19 本当の常識人は自分のこと常識人っていわねーんですよ……
豆腐建築の自宅に帰ってきた。狭いが、場所とっていたベッドがなくなっているし、人2人ぐらいは流石に入る。
俺はコーヒーを沸かす。ジェリスの趣味なのか知らないが、ここら一体の住宅地全てに完備されてるらしい。その前に外観どうにかしろと思うが。
「砂糖はどうする」
「いらない」
「ブラックのままいけるのか」
「……コーヒーがいらない」
「コーヒー嫌いか」
「ゲーム上で飲むと、生活に支障がでるんじゃい。あと、ドクドクソードのせいで、うぷっ」
「ああ」
俺はカップを一杯しまう。VRが進化しすぎて寝てる間に満腹感を覚え、日常で食事を摂らなくなって身体をいわす事件があったりなかったり。
黎明期は過ぎたし、騒動の後なので、流石にどこも規制されている。
が、このゲームは……何故かすり抜けている。表でも、裏でも。
味覚や痛覚の感度を100まで上げるとこの通り、現実と変わらない。
さて、コーヒーの話題は一旦置いといて、身のある会話をしよう。
「おい、よくもバグってしねと言ったな、謝れ」
「えぇぇ……手のひら返し怖ぁ……」
さっき謝らなくていいって言ったじゃねーですか、と意義を申し立てられた。
その時は言わないといっただけで許しているわけではない。
「俺は、傷ついた」
「とてもそんなふうに見えないんですがそれは」
「本当だぞ、なんなら泣いてやろうか?」
「傷ついてる奴が一番いわなさそうなセリフきたな……はいはい。謝りますよ。さーせん」
「よし、許す。そして、元気に挨拶する。こんにちわ、アズマだ」
「今の流れで挨拶いくんか……」
「おい、こんにちわだぞ」
「こんな威圧的な挨拶あるぅ?極道かなにかですかお主は」
カタギだぞ。
「ふっ、フランキッスでござる……二つ名は、なんか『マザーハッカー』とか言われてますけど。しくよろって感じで、乙です」
「おつ?」
「乙」
ちょっと変になったが、軽く挨拶を済ませたところで話題を振ってみる。
「あんたは傭兵だと聞いた」
「まあ。立場的には、YES」
「そうか。俺も傭兵だ。お揃いだ。嬉しいな」
「(……わたしは嬉しくねーんだが?)」
「なんだと、嬉しくないのか」
「うわ地獄耳」
「しょんぼりだ」
とっても悲しい。
けどなんだかこの人と喋るのはなんだか楽しい。色んなトーンで色んな喋り口調をする。こんなの初めてだ。
するとフランキッスのほうから質問してくる。
「つまりアズマ氏は、わたしが同じ傭兵だから話しにきたん……?」
そう言われたのでこう答える。
「それもある。傭兵は肩身が狭いよな。ここの連中は歓迎してないし、なにより見下している。あんたを気の毒だと思った。苦しい気持ちがよくわかる。オレ、オマエノ、ナカマ。だから話しかけた、オーケー?」
「なんだコイツキモい、急に厚かましいんですが」
「キモくない。共感しているんだ」
「その共感してますよーって、アピールがキモいって話でごぜーますよ」
俺はキモかった。
「ならキモいついでに聞く。一体どうしてそこまでされるんだ。痛ぶられていた。度が過ぎていると思った」
「そうでもないよ……あれがふつー」
「痛ぶられるのが普通?」
「ふつー」
「傭兵に人権はないのか」
「ないでしょ」
「なんでないんだ」
「そりゃあるわけねーでしょーよここで傭兵なんてやってるやつはコミュ障か協調性のないバカかチーターみたいな嫌われ者だけだってちょっと考えりゃわかるだろ常考」
「じょうこう」
急に声がマジトーンになった。
「これはね、仕方ないことなのでござるよ、アズマ氏」
そして悲しげな声に戻った。やはり不思議な人だ。雰囲気が独特というか。
常にテンションが低い感じで、あまり聞き覚えのない言葉を使う。
しかしなるほど「嫌われ者が傭兵になる」ということか。傭兵だから嫌われるのではない。因果が逆だ。
「わたしチーターだから、バグワザ重視のここじゃ爪弾きにされるんだ……だから傭兵になるしかなくてさ……」
