20 どーせ利用するだけ利用してポイするんでしょ、エロ同人みたいに……!
「ドM」
「違う俺はドMではない」
まずそのことから弁明してだな。先程の下僕になる発言の詳細について話す。
「下僕だ。つまりお前の指示に従い、お前の持つ"目的"を完遂する為に行動する。謂わば忠実なる従者になると言っているんだ」
「……そ、それはそちら側になんのメリットがあるんですかねぇ。"ご褒美"以外の答えをお願いします」
「お前の目的が完遂されること。それ即ち俺の目的も達成されるということ。探すんだろう。"遺体"を」
遺体という単語を出した途端、フランキッスの目つきが変わった。どうやらあまり好意的ではない印象だが、続けさせてもらう。
「俺は、アカウント乗っ取りの被害でここに落ちた。冤罪だ」
「うわぁ、言うに事欠いてそれって……」
「なぜか誰も信じてくれない」
「あたりめーですよそりゃ……」
疑われて当たり前らしい。でも事実だ。これが。
「今もこうして疑われるのは俺を陥れた奴のせいだな。犯人絶対に許さん。地獄の果てまで追い詰めて殺す」
「こわっ」
そう絶対に。
「つまり、遺体を発見し、犯人を暴く事自体が俺の目的、今回のミッションを成功させ連合軍内での地位を取り戻すのがあんたの目的。利害が一致してる筈だ」
目をしっかり見て、フランキッスの手を握った。
「うびゃぁっ!!なんすか!?」
「俺たちは、今、上の地位にいるプレイヤーに虐げられている」
彼女はtier5といったか?tier4以上のプレイヤーにもれなくいびられる最低地位。
しかしバグワザ連合軍に身を置いてしまっている現状、格差社会を受け入れて、耐えなければならない。
そんな現状を1発でひっくり返す方法があるとすれば。
「"遺体"回収の成功は今後のことを考えて必須なはず。俺はその手助けをしたいと言っている」
俺は同意を求める。
「フランキッス」
交渉。その命題を掲示する。
「俺と共に、奴らの鼻をあかそうじゃないか」
これこそ、俺がフランキッスに話をしにきた全てである。
立場が同じだからこそ、今の状況を打開しようという提案を出来たのである。
キモいと言われた。しかしそれでも、俺たちは共感ができる、と未だ思う。
同じ信念を持つ者同士、是非とも、YESと答えてほしい。
少し待つ。彼女が小さく笑う。────そして答える。
「お断りだぜ、『大戦犯』氏」
「なんでだよちくしょう」
思いっきりNOと言われた。
◆◆◆◆◆
「なぜだ」
「なんでもクソあったもんじゃねーですよ。アズマ氏、お主の本当の狙いって、これじゃろ」
「それは」
インベントリから取り出した、小型装置。リモコンのように見えるそれがなんなのか。初めて見るものだがなんとなく察しはつく。
「わたしが開発した座標探知modを導入した装置アイテム、だね。レプリカ品だけど」
「……」
「遺体回収に成功すればわたしたち傭兵でも、ここでの地位が向上して、快適なゲームをできるっていう寸法……」
「……」
「そんなことはわたしにも思いつくよ。つかリーチをかけてんですわ」
リーチをかけている。言葉通りだ。チーター仮面の逆探知を掻い潜り遺体を発見できる可能性がある人物は、知る限り彼女だけなのだから。
俺はそんな勝ち馬に乗ろうとしている。卑怯で崇高な、いつものやり方。
「わたしは……そうやって何度も騙されてきた……おまえみたいな奴が、隙を突いて力づくで手柄を奪おうとしてくるんだ。わーってんだよ」
……そんなつもりはないんだがな。
「そうじゃなきゃ、わざわざわたしの下につく、なんて言わないよね。そうやってわたしに漬け込んで?『俺と協力してくれー』と、下心丸出しで手を伸ばす……はぁぁぁぁぁ」
彼女は心底うんざりとした顔をしていた。
