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26 便利屋パープルとピンクのドア



 ウニ子に連れられてやってきた場所は、熱帯林の奥の方。川の側に立ち背の高い木の下に隠されたウッドハウス。階段を登ったその小屋に()はいるという。



「おお、来たか。黒色の嬢ちゃん」


「予定より遅くなったわ」



 そこに佇むのはボロい服を着た初老の男性。椅子にもたれかかり、眠そうにしながら、もしゃもしゃの頭を掻き毟る。かなり不潔感がある人物だったが、それと同時に場に緊張感を走らせるような貫禄を感じた。



「へー。そこの少年が噂の【大戦犯】かい」



 闇夜に光る梟の眼のような双眸が俺を捉える。なにか心臓に杭を打たれたかのように切迫する。どうやら身体が緊張して強張ってるらしい。

 これじゃあ俺らしくないな……。



「舐めるな。戦犯呼ばわりは勝手だが舐めるなよ」



 その瞬間初老の男性は吹いた。



「あっはっはっ、こいつぁ偉い大物をつれてきたなお嬢ちゃん」


「大物?雑魚カスの間違えでしょ」



 彼は爆笑する。俺には、なにがそんなにおかしいのかわからなかった。ので、こう言った。



「おい、笑うな」


「あはは、いや、すまん。いきなり人を笑うのも失礼だったな」



 彼は少し軽快に笑って挨拶をした。



「俺はパープル。二つ名は【便利屋】バグワザ連合軍にもチーター総会にも所属しない。正真正銘の中立。通ってる名になぞって、なんでもする。誰の願いだって断りゃしない。相応の報酬さえ積まれりゃ、ね」



 手を伸ばして握手を求めてくる。俺は……それには応じず、自己紹介で返す。



「俺の名はアズ……いや、ジョーカー」


「こいつ平気で嘘つきやがった」


「そうか、よろしく頼むよ。ジョーカー」



 パープルは俺の手を一方的に握ってきた。抵抗はしなかった。悪い気も良い気もしない。なんというか、こう、無だった。

 手を離すと次に彼はキッスの方を見る。



「会うのは久しぶりかな。メガネの嬢ちゃん」


「そうっすね……アンダー落ちたばっかの時は世話になりましたよ」



 二人が挨拶を交わす。これはのちに聞くことなのだが、キッスが今バグワザ連合軍に身を置いている理由は、パープルがジェリスに推薦したからだそうだ。



「それで、こんな愉快な雁首揃えて、なにかようかい。黒い嬢ちゃん」


「移動手段を確保したくて。場所はスナアラシ大渓谷」


「なるほど」



 このパープルという男は、短い会話でまるで全てを理解したかのように頷くと、腰掛けから立ち上がりインベントリを開く。



「なんだ、どこでもドアかなにかを出してくれるのか?」



 するとパープルはにたりと笑う。



「ご名答」



 本当に見覚えのあるピンク色のドアが出てきた。



「場所を唱えてレッツゴー。1秒足らずで目的にたどり着く。どうだい。飛行機や電車より快適だろう」



 バグやチートがひみつ道具みたいに便利なものじゃないと2人は言っていたが、前言撤回してほしいなと思った。

 だがこれで移動時間は大幅短縮するのでよしとしよう。



「ありがとうパープル、じゃあ遠慮なく使わせてもらう」



 と、俺はドアノブに手を伸ばすと、「待った」と腕を掴まれる。



「その前に、報酬をいただく。まさか、タダでいけるとは思わないでくれよ」


「ああ、レンタル料ってことか」


「そういうこと。一人当たり、30分で15000。どうだい」



 俺はふっ、と笑った。15000。余裕だ。ここはゲーム。モンスターを狩れば15000ジェニーなんて秒で稼げる。なんなら全プレイヤーが最初から90000ジェニー貰えるし、ログインボーナスで毎日1000貰える。


