25 スナアラシ大渓谷
「……報告。俺は捕まった。助けろウニ子、キッス」
『ク ソ ザ コ』
『お前船降りろ』
【大戦犯】アズマへとヘイトは知らないうちに凄い勢いで高まり、街の至る所に罠が仕掛けられていて、そうなるとどうなるかというと割と簡単に捕まってしまった。
俺は地下牢の壁の中に無理やりめり込まされて、身動きができず、ログアウトとチャットでフレンドに助けを求める他は何もできなかった。
いや、フレンドはたったいまいなくなった。アイツらは酷い奴らだった。白状者はフレンドじゃない。
「おい!出せ!俺はジョーカーだぞ!!」
「黙れ!!テメェはせいぜいショッカーがいいところだよ!!イーーって言ってろ!!」
「イーーッ!!殴るなイーーッ!!」
「うるせえ黙れ!!」
「イーーッ!!」
イーッは痛えのイーッ。目の前に数名、俺に謎の恨みを持っているらしい。
「【大戦犯】よくもやってくれたな」
「俺は知らんぞ。恨むなら、チーター仮面を恨め」
「はん、知ってんだよ!!チーター仮面がテメェのせいで暴走してるってこたぁなぁ!!」
1人が壁から突き出てる俺の顔を一発ぶん殴ってきた。痛い。奥歯から血が滲む。
「お前のせいでな、俺はチーター仮面に串刺しにされたんだぞ!!」
「それは災難だったな。だが俺のせいじゃない」
「私なんかなぁ、植えていた花壇の花が死んだ猫と合体して訳わからないことになったんだ!!弁償しろ!!」
「おいまてそれ俺関係ないだろ」
「オレだってそうさ!!お前のせいで妹が軽蔑するようになっちまったんだ!!なんでだよストライプ柄のパンティは最高だろ!!」
「自業自得だ」
「おい【大戦犯】テメェSTAP細胞はあるって言ってたじゃねえか!!あれは嘘だったのかよ!!俺悲しいよ」
「お前はいつの話をしてるんだ」
「そうだそうだ!!。ワイなんて…………そうだそうだ!!」
「なにもないなら帰れ」
「おい、お前ら、9割俺のせいじゃないんだが」
「「「「全部【大戦犯】のせいだ!!処刑しろ!!」」」」
人間って怖いなと、思った。
いやしかしこのままでは不味い。処刑というのはつまり、引退に追い込むということ。
俺は、どんな理不尽や暴力にだって屈しはしない、が、詰みバグを成立されてしまっては、心があってもどうにもならない。
この状況を本格的に打開しなければ。
「────おい、なにか一つ勘違いをしていないか」
そしてこんな極限状態を切り抜ける方法はいつだって……ロジックだ。
◆◆◆◆◆
「嘘と出任せ言いくるめて脱出した」
『わーいおめでとー』
『ただの自己完結で草』
ありがとうウニ子。ありがとうキッス。俺はとても嬉しいぞ。
『で?街の様子はどう』
「傭兵の共通住宅地があったところ周辺が厳重になってる。まあ、つまり俺が借りてた家だった場所だな」
『了解、そっちを避けていけば問題ない?』
「ああ透明マントさえあれば」
まずは今の状況を確認しよう。俺は建物の壁を伝って、登っていく。やはり便利な透明マント。安心して行動できる。
城壁っぽい建築があった。見渡しやすそうなのでここを登ったというわけだ。
「俺を探そうと必死になってるな。はははっ、面白い。かなり大爆笑」
『アンタの笑いのツボがわからない』
『大爆笑(失笑)』
「じゃあ次、外の様子を確認する」
『了解』
◆◆◆◆◆
地上。入り組んだ洞窟を抜けて、地上に出ると赤い大地が広がる。
ここの空は青い。が、すぐ向こうの空の上は雲ではないもので覆い隠されている。
それは大地。天空にはプレイヤーが作った人工大陸が浮遊し、下の者の日照権を剥奪する。
もっとも地上に人の気配はないが。
「【アンダー】」
改めてその全景をみて、息を呑む。あそこに、山が逆さまになって配置されている。山が、だ。
北側の大陸は赤土が一切ない一面真っ黒。ぺんぺん草一つだって生えてない。焦土と化すなんて表現すら生ぬるい。吸い込まれるような真っ黒。破壊されたベンタブラックの土地。
