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アカウントBAN〜バグとチートでぶっ壊れた世界に放り込まれた時の攻略法〜  作者: アスク
「ここに呼ばれた理由はわかりますね?」
6/26

06 無限リスポーンキル




「一緒にハゲを殺すぞ」


「よくもそんなこと言えたわねっ!!いやよっ!!アンタと協力する気は一切ないから!!」


「……」



 キッパリと断られてしまった。


 しかしそうは言っても俺たちはお互い同じ窮地に陥っている。

 であればここは二人で協力して脱出する方が生存確率が上がるので、嫌が応にも手を組まざるを得ないはずだ。



「ここから出る算段を立てるんだろう?俺も力になる」


「なにお高く止まってるのよ。あたし、アンタの力なんて借りなくてもここから出れるんだから」



 俺たちは今、黒曜石の箱に閉じ込められ、マグマを流し込まれている。ろくな掘削装備はなく、詰みに近いはずだった。


 しかしどうして、彼女は余裕綽々。

 壁を無造作にペタペタと触りながら歩く。何をしているんだろう。



「あった、あった」


「何があった、というかなにしてる」


「ふん、教えなーい」



 するとウニ子は足を止める。壁を触る手はそのままに、身体を押し込んで、勢いよく。


「せいっ!!」



 ブロックとブロックの間の僅かな隙間に自分の腕をねじ込んだ。

 まさか……バグか!?



「それじゃあね。ここで死ぬのはアンタだけよ」


「おい待て」


「待たない!!さよなら!!バーーカっ!!」



 腕の次は、肩、やがては身体全てが壁の隙間に勢いよく吸い込まれ、『ドゥドゥドゥドゥドゥドゥ』と低くて奇怪なSEが高速で刻まれる。最後にアデューと言い残して消える。


 これは間違いない。



「"壁抜けバグ"か!?────あっ。むむ、行ってしまった。弱ったな……」



 ウニ子は脱出に成功した。

 俺より遥かにバグについて詳しいので頼ろうとしたがダメらしい。

 苦戦を強いられる。時間もない。時期ここはマグマでいっぱいになる。


 そうなればもう、あとは死んで、生き返って、その瞬間マグマに溺れて、死んで、生き返って。それが永遠に繰り返されるだけ。


 ────無限リスポーンキル。


 成立すれば最後。俺たちはBANの向こう側、ゲーム永久プレイ不可という最悪な状況に陥る訳だ。


 足元にマグマが当たった。俺はダメージを受けた。ここは……ゲームの世界だ。マグマに飲み込まれるよりも先に、チクチクとダメージを受けてHPが無くなれば死ぬ。

 そう考えると思ったより時間がない……と?



「……」


「ウニ子?」



 何故かそこにはさっきぶりのツンツン二つ結びの少女がいた。ご立腹のようだ。



「どうした、逃げたんじゃないのか」


「死んだ」


「え?」


「外出た瞬間やられた」


「はぁ……」


「なによっ!!うるさいわね!!仕方ないじゃない相手はチーター集団なんだからっ!!あたしだったヘマの一つや二つするわっ!!」


「何も言ってないぞ、俺」



 ふんっ!!と鼻を鳴らして、どかっと地べたにあぐらをかく。腕を組んで、貧乏ゆすり。目も瞑っている。



「どうした」


「考え中!!」



 ここから出る方法を再び模索しているようだった。眉間にしわをよせている。多分なかなか思いつかないのだろう。

 ならばここは俺から仕掛けるしかあるまい。



「力を貸そうか」



 片眉をあげた。肩を揺らして、鼻で笑う。



「とんだお笑い草ね。アナタに何ができるって言うのよ」


「たしかに俺はこの世界の知識には明るくない」


「ほら」


「だが知識はなくとも知恵は出せる。違うか?」


「……」



 チートもバグも使えないが、俺には頭脳がある。あんな短絡ハゲの1人や2人、出し抜いて見せよう。



「何か策はあるわけ」



 ウニ子が食いついた。俺は頷いた。



「結論からすると壁抜けバグでは足りない(・・・・)。もっとインパクトが必要だ」



 監禁状態、外には複数人の見張り、この状況で逃げるのは難しい。であればもっと強力なバグ技がいる。

 迫り来るマグマをなんとか足で掻い潜る。温度が上昇していく。このゲームには高熱地帯でのスリップダメージがしっかりと存在する。それが身体を蝕んで、余命をゴリゴリと削った。



