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22 壁抜けバグ



「何も見えない」



 俺は、今目隠しをしている状態である。



「今から、ある場所にいきます」



 フランキッスがそう言った。



「ある場所とは」


「秘密基地」


「秘密基地?」


「わたしが作った隠れ家ってーやつですよ」


「そんなもの持ってたのか」


「逃げ場所ぐらいないと……流石に心折れてる」


 そうか、フランキッスはそのmod技術から、色んな人に付き纏われていると聞いた。さっきの姫様たちもそうだろう。

 であればそういう場所の一つや二つ持っていてもおかしくない。

 透明マントなんて作れる技術者なら尚更。

 しかし彼女も頑固なものだなと思った。それだけこのゲームが好きなのに違いない。



「わくわくしていた」



 秘密基地という響きもそうだが、こうして目に布をあてがわれているのがより高揚感を演出する。


 例え仲間であっても秘匿する。故に秘密。これが少年心をくすぐる。



「そこに立ってくだせぇ」


「こうか」



 指示されるまま、直立不動。今から何をされるのか、全く検討もつかな……。



「んがっ!!?」



 突然、後ろから押されて、全身をなにかが叩きつける。主に顔面が痛い。



「おい、フランキッス、なんだんがっ!!?」


「……」



 再びぶっ叩かれる。目の前にあるのは壁か。壁に何度も叩きつけられている?



「ちょっ!!いでぇっ!!んがっ!!?」


「あれ……おかしいですぞ。せいっ!!せいっ!!せいっ!!」


「バッ……あがっ!!ごべっ!!のほっ!!」



 全身青あざだらけになりそうなぐらいの衝撃を一通り受け続け、ようやく止んだと思えばおもくっそ大きなため息が聞こえた。



「……説明をしてくれ」


「壁抜けバグできねーんですが」


「……」


「……」



 パシン。ほおが熱い。



「クソ」


「これ、俺が悪いのか?」



 

◆◆◆◆◆◆◆




 俺が壁抜けバグに成功するまで10分以上かかった。やれ肩の力を抜け、やれもっと念を込めるように、などと注文してきたが、結局抜けられる壁の場所がズレてたというオチだった。


 ややあってようやく秘密基地内部に辿り着く。そこは基地という単語からあまりにも離れる上等な4LDKの部屋だった。

 

 そしてそこにいるのが事情を一通り話してなお不機嫌そうなウニ子の姿だ。腕を組んで、指をとんとん動かしながら壁にもたれる。



「キッスぅ?これはどーゆーことなのかな?」


「んひっ……すびばぜん」



 ウニ子が、フランキッスに問う。これは長い話になりそうだ。ならば俺はその間にこの部屋を散策することにしよう。おおあんなところに変な爆弾見たいなオブジェが飾ってあるぞ?



「なんだこれは」


「そこ!無闇矢鱈に触らないっ!!」



 ペチンとおでこを叩かれる。12ダメージ。



「なんでこんなやつ連れてきたのよっ!!」


「ちゃ、ちゃんとバグ使ったし、この人には目隠ししたし……」


「当たり前じゃない!!ここがバレたら何のための秘密基地よっ!!」



 止まらない叱咤怒号。するとウニ子は俺の胸をバチンと殴って、こう言った。



「いい?コイツは『大戦犯』なのよ!!そんな奴仲間にできるわけないじゃないっ!!」


「それは悲しいな」


「黙って!!」



 シャラップである。いま、この場の空気を支配しているウニ子は、俺の発言の一切を許す気がないのだと悟った。

 ので、代弁してもらおう。キッスに目配せした。



「えぇっとですねぇ……確かに『大戦犯』ですがぁ……囮として運用すれば絶大な効果を発揮するといいますかぁ……」


「はぁ?」


「ほら、道ゆく人全員から狙われてるし?コイツがでっかい的になってくれれば、わたしたちも行動しやすく、なる」


「……」



 じとーーっと、チベットスナギツネみたいな顔をして俺を見る。いいだろう?最強の駒だぞ?



