたあああ…………おえ?」


 ナイフはそのまま俺の胸をなぞった。

 ここまではいい。

 でもなぜ服が破けてるか。俺の服にそんな細工がされてあった? いや違う、これはたった今つけられた傷だ。それになんか胸が凄く熱い気がする。いや、熱いというか、痛い……?


「うぎゃ、うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ」


 ようやく自体を理解した俺は絶叫した。

 いたい、いたい、痛いよう!

 普通に胸が痛い! あれ? 血が出てる? あれ? あれ? 俺傷ついてる? なんで? 偽物じゃないの? ほんもの? そんなバカな、なんでそんなことが起こるの? おかしいよ、痛いんなんて聞いてない。ヤバい、死ぬ、死んじゃうよう……演技じゃねぇかよくそ!


 俺はもう感情がぐちゃぐちゃになっていた。

 つまりあのナイフは本物で、普通に振り下ろされたナイフは普通に俺の胸を傷つけたのだ。


「なん、で……」


 地面に転がる俺だったが、たった一度の攻撃で済むはずもなかった。

 無防備な俺に対し、さらに追撃しようと獣人たちが見下ろしてきている。

 俺は知らずのうちに死を覚悟していた。

 しかし、


「はあ! やあ!」


 そこにまばゆい一閃が差し込んだ。

 俺にすり寄る獣人どもの背後から、何者かが攻撃を仕掛けたのだ。

 獣人たちが首から血を吹き出しながら倒れていくのがわかる。


 ちらりと横目でみた視線の先には、戦場にて美しく剣を振るう一人の少女の姿が。

 赤色の髪に、ピンクの唇。

 肌は透き通るように白く、まるでこんな場所に似つかわしくない人物。


 けれど彼女は懸命に剣を振るい、背景に鮮血のアートを描いていく。

 それをなまる思考で、ぼんやりと俺は眺めていた。


 そしてどれだけ時間が経っただろう。


 気づいたときには怒声や金属のこすれる音は鳴り止んでいて、やけに静かな空間が場を支配していた。

 そんな中、転がる俺の元に、一人の人物がポツポツと歩み寄ってくるのがわかる。


「ねぇ、大丈夫?」


 その人物は中腰に俺の様子を見つめてくる。

 流し目で目をやれば、そこには陽の光の重なり驚くほど美しい輪郭を有する彼女の姿があった。これほど美しいものを今まで見たことがあるのかと思えるほどだった。


「女神……さま……」


 俺はそれだけ呟くと、みるみるうちに意識が闇へ滲んでいく。

 気を保ちたいと思えば思うほど、沼に引き込まれていくような感覚。


 しかしそんな感覚も一瞬で、次の瞬間には俺は意識を手放していた。

 世界に平和が訪れますように、アーメン。

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