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08 バグワザ連合軍

新章



 高校の授業も最近はリモート。外出の必要がないのでこちらとしては都合がいいのだが、どうにも家から出ないせいで自堕落になっていると常々思う。


 ああ、申し遅れた。申し遅れたのかもしれない。俺の名前は明日楽(アスラ) 奏間(ソウマ)プレイヤーネームはアズマだ。


 自己紹介はこれくらいにして本題に入る。俺はあれから……【ワールドリミックス】にログインできてない。



「目が覚めたら……バグで封印」



 俺にも人並みの恐怖がある。ゲームを起動した瞬間、バグって詰む。そう考えていると、あれから3日間あの世界に戻れなかった。



「俺には使命がある。ここに陥れた真犯人を探し、必ずや報復してやると……そうして晴れて元のサーバーに戻り、悠々自適なゲーム生活を送ると」



 その望みが一瞬で叶わないものになる。それは絶対に避けたかった。

 3日間策を弄した。なんとかバグを回避する方法がないか考えた。ネットの海に潜り込んだ。まとめwikiをあらかた目を通した。

 しかし……いっそ不自然なくらいに【アンダー】サーバーやバグ、チートのことは出てこない。

 そういうチャットやスレも内容は噂話の範疇を出ず。俺の検索エンジンでは検閲がかかっているのかというほどにヒットしない。

 つまり情報収集には失敗したのだ。台パンしたら机凹んだ。どうしてくれるんだちくしょうが。



「すーーーっ」



 意を決して、俺はVRヘッドギアに手を伸ばす。



「ええいままよ」



 運命に身を任せ、イントゥフルダイブ。





◆◆◆◆◆




 朝チュン。

 ベッドの上、窓から差し込む暖かい日差しの中、小鳥の囀りと共に目を覚ます。するとその傍らに美しい女性がいて……というシチュエーション。



「どうなっているんだ」



 そんな状況に、なぜ俺が?



「あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ!」



 俺の中のジャ〇ピエールポル〇レフが、状況説明してくれるらしい。助かる。



「俺は融合バグで詰むと思いながらログインしたら、白髪の魔女と朝チュンしていた。何を言ってるかわからねーと思うが、俺もなんでこうなったかわからねー」



 全然状況説明になってなかった。

 でもこれは全部事実だ。俺が見た事実をそのまま列挙したものだ。

 ログインするとそこはベッドの上で、その隣に魔女のような見た目をした白髪の女性が、俺のお腹あたりに頭が乗せて寝ていやがる。

 こんなの絶対エッチな人だ。魔女なんて属性の人はみんな痴女と相場は決まってる。



「……ん、んん……んぁ?おお、起きたか、キミ」


「……起きた。ここはどこだ。そしてあんたは誰?」



 寝起きの無防備感をこれでもかと見せつけてくる。イライラするぞ。色仕掛けも大概にしてほしい。

 そんな湧き立つ怒りを押さえつけて、俺は最低限の返事と最低限の文節で単刀直入に質問する。

 対して魔女はぐーーっと伸びて、体勢を起こすとにんまりと笑ってこう言った。



「私はなにに見える?」


「質問を質問で返すな」


「……」


「……」


「……ごほん。威勢がいいにゃぁ?そうトゲトゲしてると敵を作っちゃうぞ?」



 威嚇には動じない様子だ。言ってることはごもっともだと思う。その猫っぽい口調がわざとらしくって気に入らないが。



「私はジェリス。この見た目だから『魔女』って呼ばれてる。だからここは魔女の家ってところかな。他に質問ある?」


「なぜ俺はここにいる。想定だと黒曜石の中で詰んでるはずだったんだが……貴様なにをした?」


「えーと、融合バグの中に挟まりかけてた哀れな少年を助けて保護した?」



 そうか、この人、俺のことを助けてくれたのか。



「恩にきやす、魔女の姐さん」


「変わり身早いなキミ」


「ありがとうごぜぇやす」


「あんま褒められたことでもないよ〜?それ」



 このお方は命の恩人。まるで天使のようなお方だ。こんなのがエッチなんて言ってるやつは頭どうにかしてるんだ。俺が探してはっ倒してやる。



「しかしなぜ、俺を助けた。あんたに、魔女さんにそんな義理はないはず」


「たしかに義理はない。でも理由はあるの」


「その理由を教えてもらっても?」


「うーんそうね……ならその前にワタシとアナタの立ち位置を説明します」


「立ち位置?」



 カツカツとブーツを鳴らして、俺の視界の外へと言ってしまう。

 それを追うようにベッドから上体を起こすと、そこには大きな黒板があった。

 チョークの粉が大量に降り掛かってて、なにかの計算式のようなものがびっしりと書かれてる。


 そこに魔女さんは記号を記す。



「これがアナタ」


「……ただの丸だ」


「ちょっとしょぼいね。アホ毛でもはやそっか?」


「うむ」



 丸にアホ毛が生えた記号。これが俺らしい。

 次にその少し離れた場所に丸を複数、間隔を開けてランダムに書いた。

 俺とその丸の集団の間にvsと記す。



「アナタが対立したのは所謂チーター」


「チーター、チートをする人、あのハゲのことか」


「そ。でもハゲ達以外にもチーターはいる」



 丸の内の一つだけをばつ印を入れる。あれがハゲなんだろう。



「チーターは個人の力が強いから、あまり大人数で連むことはないけど、隊を作るのは一定数いるし、一応は取りまとめる総会みたいなのが存在する」



 今度は散らばった丸を一括りにして、"チーター総会"と呼称した。



「そのチーター勢力とやらは、この【アンダー】で随分幅を利かせてそうだ。あの末端のハゲですら強かったんだから」


「おやっ、なんで末端ってわかったの?」


「そうじゃないのか?頭悪そうだったぞ。どちらにせよ、俺とウ……いや、新入り1人相手にぶちのめされてる時点で程度が知れてる」


「うんうん。よく見抜いているね。キミのいう通りあのハゲはあれで雑魚だよ。つまりあんなのを超える奴がわんさかゴロゴロいるチーター総会はこの世界のヒエラルキーの頂点。最強勢力だね」


「わんさかゴロゴロ」


「可愛いでしょう?」


「可愛いですわね」



 あんなインチキじみたことを指差し一つでできるんだからわけない。アホでも最強になれる。チート能力で無双だなんてまるで将棋だな。なにが将棋なんだ?


 ところでいま、俺は反射的にウニ子の名を伏せた。この『魔女』が知ってるのならそれまでだが、どうにもこちらの情報を与えすぎるのはよくないと、直感がそう言ったのだ。



「そんな天下のチーター総会だけどね?実は最近は対抗勢力も増えて拮抗し始めてるんだ」



 大量の黒い丸……黒板だから白く塗った丸を作り出すと、それをぐるーーーりと囲った。そこに書いた勢力の名を。



「"バグワザ連合軍"!!個の力が強いチーター総会に対抗する圧倒的な数の力!!」


「数の力?」


「そう。このバグワザ連合軍は結成から今日に至るまで、チートを使えない全てのプレイヤーを保護し、自衛できるだけのバグワザを教え込む。そうして数が拡大させていった結果、いまや総会に匹敵する最大勢力になったわけ」


「……なるほど」



 流石に全部理解した。

 ここに落ちてきて間もない新入りで、かつチートと敵対した俺を匿う。この魔女って人はつまるところ。



「その連合軍の盟主があんたってわけか」


「そゆこと〜。キミぃ、さすがチーターと相打ちになっただけのことある」



 バグワザ連合軍筆頭盟主、通称『魔女』それがジェリスの身の上だった。



「さあ、ここからは一匹狼君に交渉だ。ワタシは割と頑張って詰みバグからキミを救ったわけだけど、出来ればその対価を払ってほしいなあって思うんだ」


「……うわぁ。恩着せがましい」


「ダメかにゃあ?」


「いや。借りがあるのは確かだ。だから内容による」



 魔女はコソコソ声でウィンクして、片手で断りをいれている。

 あのウニアタマに手を切られてなければ、こうなってなかったんだろうなぁと、若干の恨み節を残しつつ、俺は承諾することにした。



「なにをしたい?なにをさせたい?」


「まあまあ、ゆっくり聞いてよ」



 カツカツと、今度はすぐそこにあった机の上に、何故か置いてあるコーヒーメーカーと、マグカップに手を伸ばす。

 すでについであるのか、内容物をぐぐっと飲むと、要望を言って見せた。



「最近、"アカウント乗っ取り"事件が相次いでいる、その犯人を探してほしい」


「ほっ、ほーーーう」



 奇しくもその内容が俺の目的と一致してるのだから、つい笑ってしまうのだった。





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