24 探知mod
「これが探知器?」
「【座標探知mod搭載型探知器SEEKER/ver.2.15】だよ。正式名称で呼んでくれたまえ?」
「長いわよ」
「小難しい」
「はぁ、これだから素人は」
キッスが作り上げた探知器、なんとかかんとかシーカーなるものは、一言でいえばトランシーバーみたいなものに円形のレーダーマップがくっついたよくあるやつ。
「スイッチを押してメニューバーを開けば座標コードが出てくる。そこに対象物の種族番号、つまりこの場合はプレイヤーが属する数値を当てはめる。そこから条件をログアウト中に絞り込むために、1.2815220698から始まるコードを打ち込んで────」
「長いわよ」
「小難しい」
「はぁぁっ、これだから素人は!!」
その辺のことは全くもってよくわからないので、キッス本人に任せることにした。
「まったく。逆探知されないなんてホイホイ簡単に作れると思わねーでほしいですよ」
「やはり、苦労したのか。プログラミングは難しいな」
「いや別にコード組むのは楽勝っすよ」
「え」
「こう、逆探知防止の機能を組み込みつつ、いかにコンパクトにアイテムとして創作に落とし込むか。いやぁ良い感じのテクスチャーをくっつけるのに苦労したんですよぉ。なにせ3Dグラフィックアートは専門外ですしおすし」
「……」
「見てくださいよこの美しさ!!これぞ世界観を壊さない見た目、それでいて欲しい機能全てを兼ね備えた上で掌に収まるフィット感!!うーんたまらんですばい!!」
それってつまり要するに。プログラミングはすでに出来ていて、それをゲームチックなアイテムとして落とし込むのに時間がかかったと?
「キッスよ。これ探知器っていうアイテムの形にしなくてもコードさえ有れば完成ではなかろうか」
「今回ばかりはこのバカに賛成。なんでデザイン性を突き詰めるのに時間かけてんのよ」
「もっと言えば探知器と逆探知防止機を別々に作った方が良かったのではなかろうか」
「あぁあぁ!!!なんじゃおどれぇ!!!わたしの作品にケチつけるってぇのかぁぃ!!!」
「だってこれ時間の無駄だろう」
「はぁっ!!」
キッスはクソでっかいため息をついた。次の一言は「やれやれこれだから素人」とでもいうのだろうか。
「やれやれこれだから素人は」
言った。
「そんな意見、一瞬で黙らせてやりますよええ。これを見ればアッと驚き。手のひらドリル間違いなしですわぁ」
「……ウニ子。これ期待して良いのか」
「あたしはしない」
徐に探知機の裏側の、赤色のスイッチみたいなのを押した。すると、がしゃりがしゃりと音を立てて、なんか四つに分岐して……。
[アイエーム、コンボォイ!!]
「イェア、トランスフォーム」
[「FOOOOOO」]
ドヤ顔だ。すごいドヤ顔だ。「かっけえ。めちゃくちゃかっけえとしか言いようがないっしょ?」とか言ってそうなぐらいのすごいドヤ顔だ。
「ああ、謝らなくて良いよ。作品というものは評価が反転することがあるからね。わたしだってこう言った経験は一度や二度ではないさ」
「「あの」」
「なんだねおふたりさん?」
「「この機能いる?」」
バァン!!と机を叩く音がリビングに響き渡る。
「あぁ!?ぽまいらロマンがたりねーでござるよ!!」
「「ロマン」」
激昂、そして熱弁。フランキッスが見たことないぐらい眉間に皺をよせ、顔を真っ赤にして語り始めた。
「ただ探知機を作るだけなら簡単さぁ!!けどんなもんはそこいらの不正野郎のやること……!」
「【アンダー】落ちしてる奴がなんか言い始めたぞ」
「それな」
「聞けぃ!!」
再び机を叩く音。
「わたしはこの探知器をmodとして扱っているッ……!!チートではなくッ!!」
「modとチートはほぼ同じでは」
「ほぼ同じだが違う!!チートとは、『ゲームの難易度を都合よく下げ、やり易いようにする為だけの卑怯な行為』を指す!!
対してmodは『ゲームの難易度うんぬんではなく、より楽しめるようにするための行為』を指す!!
プログラムへ触れるという本質は同じでも!!その在り方や意味合いには明確な違いがあるので同じにしてはならないッ……!!
この探知器にmodという名称をつけた以上は、娯楽や創造性を捨てることは許されないッ!!このフランキッスが許さないッ!!」
フランキッス、両手を広げる。
「わたしはこれらを"作品"として昇華する!!不正野郎が作る面白さのカケラもないチートとは根本からゲームに対する"リスペクト力"が違うのだッ!!」
「おお……」
凄まじい覇気だった。流石に俺にもわかる。これは矜持だ。彼女が持つ、絶対に譲れないものなのだ。これを無碍にすることはできない。
なあ、そうだよな。ウニ子。お前もそう思うよな。ウニ子?