「バカっ!!コイツを囮として運用する以前に関わることそのものがリスキーってわからないのっ!?」


「ど正論いたれりつくせり」


「アンタは黙ってなさいっ!!」


「でも、数回は逃げ切れるって」


「何を根拠に!!」


「……実際それでわたしを助けてくれた」


「……」



 キッスはキングたちに囲まれて危うかったところを俺が出しゃばって解決したあの件を話す。

 俺の気持ち的には別に助けたわけじゃないが、状況として、そうとも捉えられる。


 彼女がここまで譲歩し、交渉にまで答え、あまつさえ秘密基地にまで招き入れたのは。なんだかんだ恩があるからだと思う。



「ウニ子、俺は使えるぞ。今回も、知恵は貸せる」


「はっ!!またあのクッソみたいな悪知恵?」


「勝てば官軍負ければ賊軍、悪知恵でも構わないだろう?」



 やはりハゲチーターにしてやったりした出来事、あの功績が残っている以上、俺の言葉にはそれなりの説得力が乗る。

 さて、ようやく会話できるまで、ウニ子が降りてきたか。一音発せば「黙れ」と言われていたら説得の余地もないのでな。



「さっき関わるのはリスキー、とは言ったが、囮としての運用することそのものは否定しなかったな」


「それがなに」


「そのリスクを無くすことさえ出来れば、コイツは本当に便利だな、と、暗に考えているんじゃないのか?」


「知ったような口聞かないでくれない?」


「この秘匿性の高い秘密基地をリスポーン地点に設定し、俺を匿えば、無限に出張しては死にを繰り返して、場を引っ掻き回し続けるジョーカーが完成する。その事に気づかないウニ子じゃないだろう?」



 さっきの気を引きつけてからの、自害してリスポーン逃げの発展版、とも言うべきか。

 

 こんなにも、俺というヘイトタンクと組み合わせるのに都合のいい拠点を持っているのなら、フランキッスの交渉に乗ってくれたという判断にも真実味が増す。



「自分のことジョーカーっていうセンスはどうかと思うわ」


「かっこいいだろう」


「……ほんと、悪知恵だけは一丁前ね」


「ありがとう」


「それ以外はクソ無能もいいところって皮肉なんだけど。わかんない?」



 知恵を評価されるのは嬉しいのに。皮肉だなんて。

 素直に人を褒められないのだろうか。ウニ子は照れ屋さんなんだなと思った。



「……それで、ここまで散々やってきたわけだけど?アンタの目的はなに?『大戦犯』って言われるぐらいやらかして。藁にもすがる思いであたし達を頼りにきたようにしか見えないわね?この寄生虫」



 ふんっ、と見下したような態度を取る。なるほど寄生虫と言うか。確かに俺の性根にピッタリなあだ名だ。

 いつだって他者の力を利用し、自分の有利な方向に事を進める。その為にはどんな手段だって厭わない。


 寄生虫は、かっこいい。なんだ、素直に誉めようと思えばできるじゃないか、ウニ子よ。


 しかし今回、俺は首を横に振った。別に寄生虫であることを否定するわけじゃない。

 単に藁にもすがる思いは別に抱いてないということ。

 あのやらかしを挽回したいなんてことも微塵も考えてないことを伝えたいからだ。



「ウニ子。俺の目的はただ一つ、変わっちゃいない」


「はっ?」



 数秒、ウニ子は唇を手で押さえて考える。そしておそらく、答えにはすぐ至るだろう。



「まさか、アンタ。アカウント乗っ取りの真犯人を暴く、って目的をまだ……?」


「ザッツライト」



 なるほどねぇと、今までも細めていた目を今度は瞑り、はぁ、と心底うんざりそうなため息を吐いてから下を向く。



「どうりでキッスが口車に乗せられるわけだわ」


「それとも、この目的が嘘だと思えるか?」


「別に嘘とは思わないわ。けど……はぁ、もういい。どーせ行動方針はキッスになるべく従うっていう契約だし。好きにすればいいじゃない」


「おぉっ……とっ、とゆコトは……ウニ子の旦那!!」


「キッスまでその名前で呼ぶなっ!!」



 その辺の棚に置いてあった本を投げられる。何故か俺の方に。2ダメージ。



「精々その木偶の棒を使って頑張れば?ったく」



 俺とキッスは目を合わせる。が、次の言葉で釘を刺される。



「あっ、けど、くれぐれもアタシの半径5メートルには近づかないでよねっ!!こんな奴の仲間と思われたくないからっ!!」



 ふんっ!!と、唇を尖らせて、顔を横に向ける。そんなに俺が嫌いなのだろうか。



「ありがとう」


「なにそれ?なんの感謝?ウザっ」



 俺はやっぱりウザかった。


 ツカツカと歩いてリビングにあるソファにどかっと座り込む。それからテレビをつけて完全リラックス状態となる。

 ちなみにテレビに映るのはネットに直接繋ぐことで閲覧できる動画配信サイトである。そしてゲーム内ネットサーフィンはmodによるものである。

 うーんなんという違法視聴感。


 俺はキッスと改めて顔を見合わせる。



「じゃあ、これからよろしく頼むぞ」


「あぁ、ぁぃ、よろしくども、乙です」


「おつ」



 交渉成立。そして固い握手を交わすのであった。



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