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21 透明テクスチャ





「言っとくが俺は、この遺体争奪戦において最強のカードだぞ」


 そう宣言した。するとフランキッスはいやいやいやと首を横に振る。



「なーに言ってるんですか大将。『大戦犯』なんて肩書きがある人が強いわけねーでしょ」


「どうだか。実のところ俺はチーターを返り討ちにしたことがある。その功績を買われてジェリスにスカウトされた」


「嘘定期。なにこの人隙あらば嘘つくじゃん……」



 嘘じゃない、と言い返すことはしなかった。なにせ、こんな後出し情報で説得するつもりもないから。



「ひとつ、フランキッスはいま他のプレイヤーと違って勝っているものがある、そうだろう」


「mod技術のことかな……それなら、YES。YESですがなにか」


「なら重ねて聞く。そのアドバンテージは、チーター仮面が上で暴れ始めてようやく発生したもの、違うか?」


「……物はいいようですぜ」



 実はそうなのである。

 遺体を探すだけなら勇者御一行ですら容易くできるのだ。元はと言えば俺はそれがあるからサブローたちについてまわったわけで。


 じゃあ何故フランキッスだけが優位に立てるかというと、チーター仮面がいるからに他ならない。



「奴に逆探知されずに、遺体回収ができる現状唯一のプレイヤーで、そこに優位性を見出している、それがお前だ……」



 畳み掛ける。



「そんなお前に有利なこの状況を生み出したのは、誰か?そう、俺だ!!」


「物はいいようですぜ!?こんなん詐欺でしょ……!?」



 詐欺とは失敬な。嘘は言ってないだろう?



「事実、チーター仮面の暴走は俺に起因している。奴の最大の狙いは俺を"殺す"こと……これの意味するところは、わかるな?」


「……チーター仮面は、アズマ氏を優先する」


「ご明察通り。つまりお前が今目の前にしているのは、チーター仮面を利用し外の戦況を操ることさえできる最強のカードだ」


「んなうまい話になるかぁ!!誇張表現!!それにそんなもんなくたってわたしは、チーター仮面に見つからないんだよ……!!」



 ふむ、それもそうだ。だが。



「チーター仮面に見つからなくても、同じ連合軍のメンバー相手にはそうは行かないだろう」


「ぐっ……」


「例えばなんらかの方法でお前の障壁になる連合軍メンバーがいるなら、俺を差し向け、チーター仮面を引き寄せて諸共、破滅させることができる」



 一例だ。必ずしもそうはいかなくとも、場合によってはそんな使い方もできる、かもしれない。



「そんなうまくいくわけ」


「そうだな、これだけだと現実的じゃないかもな」



 チーター仮面を引き寄せるというだけなら難しい話かもしれない。が、俺の価値はそれにとどまらない。



「俺は『大戦犯』。なんと不思議なことに連合軍のほぼ全員に恨まれている。どちらからにも狙われてるなら意図的に鉢合わせにするのも容易い」



 手と手を擦り合わせて潰すジェスチャーをしてみせた。



「競争相手を牽制するのは基本だろう?身代わり、あるいは隠れ蓑としてこんなにデカい的は他にない」



 俺は両手を広げて見せた。なんと隙だらけ。



「いっ、いやいやいや……そんな一回こっきりの囮程度にしか使えない奴はいらねーですよ、ねぇ?」


「そうでもない。逃げ足には自信がある。数回はいける」


「エビデンスプリーズ」


「『姫様』と勇者御一行を誘い込んで惑わし、こうして会話する時間さえ作った見せた。この事実こそが実績」


「や、やばいっ、なんかアズマ氏が本当にすごい奴に見えてきた件について」



 結局、遺体の正体がわかればいいのだ。ここでの地位がどれだけ低かろうが、どれだけの人間に恨まれようが関係ない。



「フランキッス」


「はひっ、な、なな、なんでござるか」


「そして、お前が万が一、最後の最後で、回収作戦に失敗したとき。その時は俺を差し出せ。チーター仮面を暴走させた犯人を捕まえた手柄になる……遺体がなくても、その手柄があればここでの地位が上がる。俺から言わせればセカンドプランは、用意すべきだぞ」



 優れた人間は、常に一つの目標のために複数パターンの道筋を用意する。


 物は言いよう、本当にそうだ。だが嘘は一つだって言ってない。


 これが自己マーケティング。内でも外でも大量の敵を作ってしまった俺だけが持つ唯一無二の価値だ。

 さあ締めにかかろう。

 