「……お前の姿勢。ビシビシと伝わってきたぞ。すまなかった。俺の方が間違えてた」
「わかりゃいいんだぜ、兄弟」
俺たちは固い握手をした。
「(えっ、なんか、アホふたりが共鳴したんだけど)」
「ウニ子」
「……あっ、なんか、ごめんなさい」
「わかればよろしい」
うんうんと頷いてくれた。キッスの心が広くてよかったな。
◆◆◆◆◆◆
かくして探知機が完成し、いよいよ遺体回収作戦に乗り出そうかと、思ったが、キッスが待ったをかける。
そうして取り出したのはもう一台の探知機だ。
「二つ作ったのか」
「緊急用の予備で。あとはコイツをどうやって作品として昇華させようか」
「もういいでしょ、それはそのままでも……」
「まだわからねーんですか?ウニ子氏。ロマンなくしてMOD足りえない」
これはもう曲げられない矜持だ。ならば俺も全力で知恵を絞り出し、この2台目に相応しいテーマを飾ろう。
「2台目は変形するのか」
「ちっちっちっ。よーくみてくださいよこのボディライン。変形なんか必要ない」
2台目をまじまじと観察した。丸い、球体。一見するとそれ以外に出る感想はない。
しかし俺は直感でその答えを弾き出す。
────ああそうだ、そうに違いない。間違いなくこれは!!
「it'sピカチュウ!!」
「上から見たプリンです」
「ファーーーーーーッ!!!」
「なんなのこの2人」
惜しかった。とても。
「これはポキモン型探知機。元よりアンドロイドと一体化する自律型デバイス。人工知能を搭載しているのです。私たちの相棒ってわけでごぜーますよ」
「すごい。しかし"ポケモン"はまずくないか?」
するとキッスはノンノンと首を振った。
「ポケモンではなくポキモンです」
「なんの略?」
「ポキッと中折れ悶スター」
「もっとアウトじゃないか」
「しゃーないです。25年間もヤってたら流石に折れても致し方なし。お疲れ様ってわけですよ」
「その話なら中折れどころか最後まで貫いていると思うぞ」
「なんの話ししてるのあんたら?」
ウニ子にはわからないだろうが、旅の終わりというのは寂しいものなんだ。仕方ないんだ。
肩をポンと叩くと、「なんなのよ!!」と振り払われた。
「ま、見た目の話は置いといて。この2号機は人工知能があるアンドロイドなんでね。つまり入れてーわけですよ。機械音声を」
「なるほど。じゃあ……どうするんだ?」
「鈍いですねぇ、収録っすよ、収録」
キッスが空中でウィンドウ操作すると、スピーカーのようなアイコンがデカデカと表示される。その横にはバーが3本くらい伸びている。
手元にはマイクらしきもの。息をふっ、ふっ、と吹きかけるとそれに応えるようにバーが伸びたり縮んだりする。
「よしきた。ならば俺の出番か」
「ちげーっすね」
意気揚々とマイクを握ると、キッスはぶん殴ってきた。痛い。どうして?
「誰が野郎のVoice聴いて喜ぶんですか。声当てはウニ子氏に決まってるでしょうに」
「は?解せんな。俺はこんなにも美声だ。アーーっ、アーーっ、ヨロレイヒー」
「カッスカスじゃねーか」
お眼鏡にはかなわず、キッスは俺を素通りして、後ろにいたウニ子にマイクを渡す。急すぎて困惑しているようだ。
「え、なに、あたしが声やるの?嫌なんだけど」
「じゃあ、いきまーす。ごー、よん、さん」
「ちょっ、待ちなさいよキッス!!」
「にー……」
いち。と言わずに収録スイッチを押す。
◆◆◆◆◆
Q.お名前は?
「え、なに。モルガン、ですけど」
Q.出身地は?
「な、なんでそんなこと……と、東京?」
Q.おいくつですか?
「じゅっ……十八だけど……」
Q.こういうの初めて?緊張してる?
