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12 バグワザ警備隊とオキテ




「プレイヤーアズマ。大丈夫ですか」


「大丈夫。だけど主にそこののっぽ女が抑えてきたのがめっちゃ痛かった」


「それは災難でした」



 流された。

 目の前にいる軍服を着た警備隊は、ぞろぞろと帰る準備をしているみたいだ。1人が俺に言う。



「あれは『キング』バグワザ連合軍でもかなりの勢力を誇るギルドを所有するtier1プレイヤーです。あまり喧嘩を売るような言動は控えた方が身の為ですよ」



 そう言われた。だが俺は首を横に振った。「違う、挨拶をしようとしただけだ」と。

 自分がここでは新入りだから。説明する。そうすると警備隊は帽子を深くかぶった。



「tier上位のプレイヤーは、基本的に下位の言葉を聞く耳を持ちません……中にはそうじゃない方もいますが。そして『キング』のような話しかける行為そのものに怒りを覚える面倒くさい輩も」


「あ、めんどくさいって言った」


「面倒ですよ。こんな些細なことで呼ばれてしまっては」



 見ると警備隊は全員、「なんだよ、そんな大事件でもねえじゃん」という感じの肩透かしを食らっていたようだ。確かにたまったもんじゃないなと思った。



「ありがとう。あんたたちのお陰で、俺も気をつけるべきことがわかった」



 会釈すると「いえいえ」と首を横に振られた。そしてこう、言った。



「ではプレイヤーアズマ。今後とも、くれぐれも"オキテ"を破らないでくださいね」


「オキテ」


「明日からは"遺体回収作戦"が決行されます。バグワザ連合軍の団結力が試されるのです」


「遺体回収……」


「貴方がバグワザ連合軍で迷惑をかけるプレイヤーであるなら、私たちも然るべき報復をさせていただきます。お忘れなきよう」



 再度帽子を被り直すと、彼らも去っていった。オキテとは一体なんなのかを聞きそびれてしまった。というか遺体回収作戦って?

 わからないことが多い。

 ウニ子に聞いたらわかるだろうか。



◆◆◆◆◆◆




「ということで、オキテについて教えてくれ」


「あのさ、あたしアンタのお目付役になった覚えないんだけど」



 仕方ないじゃないか。今の俺が頼れるのはウニ子だけなんだから。

「無知を振り撒き、騒動を起こしたくない」と説明する。それでキングという男といざこざがあったことも。するとウニ子は仕方なしに教えてくれるそうだ。

 

 ここは図書館。大きさはそれほどでもないが、地方の児童図書館ぐらいの規模はある。本の内容は基本すべて、ここの住民が執筆したものだ。


 バグのやり方とか、チートのプログラムの組み方とか……全く反省の色が見えないどころか、次の悪の芽を咲かそうとしてるのはどうかと思う。


 ほらみろ、この本は何だ?



「赤い帽子の配管工から学ぶ、ケツワープ式物理学」


「────聞いてんの?バカアズマ」


「へ?」



 やばい、本のタイトルに気を取られて聞いてなかった。



「オキテについて聞きたいって言ったのはアンタでしょ?」


「すまん、もう一度言ってくれ」



 しょうがないわね。とウニ子が言う。手元の本を閉じて、脚立から降りる。






「一つ、この連合軍基地では人に危害を加えてはいけない」


「一つ、この連合軍基地でチートを使用してはいけない」


「一つ、この連合軍基地でグリッジ行為を働いてはならない」


「一つ、この連合軍基地において『魔女』とその配下である『警備隊』は絶対にして例外である……以上」


「それがオキテ?」


「そ」




 つまり要約すると、上三つはこのゲームの利用規約そのまんま。「迷惑行為はやめましょう」という至って常識的なものだった。

 問題は最後の一つだ。



「『魔女』と『警備隊』は絶対にして例外」



 ウニ子は大きなため息をついた。



「女狐よね。あんなぶりっ子口調の癖に抜け目ない」


「ああ」



 俺は初対面の時からジェリスという女に、威圧感というか、底知れない何かを感じた。その片鱗を今垣間見ている気がする。

 『魔女』はルールを作る側に立っている。この世界の支配者側の人間だ。『警備隊』という抑止力まで行使して。



「ところで『警備隊』は強いのか」


「強い。アイツらは……ケツワープできる」


「なるほど、じゃあ強い」



 直前に本を読んでたこともあって、すごく納得した。絶対強い。



「オキテを破るとお強い『警備隊』さんにしばき倒されるってことだな」


「良くわかってるじゃない。痛覚貫通グリッジって知ってる?」


「知らないな」



 初めて聞く単語だが、名前からしてもうヤバそう。ウニ子は続けて説明してくれた。



「このゲームの痛覚の感度はプレイヤー本人が設定できる。痛いのが嫌なら0パーセント、臨場感が欲しいなら50パーセント、みたいにね」


「そうだな」


「けど本人の設定を無視して100パーセントの痛みをこっちから与えられる、凶悪な攻撃行為」


「それが痛覚貫通?」


「そ。そしてこれを用いて拷問する。『警備隊』が。これで恐ろしさはわかるわよね」


「夜も寝れなくなってしまうな」



 





[────メッセージが届きました]



 その連絡が届いたのは、そうして『警備隊』の恐ろしさについて2人で話しているときだった。宛名は『魔女』ジェリス。まるで見られているかのようなタイミングで肝が冷えるが、どうやらそういうわけではないらしい。

 内容はこうだった。



ーーーーー

ジェリス


盟友諸君、こんばんは。

明日の夜、バグワザ連合軍に全体クエストを発令する。広場に集合するように。

ーーーーー




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