「がっかり。がっかりですぜ『大戦犯』。結局キングと勇者御一行らと同じで、わたしの技術をアテに涎をダラダラ垂らして寄ってきたんだ……亡者め」
大変お怒りのご様子。地団駄を踏んで、握った拳を額につけて、声を振るわす。
「わたしは、1人でできるんだよ……。他人の協力なんていらないんだよ……どいつもこいつも近寄ってくんじゃあねーんですよ……」
誰も寄せ付けないような、鋭い眼で、こちらを睨んでいる。というより俺と、そういう輩を重ねてみることで、積み重ねてきた恨みや、それまで抱いた殺意を向けている。
「つーか、『大戦犯』とかいう無能の手を借りる理由なさすぎワロタ!!オメーはわたしと協力できればハッピーかもしれないけど、わたしはオメーと組むメリット一切なしなんだよアンダスタァン?」
「理解した」
ごもっともな意見だった。『大戦犯』と組むなんて百害あって一利なし。俺が俺自身をどう良く評価しようと、やらかした事は覆らない。無能と言われても文句が言えない。
「そんじゃま。この話は終わりっつー事で、帰らせていただくでそうろう」
彼女は立ち上がる。ささっと帰るつもりらしい。だがそれは、阻止させてもらう。
「まだ話は終わってない」
「なぬっ」
「言ったはずだ。俺は、お前の下僕になりにきたと」
そう、駒なのだ。俺が掲示しているのは対等ではない。絶対的な上下関係がある。
「だ、だったらなんだってんですか……!どーせ利用するだけ利用してポイするんでしょ、エロ同人みたいに……!」
「どうかな、指示に従うだけの下僕に、技術をどうこうできる権利はない」
「そんなの詭弁だよ……形上ならいくらでも言い訳できるじゃん……」
「俺にとって重要なのは、あんたが確実に遺体を発見し、アカウント乗っ取りの犯人を暴く事だ。その先の所在や手がかりなんかに興味はない」
「嘘お……」
「嘘じゃないぞ……!!」
今回、俺が求めているのは遺体回収作戦の報酬じゃない、遺体の正体そのものだ。
たしかに快適で楽しいゲーム生活に戻るのが最終目標だが、それは【アンダー】にいる限りは達成されないコトで、ともすれば真犯人を運営に突き出して冤罪を認めてもらう方法でしか、達成されない。
バグワザ連合軍などという限定した組織の中の王座に甘んじるつもりは毛頭ないのだから、フランキッスの手柄を取る理由もない。
「俺が欲しいのは、地位じゃない」
「さっき鼻を明かそうとかなんとか言ってた癖に?」
「ああ、それも本心だ。ムカつくからな。だがそれは別にできなくていい。遺体の正体がわかるなら、真犯人の手がかりを掴めるなら、俺はどんなことでもする」
そう文字通り。どんなことでも。
「あんたを利用しようとする奴らと一緒にしてくれるなよ。まず根本から目標に対する向き合い方が違うのだから」
「……」
フランキッスは押し黙った。そしてまた顔を伏せて、深く考えているようだ。
コーヒーを啜ろうとした。もう中身が空だった。今更もう一杯追加する気もないので、コップの淵のシミをみる。
「んぎぎい……わかった、わかりましたよまったく。アズマ氏が、アイツらとは違うってことぁ」
「わかってくれたか」
「けど、やっぱ、ノー……ですぜ」
「なんでだよちくしょう」
「そらそーでしょ、だって『大戦犯』アズマ氏という無能界のビッグマウスと組むメリットは……やっぱり1ミリもないよ……」
同じネズミなら夢の国かポケットから持ってこい、だそうだ。
俺はカップをインベントリにしまった。
「メリットなら、ある」
「ぇ?」
不意の言葉。フランキッスも返事が遅れる。ここからが本当の交渉だ。
ではこれより、どうしようもなく無能の烙印を押された俺をとても有用に見えるようにマーケティングする。
「言っとくが俺は、この遺体争奪戦において最強のカードだぞ」
話の始まりはいつだって、惹かれる掴みから。