そのさらに奥は明らかに直角な壁と無数の棒のような何かが反り立つ。遠近法がおかしくなりそうだが近づけばうん万キロメートルの標高がありそうだ。
「そうだ、報告。こっちは異常なし、あとはお前らがヘマせずに地上に登れるか」
『少なくともアンタよりは上手くやるわ』
『ウニ子氏に同じく』
「なんだそれは。まるで俺がヘマをしているかのような言い草だ」
『『ヘマしてんだろ』』
そういえばしてた。
◆◆◆◆◆
かくして、俺はウニ子とキッスの二人と合流した。地上に至るまで誰にも見つかることなく。ここまで順調と言った様子。
「【座標探知MOD搭載型探知器SEEKER/ver.2.15】起動」
あいも変わらず長ったらしい探知MODの正式名称の詠唱と共に起動したそれは、周囲に青い膜のようなものを展開する。
「このエフェクトも、キッスがわざわざ手間をかけて作ったのか」
「かっこいいっしょ」
「かっこいい」
本心かそう思った。手間をかけて作るほどのものかと言われたら微妙だが、時に効率や合理では推量れない価値というものは存在する。
「検索かんりょー。遺体の位置を割り出したぜぃ」
「ほう。どこだ?」
「スナアラシ大渓谷って場所」
「ほう。で、それはどこだ??」
俺はここに来てまもないので、地名を言われてもわからないのであった。
◆◆◆◆◆
【スナアラシ大渓谷】ここから数百キロ離れた場所に位置する。その名の通り大きな谷が荒野を真っ二つに分断している。
アンダーのグランドキャニオンといえばわかるだろうか。
ちなみにこのスナアラシの語源は砂嵐、ではなく、スナ荒らし。公式案件の配信者をスナイプし、チャットのコメント荒らしが酷すぎてBANされた名無しのプレイヤー。スナイパーライフルを持ち歩いているがその腕は鼻糞以下。
話を戻して大渓谷がどれくらい遠いかというと。
「なんだと、そのスナアラシ大渓谷に着くまでリアルで1時間?」
「普通に歩いたらね」
ゲーム内でリアル1時間を移動だけで溶かすなんてそんなのダメすぎる。
「徒歩以外の移動手段ってあるのか」
俺はそう聞いた。
「ある。つーか表サーバーでも馬使ってたっしょ、アズマ氏」
「馬もそうだし。あと鳥で飛ぶのが最速じゃない?長いことここにいるから忘れたわ」
「そうなのか。知らなかった。ありがとう長期懲役共」
「感謝の後に悪口をつけるのはどうかと思うんすよ」
「てか、なんでアンタ知らないのよ」
「それを知る前にBANされた」
「「懲役お疲れ様でーーす」」
「黙れ。はやく馬出せよ、馬」
移動時間を短縮できるなら越したことはない。俺はすぐに指示を出す。
そしたら殴られた。誰も指示に従ってくれなかった。
「馬持ってねーですよ。あっしは」
「キッスに同じく。てか移動なんて加速バグで済ませてるから」
「ならウニ子、俺をおんぶして加速しろ」
「物理的に無理。加速バグは腹這いになってないといけないから」
「物理的不可能を可能にするのがバグやチートじゃないのか」
「あのね、バグもチートもそんなひみつ道具みたいに便利なもんじゃないんだわ」
「け、つかえないな」
「お前がそれいっちゃう??」
まるで俺が無能みたいな顔でこっちを見るな。俺は有能。ど有能だぞ!
「まあ落ち着いてくだせえよ、アズマ氏」
と、ここで抑えに来たのはフランキッスだった。彼女はウニ子と俺の肩を叩きながらこう言った。
「なにも歩きと決まったわけじゃない。ウニ子氏が移動手段を確保してねーわけねーですよ」
俺は改めてウニ子の方を見た。
「そうなのか」
「あったりまえじゃない。どこかの無能とは違うのよ」
「どこの無能だ?」
「お前だよ阿呆」
俺は阿呆で無能だったらしい。
「ついてきて。今からある人を紹介する。キッスはよく知ってると思うけど、そこのクソッタレのドクズは会ったことないでしょ?」
と、俺のことを酷い名前で呼びつけながら、ウニ子は歩き出した。とても腹立たしかったが、今は従うことにした。




