02 全裸バグ
「そういうわけで、俺は誤BANされているんだ。ここを抜け出す方法は知ってるか?」
「知らないさね!!うちは八百屋だよぉ!!大根買わないなら帰った帰ったぁ!!」
俺は、足の生えた大根を買った。その後、大根は1人で走り出したのち、クソでかいルフ鳥に食われて死んだのは別の話。
「はぁ」
ここは【アンダー】。違反プレイヤーが落ちる最下層。隔離サーバー。
この世界はぶっ壊れてる。あれをみろ。山頂がひっくり返ってる。山のてっぺんが地面にくっついてるのだ。なんというスケールのデカさ。
聞いた話によると違反者が山をコマのようにブチ回した結果だと言う。そうしてついた二つ名は『エルドラゴ』。おそらく左回転だったのだと思われる。
それだけじゃない、あっちをみろ。雨が降ってるようにみえるが、あれは全部人間だ。
どうやら雲の上で天空の城を造ろうとした結果落下死。リスポーン地点にあったはずのブロックがなくなったせいで無限リスキル状態になってるらしい。
そうして誰かが言った。二つ名は『マグリット、あるいはバルス』【アンダー】名物の芸術作品である。
「こんなところに長居してたら頭おかしくなる」
俺はそう思った。だからなんとしてでもすぐに抜け出したい。表サーバーで健全に遊ぶ生活に早く戻りたいと思っていた。
だが、手がかりが一切ない。さてどうしたものか。
◆◆◆◆◆
そうして歩いていると、俺は全裸の男と出会った。
「私は服がバグって全裸表示にされ、初心者広場にいた約数千人にその痴態を晒された結果、アカウントBANされて【アンダー】に叩き落とされた。二つ名は『全裸紳士』よろしく」
「かわいそう」
「そうだろう。私は全くの無罪なのに。バグのせいでこんなことになったのだ」
その全裸紳士という男は茂みが多い草むらに過ごし、全裸の呪いをかけられながらも局部を隠し紳士的に生きている男。
俺と同じような誤BANに近いのできっと何かわかるかもしれないと思って尋ねたのだ。
「『全裸紳士』。どうしたら表サーバーに戻れると思う?」
そう聞くと彼はゆっくりとため息をつく。そしてこう答えた。
「わからない」
「なんだったんだよ今の溜めは」
無駄に期待させられて損した。
彼は言う。「運営側が手違いだと認められれば、表に戻ることはあるだろう」と。
そしてこうも言う。
「ここの運営は頑固だ。しっかりとした証拠がなければ自分達の不手際を認めない。だから実質的に正規で戻る方法はないだろう。私の全裸も、グリッジ行為。つまり故意に迷惑をかけたと決めつけている」
「そうだ。わざとじゃないんだもんな」
「そうさ。決してバグを利用することで性的欲求を満たしているわけではないのさ。そう決して」
彼の言うことは信用できる。なぜなら局部に生えたイチモツが誠意を持って謝罪するかのように頭を下げているからだ。
こんなに紳士的な人に限って、そんな半分犯罪じみたことをするなんてありえない。
「アズマ。君はなぜ【アンダー】に?」
「ソレが理由がわからない。どうして誤解されてるのか、何が原因なのか」
「運営さんからはなんて?」
彼は俺を慰めるような優しい声で問う。だから答える。
「不正ログインだとか」
「不正ログイン……」
顎を撫でて考える。こうしてみると考える像にしか見えない。
なにか心当たりがあるのか?そう聞くと『全裸紳士』は小さく答えた。
「アカウント乗っ取り事件」
「乗っ取り?」
「ああ。いま表で流行ってるようだ。それで【アンダー】にも誤認BANでやってくる人が増えている。先日も2人ほど新人がここを通りかかった」
「その新人は?」
「『うわ、粗チンだ!!死ね!!』と」
「なるほど」
「まともな話し相手は君が久々だ。全裸は歓迎されない」
悲しい事情だ。
自分の意思で脱いでるわけじゃないのに、本当にかわいそうだなと思った。
────思ったがここで一つ疑問がある。
「ところでこのゲームのアバター、男でも局部の描写はされないんじゃなかったか」
「ああそうだね。でもちゃんと感触はあるから違和感だよね」
「まあ、少し」
「だから開発したんだ」
「なにを」
「おちんちんMODを」
お前正規BANじゃねーか。
◆◆◆◆◆◆
なにが全裸紳士だ。紳士ってやっぱりそっちの意味だったのか。騙された。【アンダー】は嘘つきばかりだ。
だがしかし収穫はあった。俺がアカウントBANされた原因は乗っ取りの可能性であると。
「誰かが俺のアカウントを乗っ取って悪さをした。だからアンダーへと落とされた?」
そういうことになる。
これは濡れ衣。
「であればやることは一つか」
方針は決まる。
「真犯人をこの手で見つけ出し、動かぬ証拠を押さえ、運営に無罪を証明する……!!」
そうすれば、表へ戻れる。