「初めてだけど。え、なんなのこれ?」
Q.じゃあまず上脱いでみようか
「なんなのこれ!?」
◆◆◆◆◆
「ちょっとまって、ねえ、なんであたし脱がないといけないの?」
「しまった!やり方を間違えた!!……肝心なサンプルボイスも微妙だったでござる。ごめんウニ子氏」
「取り直しだな。ウニ子先輩、頑張れ」
「いや、もういやっ!!めんどくさいわこんなの!!」
「そこをなんとかですね……」
「いや!!」
ウニ子は断固として突っぱねてくる。キッスも食い下がる。
「お願いお願いお願い!!」
「ダメだってのっ」
「で、でもよぉ、ウニ子ぉ、折角組んだ自律思考プログラムがぁ……」
「安いもんでしょプログラムの一つや二つ。もう恥ずかしいからあたしはいや」
「たっ、頼むよぉ」
あまりにも惨めなキッスはみてるこちらも耐えかねる。俺も頭を下げた。
「ウニ子、キッスは頑張ったんだ。俺もできる事なら何かしてあげたいが……野郎だからできない。声を当ててやってくれないか」
「おねげーだ……あたしゃどーしてもポキモンに声をあててぇんだ」
「……」
「俺からも頼む」
「本当に頼むぜっ!!私の今後の生きる糧なんよ、これはさ」
「……ぁああああっ!!クッソが!!あんたら良心に訴えかかるような目をしないでよ!!断りづらいじゃない!!」
ついに押し切った。マイクをもう一度握った。それでこそウニ子だ。
◆◆◆◆◆◆◆
「では再収録といきますぜ。セリフのカンペをこっちから出すんで、読み上げておくんなまし」
「はいはい」
キッスが録音のアレコレを動かしカンペを出す。俺は出されたカンペをそのままチャットに打ち込み、ウニ子がチャットを見て声を当てる完璧な布陣だ。
さあ、いよいよMODを完成させようではないか。
「そんじゃ、いきまーす。ごー、よん、さん、にー……」
いち。録音が始まった。チャットを送り込む。それをみたあと、ウニ子は口を開ける。
「『【座標探知mod搭載型探知器SEEKER/ver.2.15】システム、オールグリーン。プログラムを起動します』」
「……どう?」
「すげえ」
「う、うめぇ過ぎて言葉を失ったぜ」
「そ、そう?」
はっきり言おう、ウニ子のアテレコはバリくそ上手かった。機械音声的な淡々とした読み方をよく再現できている。
普段のぎゃみぎゃみ言う感じからは想像できないほど、冷徹な、アンドロイド的な喋り口調だった。
「つ、次、いくっすよ、どんどんいきましょ」
「わかったわ」
再度キッスが合図を送る。ウニ子が手早くマイクに口を近づける。それに合わせて俺がチャットを送る。いいね。興が乗ってきた。
「『周辺の位置情報を検知、ログイン状況を確認、算出中……算出中……算出中……発見。座標情報を表示いたします』」
「……こんな感じー?」
「いいよ、いいねぇ最高だよ」
「エクセレントだ」
「そっ、そぉーう?」
「んじゃ、この調子で1番むずいのいっときますか」
「わかったわ、任せて」
だいぶ慣れてきた。流れを掴んだのかウニ子もすぐに声を整えて次のセリフを読み上げる。ごほん、と、咳を一つ。
「『センシティブモードに移行します。直ちに服を脱ぎ、局部を露出してください。ではカウントダウンに入ります。いいですね?マスター。ワタシがイッていいって言うまではダメですからね』」
「……」
「……」
「……」
「あの、無言でグッジョブするのやめてくれない?なにこれ?」
「っしゃあ!!そんじゃあ次カウントダウンいこうかぁ!?ウニ子氏ぃ!!」
「え、ちょっ、まっ、ごほん……かっ『カウントダウンします。マスター、我慢してくださいね』
『じゅーーう、きゅーーう、はーーち……なーーな、ろーーく、ごーー、よーーん……さーーん、にーーい、いーーち……ぜろ。ぜろ。ぜろ。ぜろ』
『ぜろっ、ぜろっ、ぜろっ、ぜろっ、ぜろっ、ぜろ……』
「……」
「……」
「……」
「あの、なんでこんなにゼロ数えてるわけ?」
「あぁぁっ。こりゃぁっ────"悦"だね」
「おっ、そうだな()」
「ねぇ?キッス。もしかしてアタシのこと嵌めた?」
その場に残るのは、無言で頷く俺と、下唇を噛んで畜生と叫ぶウニ子だけだった。フランキッスは興奮による温度上昇で体が融解して逝き、帰らぬ人になった。酷いHENTAIだった。
◆◆◆◆◆
「────ではこれより、遺体回収作戦を開始する」
俺は、高らかに宣言した。
「おい、なんでオメーが指揮ってんですか」
「ほんそれ、ぺーぺーは引っ込んでなさいよ」
「うぐっ」
ウニ子とキッスが俺の頭を掴むとそのまま座らされた。何故こんな扱いをされなければならないのだ。この作戦でもっとも重要なのは誰かわからせる必要がある。
「おい、俺はジョーカーだぞ」
「だから?」
「もっと敬うべきだ」
「はっ!!誰が?アンタなんか敬うもんですか!!」
「道化は滑稽であってしかるべきっすよね、バカなの?死ぬの?」
「俺はバカじゃない」
「「じゃあ死ね!!」」
ダブルパンチで突っ伏した。もう少し優しくしてほしいなと、思った。
「それじゃジョーカー(笑)。地上に出てくれない?今からあたしたち回収しに行くから」
「よしきた。任せろ」
ゆるりと立ち上がって、服についた埃を払う。身だしなみを整えていざ出陣。
「じゃあ、絶対に生きてまた会おう」
そうして軽やかに基地の外へと出ていくのだ。
「あいつクソでっかいフラグ立てていったわ」
「オワタよアズマ氏」