「おかしな話だな。modは使う癖にチートを嫌うのか、ここの人たちは」
「言い換えマジックですよ」
チートとmodなんて意味はほとんど同じなのに。
「でも聞いたぞ。『魔女』の力さえすり抜けるチート技術を持ってると。ならそれでやり返そうとはしないのか」
するとキッスは鼻で笑う。
「はん、そんなのは三流のやることですぜ。わたしはね、ゲームの面白さを拡張するためにしか己の技術は使わんのですよ。人を力でねじ伏せて、何が楽しい?」
あの手のやつはスルーして無視するのが一番利口な対応だ。と、彼女はそう主張する。
言わんとしてることはわかる。だが俺としては賛同しかねる。
「無視しようとしても、相手から攻撃されて我慢してるなら、それは無視できてるとは言わない。然るべき報復をしなければ、損が増える一方だぞ」
それに対してフランキッスは、小さく、物悲しげに反論した。
「それでもわたしは、己の矜持は曲げねーんですよ……もっとも、しようとしたところで、できない。が本当の答えですが」
「できない?」
なんだ、チートをすり抜けられるのではなかったのか?と聞くとこう返事をされる。
「あくまですり抜け、ですよ。ド派手に事を起こせば、『魔女』にバレて圧力をかけられる……」
「圧力」
「連合軍の社会は圧力による上下関係で成り立つんだ」
オキテ、そして力を持った『警備隊』そういう社会を他の誰でもない、トップの『魔女』ジュリスが作り上げていたのだ。とんでもない女狐。
「しかし、フランキッス。傭兵がコミュ障か協調性のないバカかチーターだから嫌われるというのは間違えてると思うぞ」
「間違え?ほう、お聞かせ願いましょうどうぞ」
「俺が当てはまらない。この三つの条件の一つにも」
「……」
「……」
「なーに言ってんの?アズマ氏?」
「事実だろう」
なんで俺は嫌われ者なんだ?条件が当てはまらない。これは例外が出てしまったぞ。これにはフランキッスも目が点だ。
「……協調性のないバカ」
「ん?フランキッスはチーターだけじゃなく協調性のないバカでもあったのか?」
「いや、アズマ氏が」
「は。ふざけるなよ。そんなはずはない。何を根拠に言っているんだ貴様。俺は協調性がある。なぜなら常識人だから」
「本当の常識人は自分のこと常識人っていわねーんですよ……」
「嘘だろ?」
そうなのか!?
「俺は、常識人じゃ、ない!?」
「え、自覚なかったん……!?」
どうしてこんなに上手くいかないのかと思ったら、俺は常識人じゃなかったのか!?だから協調性なんて元からなかったのか!?
そんな嘘だ。しかし状況証拠的に辻褄が合う。
ハゲ、ウニ子、チーター仮面、キングと勇者御一行、いまや連合軍全員を敵に回し狙われている。その理由が、常識人じゃない故の協調性の、無さ……!?
「……」
「どしたのアズマ氏。急に寝っ転がって」
「もう起こさないでくれ。俺は、ショックだ」
「……なんなんだこの人」
涙が止まらなかった。
◆◆◆◆◆◆
「泣き止んだ」
「泣き止みましたか」
目元が腫れるぐらい泣いた……。
そろそろ話を本題に入れたい。ので、最終確認をしようと思う。
「一つ、質問する」
「そのまえに、こちらからも質問である」
「む」
フランキッスが手で上げて静止する。
「アズマ氏、本当の狙いはなんですか」
「……」
「いい加減着地点もない話をダラダラと続けるのはやめましょーぜ、兄弟」
どうやらこのフランキッスにはお見通しらしい。
「ただ挨拶をしたいが為にわたしに近づいたなんて、そんな話あるわけがねー、ですよね……」
「ごもっともだな」
「セクハラですか……?」
「それは違う」
あっちから本題に入るように進んできた。なら話がはやい。傭兵だから話にきた。それもある。俺の本当の目的は別にある。腹を割って話そうじゃないか。
「フランキッス、俺はお前の"下僕"になりにきた」
「そういうプレイですか……やっぱりセクハラじゃねーですか」
「……比喩表現って難しい」