「ウニ子、お前はバグを再現することってできるか?」


「あたしを誰だと思ってんの?楽勝よっ」


「そうか、それはとても良かった。じゃあ手始めにゴリラの軍勢を作ろう」


「ゴリラが1匹もいないんじゃ無理よ、ばーーか」


「戯言のつもりだったんだが、1匹いたらできるんだな……」


「当たり前じゃないっ」



 ウニ子の実力の高さは窺い知れた。では可能性は全然あるだろう。



「さっきの繁華街で、5秒毎に爆散を繰り返す家を見た」


「あーー、あったわね、そんなのが」


「再現できるか?」


「なるほどね、あれをここでも引き起こせば」



 例え鋼鉄よりも硬く、テコでも動かない黒曜石ブロックを無限に爆散させ続ける事ができる。なんて魅力的インパクト。



「……たしかに、アレがあればハゲたちを一掃できるわ。けど成立させる条件がシビアよ」


「条件」


「あのバグ、複数の要素が絡み合って成立してるの」



 ウニ子が口頭で説明する。


「いい?構成する要素は3つ。一箇所に4種類以上の判定が重なる"融合バグ"、変な方向に物理エンジン働く"ベクトルバグ"、それでなおその場所に留まろうとする"座標バグ"」


「それを同時に引き起こす必要がある、と」


「でもあまり期待できない。そんな都合よく引き起こせるとは思えない」


 しかして諦めムードが漂っている。堂々巡り、問題は振り出しへ。これはよくない。

 そう都合良いことは起こらない。そんな簡単に条件を満たすことなんてそんな────いや、一つあるぞ。



「案外いける」


「えっ?」


「あれだ」



 俺はウニ子に天井を見るように言った。彼女はそれに従い首を持ち上げる。

 そして気がつくだろう。割とその条件を満たせる材料が、ここに揃っているではないかと。



「まさか……けど……」


「融合バグ、ベクトルバグ、そして座標バグ。必要な要素は揃ってる、あとは精度とタイミング」


「知ったような口を。簡単に言わないでよねっ、バグの再現ってほんとはめっっっっちゃ難しいんだからっ!」


「そんな超次元な技を容易くできる凄腕プレイヤーがいるらしい、誰だろう?」


「ぅぅっ……うっざっ!!いいわっ!!今回だけよ!!今回だけその口車に乗せられてやるわっ!!」



 ふんっ!!とぶーたれた顔をあさっての方向にむける。なんだかんだ俺の意見を取り入れてくれるだけの器量はあるらしい。

 さて。



最適解(パーフェクトチャート)が組まれたぜ」



 俺は"ソレ"を見ながらそう言った。



◆◆◆◆◆



 ハゲの男は、ヅラを被る。もちろん座標がズレてるせいで、頭の上に浮いてる状態なのだが。



「おやっさん!声が聞こえなくやりましたぜ?」


「リスキル成立か?」



 下っ端が声を上げる。黒曜石の鍋とマグマを用いて1秒足らずで生み出した空間。マグマが回るまで約3分を労することから、ここではカップラーメンと揶揄されたりする。


 声がなくなったのもちょうど3分。子生意気なガキがマグマの生き埋めになったのだと考えれば、思わず笑みが溢れる。


 今頃終わることのないリスポーンキルが繰り返されているのだ。



「アハハハハッ、なんどみても爽快だぁなぁ!!」


「ちげえねえ」


「ちげえねえぜ!!」



 ハゲとその仲間達は笑う。ここは【アンダー】。表の世界とは違う。こんなふうに特定プレイヤーをいじめたところで何一つ咎められることはない。

 運営に連れ去られることも、お仕置きNPCが召喚されることも、偽善ぶった自称良識プレイヤーの通報も恐れることはない。

 最底辺だからこそ、逆に自由。被害者にとって地獄みたいな場所でも、加害者からすれば天国だ。



「……おやっさん、なんでぃ?こりゃぁ?ブロックが一つべこべこ動いてますぜぃ?」


「なにぃ?」



 ところで責任のない自由とは無法である。無法がのさばる場所で、衝突が起きるとすればそれは、個人の正義と正義がぶつかり合う時。

 憲法もなければ法律もなければ世界で、他人を裁くのは超個人的な私刑である。そこに平等なんてありはしない。力が強い方が正義だ。


 ので、やる側はやられる覚悟もしなくてはならないというものだろう。

 【アンダー】サーバー、ここが地獄か天国かと問われると答えはノー。


 正解は……混沌(カオス)だ。



「────うぁっ!!」



 黒曜石の箱が足元から散体する。屋上にいたハゲとその仲間達はその衝撃に足を取られ、一気に外側へと放り出される。

 いきなりのことで身体の制御が効かない。ただ確かなのは、爆心地にいるのはツボに手を突っ込んで高速回転しながら飛ぶ少年と、それに抱きついている少女の姿だった。


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