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13 遺体回収作戦




 リアルで夕食の時間をとって、俺は再びログインする。木目の天井、簡素なベッド、外に出るなり豆腐建築。

 ここは、バグワザ連合軍の共有住宅地。


 そこに身を置く俺の名前はアズマ。19時の【アンダー】は松明によって道が照らされている。挨拶は殴らずこんばんは。相変わらず返事をしてくれる人はいない。

 なぜか床にめり込んで泣いてる奴がいるけど、構ってはいられない。


 つい先日、こんなメッセージが届いた。



ーーーーー

ジェリス


盟友諸君、こんばんは。

明日の夜、バグワザ連合軍に全体クエストを発令する。広場に集合するように。

ーーーーー



 広場は人で溢れかえっていた。これがバグワザ連合軍の地下基地に身を置く人の総数だとするなら、思ってた100倍はいる。



「────きた、ジェリス様だ!!」



 そして。『魔女』が登壇する。1番目立つ場所に。両脇に『警備隊』を侍らせて。マイクを持って。



「やあ、やあ、盟友諸君、こんばんにゃー。みんなの盟主ジェリスちゃんだぞ」



 たちまち歓声が上がる。ジェリスは気持ちよさそうにそれを浴びる。

 対して民衆のど真ん中に放り込まれた俺からすれば、気持ち良くない。うるさい。全方位なら発せられる奇声が耳をつんざく。



「これより、バグワザ連合軍に全体クエストを発令する!!」



 そう言って彼女は水晶玉のようなものを投げ飛ばした。それはふよふよと空中を進むと、やがて、広場のど真ん中。つまり1番誰からも見えやすい位置に留まる。

 青紫のそれは高速回転し始め、熱を帯びるように赤らむと……それは弾け飛んでホログラムを展開した。



「うおお、なんだ!?」

「綺麗な演出だ」

「MOD作ったのか!?すげえ」



 人々は手を叩く。ジェリスはホログラムに書かれた内容をとびきり大きな声で読み上げた。



「遺体回収作戦っ!!君たちには、アカウント乗っ取りの犯人の捨てアカウントとされる"遺体"を回収してもらう!!」



 遺体回収作戦。なるほど。ジェリスの目的は確かにそれだった。俺と同じで。アカウント乗っ取り事件の犯人を探している。

 盟主として、傘下の者たちに協力を仰ぐのは当然のことだった。



「最初に確保した盟友には相応の報酬を与える!!」


「うおおお」

「報酬だって!?」

「いったいなんだ!?」


「その報酬は……」



 一度、パチンと、指を鳴らす。



「一つ、tier1プレイヤー、四天王の座!!」



 二度、指を鳴らす。



「二つ、この連合軍基地の一等領地!!」



 三度、指を鳴らす。






「────三つ、リアルマネー120万円!!!」



 マジかよ。という言葉よりも先に、民衆の熱が全てを塗りつぶした。




◆◆◆◆◆



 あまりにもうるさ過ぎて頭が痛くなってきた。俺は近くの人気のない路地裏へと回ると、そのまま広場を後にする。


 そして、冷たい夜風に触れてようやく冷静になれるのだ。リアルマネー、120万円だと。あのジェリスという女、本気でそう言っているのか。



「遺体の座標を特定するんだ、早くしろっ」

「今夜中に決行するぞ。いけるな?」

「ワシに任せよ、くんかくんか、あっちからバグの匂いがするぞい」



 状況が動き出したのがわかる。街中が賑わいを見せている。あっちにギルド、こっちにギルド、仲間を集めて緊急会議がぽつぽつ繰り広げられている。

 すごい報酬の数々でみんな躍起になっている。というかほとんど120万のマネーパワーだ。



「だが俺には、真の目的がある」



 それは120万円では買えない。大事なもの。犯人への報復。そして表サーバーに戻る権利。これがなしえなければ大金を貰ったところで意味はない。

 俺はその為に遺体回収作戦に参加するのだ。決してお金が欲しいわけではない。そう決して。決して────。



「120万あったら、ピアノとか買えるのかな」



 家にピアノあったらかっこいいなと思った。絶対に120万欲しいなと感じたので、なんとしてでも報酬を独り占めしようと心に決めた。




◆◆◆◆◆◆




「金、金、金」



 俺はそう呟きながらいまぶち当たる障壁について脳をこねくり回していた。



「遺体って……つまりログアウトしたアバターだよな……それって見つけようがなくないか?」


 普通ログアウトしたアバターは触れないし表示されない。もしそれを可能にする方法があるとするならば……



「つまり確実にバグワザ、あるいはチートを使う必要がある」



 俺はそのどっちも使えない。グリッジ行為なんて表サーバーの頃は縁遠い概念だった。というかそんなバグあるんだろうか。



「いくんだな!!なんとしてでも遺体を回収するんだぞ!!」

「出発だ!!遺体を探せっ!!」

「「「うおおおおお」」」



 あれは、キングと……その愉快な仲間たち。取り巻きは軍服を着ていないので『警備隊』ではなさそうだ。

 直属のギルドの部下なのかもしれない。


 キングが王様だとするならば、その部下は勇者パーティのような格好をしていた。

 今からそいつらが探しに行くらしい。動かないで待ってるだけなのも文字通りキング故か。



「気合い入れていくぞ!!」

「キング様に良い報告をできるよう頑張るんだ!!」



 そうして彼らは威勢よく突き進む。松明を片手にこの地下の出口と思わしき空洞へと姿を消していく。まるでそう、目的地があるように。






 ────そうか、先輩方は俺と違ってバグを使い熟せるのか。ともすれば。



「あいつらは、遺体の位置がわかるのか?」



 続々とギルドの集団が地下帝国から地上へ這い出ていく。我先に、報酬はいただきだ。と。ははん。



「……閃いた。これは、こっそり追って横奪した方がはやい」



 俺は自分のことを天才だと思った。勝ち馬に乗る、漁夫の利をする。とんでもなく俺らしい崇高な作戦だった。

 完璧過ぎる。卑怯とは言うまい。目標の為には手段なんて選ばない。さっそくついていこう。




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