 というかこのゲーム、お金なんてものは全然利用しない。なぜかというと店で買うより自分で金を調達したほうが早いからだ。


 俺はインベントリからポンと、15000ジェニーの金貨の入った麻袋を渡した。

 すると、パープルが苦笑いする。



「面白い冗談だな。けどここじゃジェニーは使えない。単位が違う」



 彼はノーという。



「15000円。30分できっかり」


「おいおいおい」



 リアルマネーを払えと、こいつはそう言ってるのだ。



「ウニ子」


「なに?あんたの分?払わないわよ?それに、あたしはあんた達に付き合わずバグで移動したっていいんだからね?」


「じゃあキッス」


「自分の分は自分で払えって話ですよ。あっ、パープルさん口座教えてくだせえ」



 おいおい、ちょっと待て。勘弁しろ。15000?高すぎるだろ。ただゲーム内を移動するだけで、ゲームソフト2本買えるじゃないか。



「ウニ子、キッス。やっぱ歩こう。これはぼったくりだ」


「はぁ?こっちはもう払ったんですけど」


「嫌なら一人で歩いて、どうぞ」



 なんてことだ。遅かった。俺はパープルを睨んだ。



「詐欺師」


「ありゃ。人聞きが悪い。そうカッカしなさんな。そうは言っても、こっちも商売なんでね」


「ははっ、一つのゲームのほんの小さな界隈の中で"商売ごっこ"か。惨めだな。所詮はアカウントBANされた碌でなしというわけだ」


「ほう、自分のことを棚に上げてよく言ったもんだ。すごいな、ジョーカー」


「残念ながらお前と俺は違う。なぜなら俺は誤認BANだからだ」



 そう言ってみせるも、パープルは依然余裕そうに小さく笑う。



「知ってるよ。お前さんが誤BANっていうのはそこの黒い嬢ちゃんから聞いたさ」


「そうか。なら、聞いたけど信じてはない、といったところか」


「いんや?俺は信じるとも。というより疑う必要がない」



 すると今度は徐にタバコを取り出す。ライターと一緒に。このゲームは全年齢対象とされている。

 つまるところそのタバコは本来実装されてない代物言うわけで、MODの産物だ。

 ゲーム内ですらニコチンを求めるとはいかにも【アンダー】の住民。


 と、タバコに気を取られている場合じゃないと。パープルの方に顔を向けると、彼はこちらをじっと見ていた。そしてこう言った。



「大事なのは今どうあるかだ。過去がどうであれ関係ない。……お前さん、無実でアンダーに落ちたと言ったな」


「ああ、本当のことだ。俺は何もしてない」


「チートも?バグもかい?」


「ああ。生まれてこの方一度だってない」


「それはアンダーに落ちた後も継続できてるかい?」


「……あ」



 それを言われた瞬間、俺は言葉に詰まった。チートもバグを使ってないか否か。


 ハゲのチーターに襲われた時はどうか。あれはウニ子がやったからノーカウント。


 糞転がしに襲われた時はどうか。いや、あれはスカラベとこんにゃくが元からバグってるだけで、俺がバグらせたわけじゃない。


 フランキッスのバグ武器も同様だ。アイツがバグらせたものを俺が触っただけで、俺がやったわけじゃない。


 ああそうだ、俺はチートにもバグにも手を染めてない。善良で、純白な。



「その様子じゃできてないようだ」



 おのれパープル。ハメやがったな。



「悪かった。悪かったよ。あんたの商売にケチつけたことを謝る」


「いや、良いさ。元より褒められたもんでもないし、お前さんの言うことは妥当だよ」



 そうして俺は堪忍した。



「────少し待っていろ。金を引き下ろす。時間が勿体無いからウニ子とキッスは先に行ってろ」


「最初からそうすればいいのよ」


「さっさとこいよ、アズマ氏」



 二人を先に行かせて。





◆◆◆◆◆





 そう二人に行かせて俺は行かない。金なんて払ってられっか、バーカバーカ。



「残念。俺はタダ乗りの漁夫の利マンだからな」


「お前さん、小賢しいすぎないか?」

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