17『大戦犯』
目が覚めると、木目の天井。外に出れば豆腐建築。ここが俺にとっての教会だ。
さて、真犯人を探すため、その手がかりとなる遺体を探すべく行動したわけだが、状況は最悪なことになった。
どう最悪なのか。まずは広場に行ってみればわかる。
「なんだよこれは!?」
「チーター仮面が暴走してやがる!!これじゃおちおちバグワザも使えねえよ!!」
「近所のギルド、みんな全滅だってよぉ!!」
「もうダメだぁ、おしまいだぁ」
「クエストは難しく、諦める必要がある。だからこそクエストを諦める」
人だかりができていて、異様なざわめきを見せる。慌てる者、怒る者、悲しむ者、恐れる者。反応は色々あるがみな一貫してチーター仮面の話題で持ちきりだ。
「チーター仮面がバグワザ連合軍が目の敵にしてるらしいの……外に出るたびキルされるわ!!」
「そんな!?奴とは休戦状態のはずだったのに!!だれか勝手に宣戦布告でもしやがったのか!?」
「なにこれ!?痛い、痛いよう!!感度切ってるはずなのにっ!!ビリビリんきもちぃぃぃ」
「お前新しい扉を開くな!!痛えもんは辛えんだよ!!正気に戻れオラっ!!」
「痛いっ!!きもちぃんほぉ」
「ダメだ、脳が電気にやられちまってる」
一体誰がそんなことをしたんだ、とても許せないなぁ。
と言いたいところだが、それは俺だ。
俺は、チーター仮面と堂々喧嘩した。
その結果どうなったかというと、遠征に行っていたバグワザ連合軍に所属するほぼ全てのプレイヤーが全滅したらしい。
広場が人でごった返しているのはその証拠だろう。
『────貴様らのバグを検知すれば瞬時に殺しに行くことができるんだ』
奴の言っていた言葉を思い出した。
これはつまりバグを使ったプレイヤーへサーチアンドデストロイを仕掛ける殺害予告だ。
発言の通り、雷の如くすっ飛んで行っては片っ端から殺して回ってるらしい。例えそれが、俺以外の誰かだったとしても。
「いま地上に安全地帯はねえよっ!!瞬間移動チートがズルすぎる!!チートだろあんなの!?」
「そうだよチートだよ」
「アレに単独で勝てるやつはいない。ダメージも通らない無敵。まるでバグみたいな強さだった!!」
「バグじゃないよチートだよ」
「くっ、こんなことになるなら、俺はもう連合軍で働きたくないでござる」
「ニートがよ」
「は?リアルニートだが?」
「働けよ」
誰かさんが怒らせたりなんかするから遺体回収は難航を極めてしまった。ああ、一体誰なんだろう。とても許せないなぁ……やっぱり俺だった。
あとこの件には、不味いことがもう一つある。それはあの喧嘩に目撃者がいて、俺の存在を言いふらす奴がいるということ。
「俺たちはみた!!そいつはチーター仮面を挑発しやがった!!絶対に許さねえ!!」
「戦士君の言う通り!!それなのに割り食うのは私たち。こんなのおかしいじゃない!!ねえ僧侶ちゃんもみんなになんか言ってあげて!!」
「ぶち殺そう……プレイヤー名はアズマ。ウンチを撒き散らす愉快犯だよ。クソオブクソだよ……みつけて殺したい……わたしそうしたい……みんなも、協力して」
「見た目はスクエニに300回土下座しても許されないようなパチモンコスプレ野郎だ。あんなもん思い出の中から抹消すべき『大戦犯』だぜ」
勇者御一行だ。完全に巻き込み事故を食らった彼らが怒らないはずもなく。
チーター仮面との戦闘を引き起こし、今の地獄絵図を形成した男、金髪のイケメン傭兵アズマの名は瞬く間に連合軍内に広まっていく。
悪い意味での有名人。見つけ次第殺せとは、もう指名手配犯よりも下な扱いじゃないか。
「……何故こうなった、冤罪の俺はここで1番潔白な身のはずなのに」
違反者に犯罪者扱いされる無実のプレイヤーとはこれはいかに。
しかしこればっかりは立ち回りが浅慮であった自分にも落ち度がある。多分、もっと上手くやれたはずだ。怒りに身を任せてしまった。反省。
「弱ったな、外はチーター仮面、中は指名手配、板挟みの崖っぷち……」
「おい!!みろ!!いたぞ!!あいつが『大戦犯』のアズマだ!!」
「おっと」
「「「逃すなあ!!!」」」
そしてこう見つかってしまうと、逃亡するしかない。捕まったら詰みバグの刑にされて、ゲームから永久追放されるに違いない。それは嫌だ。
なんとかして打開策を見つけねばならない。