「盤面をひっくり返しうる最強のカード、この俺。『大戦犯』アズマを使ってみろ、フランキッス」



 言い切って見せた。

 やがて彼女は三度目の熟考に至る。赤縁メガネを拭いて、それをかけ直して。

 いまはもうコーヒーの残り香も無い。相手が答えを出すまで待つだけの、無の時間が訪れる。



「……」



 しかし残念ながら、その静寂は極端に短い間に強制終了させられるようだ。もう俺はここにいられない。答えは一旦お預けになる。

 何故なら。



「────おいそこの家を調べろ!!『大戦犯』がいるかもしれない!!」


「っ!?」



 実は先ほどから足音と怒声がとてもうるさく、交渉に集中し辛いのなんの。耳が良いのも考えものだと思った。


 一軒隣のドアを叩く音が聞こえる。連合軍の奴らが俺を追って、豆腐建築住宅街をしらみ潰しで回っているのだろう。


 ここて見つかってしまっては交渉した意味がない。関係性を疑われて両者拘束という最悪のオチを迎える。それだけは避けなければ。



「これを」


「へっ……!?」



 右手から例のコンニャクを取り出して机の上に置いた。

 インベントリにたった一つしかない武器を捨てているということの意味を理解してほしい。



「バグコン……?」


「それで俺をキルしろ」


「なっ……!?」


「どこにリスポーンするか。知ってるのは、お前だけだ」


「……」


「また会う時は、いい返事を待っている」



 さっきからずっと両手を広げている。相変わらず、なんと隙だらけ。いつでもやられる準備はできている。人思いにどうぞ。




「ぬわぁぁっ……ぬぁ……!!ファッキンですぜこいつぁ……!!」



 そう言って彼女は頭をかきむしりながら、バグコンを拾う。

 腕を振り上げ、そして────。



◆◆◆◆◆◆




「おい!!ここにいるんだな!?『大戦犯』」



 勢いよくドアの開く音。中に4、5人のプレイヤーが入ってくる。殺風景な部屋を一通り見回して、首を傾げる。



「……いないみたいっすね」


「おかしい、人の気配がしたんだが……」


「気のせいでしょう」


「よし、隣の家探すぞ」



 そう言って、すぐに外へ出て、扉が閉じられる。

 





 ────それから数秒、俺たちは壁から姿を表す。


 俺とフランキッスの体を包んでいた布のようなものがぺらりと剥がれてその場に落ちる。その布は裏面に柄があり表面は……何も描画されない。

 


「驚いたな。透明マントなんて持ってるのか」


「正確には、透明化のテクスチャmodくっつけたカーテンだよ……」


「凄い」


「凄くねーです。透明バグも透明チートも存在する【アンダー】じゃ珍しくも何ともない」



 むしろ、バグとチートと違って動いたらバレる点で性能としては何歩も劣るという。

 いやしかしバグもチートも使えない俺からしたら数歩先にいる時点で凄いと思った。


 と、まあそれはともかく。



「俺をキルしなかったな」


「だって返事遅れたらめんどくさい。でしょ?」


「ということは」


「んぁ……まぁ……あぁ、言わせないでよアズマ氏……交渉成立とゆこと、です」



 やった。とても嬉しい。その答えを待っていたのだ。



「よし、ならさっそく、今後の行動方針について────」


「またれよっ!!」


「なに?」



 そこでフランキッスの待ったがかかる。なに?まだ何かあるというのか。うむ、どうにもありまくりらしい。



「実はぁ、そのぉ……」



 なんだかモゴモゴしている。非常に伝えづらそうに。そんなに言い淀むとはどんな内容なのだろう。逆に気になる。 



「なんだ、はっきり言っていいぞ」


「えっと……その、えっとですねぇ……悪りぃーんですけどもぉ……先約の方がございましてねぇ……」


「なん、だと」



 先約。この言葉の意味する所は。俺と同じように手を組んでいる人物が他にいる。まさかコイツ……ソロじゃないのか!?



「おい、ちょっとまて、1人でできるだなんだと言っていた気がするんだが」


「それはっ、そのっ、言葉のアヤというやつですぜ、兄弟……。それにその子は、わたしから交渉しにいったからノーカン……」


「……」


「と、とにかく、その子の可決がなきゃ……まだ正式に交渉成立とは……ならんのです……」


「参ったな」



 どうやらまだ、終わってなかったらしい。



「ちなみにそいつは誰だ」


「えっ、あっ、多分ご存知ないかと思われますが……?えっと、たしか、プレイヤーネームはモルガンちゃんって言うんですけども」


「モルガン……」



 凄く聞き覚えがある。モルガン、モルガン……たしか『魔女』ジェリスが誰かに対してそう、呼んでた気が────あっ。



「ウニ子かよ嘘だろう」



 これより数分後に三度目の再会を果たすのだが、次回へ続く。

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