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11 ドクドクソード




 バグワザ連合軍、それは【アンダー】サーバーで最も所属人数が多い一大勢力。

 この地下帝国に住まう者たちが全員味方になったともなれば、例の真犯人を探る眼も増えるというもの。



「『挨拶は基本』か」



 豆腐建築の住宅街の中心。広場の掲示板にそう書かれた記事が貼ってある。

 少しウニ子の言ったことを思い出す。



『くれぐれも挨拶には気をつけてね。ここの人たち、排他的(・・・)だから』



 排他的。つまりは余所者を歓迎しないということ。

かりにも連合軍なのに……一大勢力の裏には隠された苦労がありそうだ。



「なら挨拶しよう。まずは多くの人間から信頼を勝ち取る」



 郷に入っては郷に従え。そういう態度は心象をよくするに違いない。

 安心しろ。ソロといっても心まで1人というわけじゃないのだ。俺にだって他者を尊重する器量のひとつやふたつあるに決まってるだろう?舐めるな。


 まずは軽快な口調で一つ。



「よう、そこのあんた」



 一番近くにいた、淡い水色の髪の毛で赤縁メガネの少女がベンチに座ってたので……隣に座った。



「ふぇっ!?」



 飛び上がって、ベンチから離れる。なぜだ?親しい雰囲気を出したはずなんだが。

 あ、そうか。不審に見えるか。じゃあまずは名乗るか。素性を名乗ればどういうやつか伝わるはずだ。



「俺はアズマ、傭兵だ。挨拶、よろしく」


「……セクハラっ!!バグってしね!!」


「……」



 排他的すぎない??



「いや。挨拶をしたいだけなんだ。ナンパとかそういうのじゃない」


「おめーみてーな人畜無害の皮を被った有害畜生が一番嫌えなんだよ。死ね!そして死ね!」



 なんでそんなこというの。

 俺、初対面なはずなのに。一体どうして。ひどい。そんな、死ねだなんて。ひどい。




「……クスクス」


「なんだアイツ?新入りか?」


「さっきなんか会話を聞いたわ、すごく無礼な態度だった……」


「チッ、礼儀知らずの阿呆がまた増えた……」



 周りから、俺を話題にする声が聞こえる。ああこれは……最初に話しかける相手を間違えたか。

 今度はもう少し初対面でも気さくそうな人に話しかけようと思った。

 そこに小太りの男がいる。話しかけよう。



「なあ、俺はアズマ、ついさっきここに来た傭兵だ」


「は?ぼくは忙しいんだ。他を当たって欲しいんだな」



 こういうのは外見の印象が大事だ。にっこりと笑った方がいいとその辺でバズったつぶやきで見た気がする。1万いいねついてたから間違いない。



「そう言わずにな?笑顔でいこうか。スマイル、スマイル。お前の名前はなんだ?話そう。挨拶しよう」


「なんだコイツ、笑顔きっしょ!!」


「……」



 嘘つき。もう二度とトゥイッターやんねー。

 笑顔がきしょいんじゃどうしようもない。というか俺の笑顔はきしょいのか?悲しくなってきた。すごく傷つく言葉だ。

 でも失礼だよな。初対面の人にそんな暴言を吐くなんて。チクチク言葉って知らんのか?殺すぞ?



「そんなことを言わないで欲しい。俺だって人並みに傷つく」



 そう、主張したら、男に弾き飛ばされた。尻もちをついてしまった。そんなにきしょいのか?酷くない?



「あのね。キミね。ぼくに気安く話しかけていいと思ってるのかなぁ??弁えて欲しいな??」


「なぜ。別に話しかけるのは俺の自由だ」



 するも彼は襟元を正し、右手を腰の後ろに回したと思えば、空いた左手で指笛を吹く。ピュイーーっと。

 すると向こうから複数の足音が聞こえてきた。感覚的には十数名いそうだ。



「なんだ、なにをした」



 俺がそう聞いても返事はしてくれなかった。



◆◆◆◆◆



 その後、黒い軍服を着た集団に取り囲まれたのは僅か数秒後のことだった。



「HA☆NA☆SE」



 ずどんと、腹を殴られる衝撃。俺の抵抗も虚しく、その場で倒れ込む結果となってしまった。

 小太りの男の声が聞こえた。



「コイツがぼくの言うことを聞かないんだなっ、tier1プレイヤーであるぼくが、話しかけんなっていってのに!!」



 すると黒服の人たちの中でも、一際のっぽな女が俺のことを覗き込む。なんだ畜生。



「我々は警備隊。通報を受けてここにきた。プレイヤーネームと『二つ名』、所属ギルド、tierランクと、BANされた原因を掲示しろ」


「こ、断る」



 すると殴られた。俺はキレた。



「暴行罪」


「残念でしたー!!ここはゲームだぞ!!罪には問われないんだお!!おい、さっさと言え。拒否権はない。言え!!」



 横からさっきの小太りの男がずけずけと入り込んできた。俺と話すの嫌なのかそうじゃないのかはっきりして欲しい。あと拘束を解いてくれ。喋りづらい。



「なにしてんだ早く言えよ!!お!?」


「断る。権利は人に平等にあるべきだ。というかなぜお前が主導権を握ってる。俺がイニシアチブを渡す相手はママみを感じる相手だけだ」


「じゃあその警備隊の女をママだと思って従え。ほら言えよ、バブちゃん」


「バブー」


「ふんっ!!」



 殴られた。こころなしかこの無口ののっぽ女は怒っているらしい。

 俺の後ろに回り込むと、身体を押さえ込まれて、首元を掴む。無理やり引っ張ってくる。痛い痛い。頭とれるって。



「あのさぁ?わかる?お前みたいな奴がいるから、【アンダー】の風紀は乱れるんだ」



 何言ってんだこのデブ?風紀が乱れてる奴が【アンダー】に落ちるのを知らんのか。というかお前もここにいるってことは垢BANされてるってことじゃないのか。



「情報を検知。プレイヤー、アズマ。『二つ名』なし。所属ギルドなし。tier5。不正ログインによってアカウントBANされた」


「あっ」



 周囲の警備隊の誰かが俺の個人情報をすっと読み上げた。おそらくなんらかのチートを使われたみたいだ。



「あーあー。優秀な仕事ぶりで、お前の無能っぷりがバレちゃったねぇ?なに?tier5如きでこのぼくに喋りかけようとしたの?」


「tierってなんだ」


「うわあ、その上無知!!はっ、舐められたもんだ……なっ!!」



 頭上から圧がかかり、俺は石の地面を舐める。ザラザラで気色悪くて、ジリジリと踏んづけられてる。屈辱的だ。



「ぼくは『キング』!!NPC増殖バグをつかって一国を形成した男。一時はお仕置きNPCすら味方につけ、アメリカサーバーを支配したことだってある!!」



 どうだ、凄いだろうと言わんばかりに己の悪事を掲示する。



「当然tier1プレイヤーなんだな。ぼくは、このバグワザ連合軍で一番偉いんだぞっ!!」



 なるほど。tierはここでは偉さの指標みたいなものになってるらしい。

 後で調べてわかったことだが一応、他のゲームでは流行度や強さを表す言葉らしい。

 いやしかし。おかしいな。なぜそんな悪い奴が偉い奴なのか。



「1番の問題児は1番厳重な処罰を与えられて然るべきだ。なぜこんなことに」


「は」



 キングは俺をさらに踏みつける。余計なことを言ったかもしれない。



「ここでは表での"功績"が重要なんだよ。不正ログインで割れ発覚したダサ坊がしゃしゃりでてんじゃねーぞ!!お?」


「うぐっ」



 そもそも不正ログインなんてしてない。完全に無罪だ。なのにこの仕打ち。ふざけている。

 俺は身体を起こして食って罹ろうとしたが、うしろにいる警備隊が押さえつけて動けない。



「あーあー、キレそう。キレそうだよ。だからさぁ、お前にはそれ相応の苦しみってものを知ってもらわなくちゃあなぁ??」



 そう言って奴は自分の頭髪をかきむしりながら、腰についた剣の柄に手を添える。そして、それを抜いた。

 


「コイツはドクドクソード!!バグのせいでダメージが微塵も出ない、けどそのかわりに斬られた後眩暈と腹痛、吐き気、肺の痛みが止まらなくなる」


「陰湿武器過ぎる……!!」


「お前が苦痛に悶え苦しむところを見せてくれないと、釣り合いとれないよなぁぁ!?おぉん!?」



 奴は名前クソダサソードを振り上げる。わざと見えるようにあからさまに。そうやって恐怖を煽ってくる。動けない俺は目を瞑るしかなかった。



「おりゃっ────あうっ、なにすんだお前!?」



 しかしそれを止めたのは警備隊だった。



「『キング』さん、抑えてください。ここではバグを利用して他人を傷つけることは禁じられていますので」


「はぁ、はあ??なに??君たちもぼくに逆らうわけ??」



 そういうと警備隊は首を横に振る。



「警備隊は、バグワザ連合軍の"オキテ"に従って動きます。貴方が"オキテ"を破るというのなら、相応の処罰を下すのみ」



 警備隊の1人がそう語る。そのうちに後ろで俺を押さえつけてたのっぽ女が拘束を解いた。そして俺は立ち上がるように促される。



「プレイヤーアズマは我々が対処いたします。"遺体回収作戦"の決行も近い。貴方はここで時間を浪費するわけにはいかないはず」


「……チッ」



 キングは剣をしまう。はぁ。よかった。どうにかなった。

 


「ふん、じゃあそいつは殺しとけよ。ぼくは忙しいんだ」



 そう言って去っていく。なんか許されたらしい。




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