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10 バグワザ連合軍-その3




 その拠点は、魔女の家の離れにあるらしい。俺が招かれたのは、裏手にある地下に続く螺旋階段。

 本当の意味で日の当たらない、深い奥底へ、誘われて行く。



「なーーんであたしがアンタの面倒見なきゃいけないのよっ!!」


「仕方ない、魔女ジェリスがそう言ったことだ」


 

 ウニ子に招かれて、階段を降り切ると、長いまっすぐの通路につながる。ダンジョンっていう言葉がそっくりそのまま当てはまって恐ろしいぐらいの、松明で照らされる炭鉱道。

 風が吹き抜ける。この先、外に繋がってると見て間違いなさそうだ。そこに拠点があると見て間違いないだろう。


 ジェリスの言葉はこうだ。



『モルガンちゃん、先輩傭兵として、新入りをよろしくね』



「はぁぁ、あんのビッチウィッチが……」 



 頭を抱えて悪態をつく。そんなに俺を引率するのが嫌だというのか。



「お前、信じられるのは自分だけというわりに組織に所属していたんだな」


「はんっ、別に。その言葉に嘘はないわ。利用できる駒は多い方がいいってだけ。それに所属はしてない」


「してない?」


「あたしは連合軍に加入してるギルドのどこにも入ってない傭兵よ?だから誰にも帰依しない」


「なるほど、本質はやはり孤高」



 ギルド、とはこのゲームにもとより存在する要素の一つだ。ようは仲間や友達と作ったグループのこと。

 ここの場合、それが表サーバーよりも重要視されているようだった。



「じゃあ俺も傭兵だ」


「はぁ?」


「悪いか?」


「ふん、好きにすれば?1人じゃぜーーったい上手くいかないと思うけど。アンタへっぽこだから」


「へっぽこ」



 何故そんなことを言うんだ。やってみなければわからないではないか。

 それに1人になるのも真っ当な理由がある。組織に所属するということは立場を縛られる。立場を縛られるということは行動が制限される。

 行動を制限されれば……例の真犯人から遠ざかる。



「ふん、へっぽこだと?この俺のアバターの出立ちを見ても言えるのか?」


「なに、アンタの見た目がなんなの?金髪で……黒っぽい服で……傭兵ってまさか!?」


「クラ○ド」


「には似ても似つかないわ、謝ってほしい」


「ごめんなさい」



 俺がこれをいうと毎回非難される。

 なぜなんだ?俺の見た目はどうみてもクラ○ドだ。そういうキャラクリをしているんだぞ?……ちょっとオリジナルテイストを加えたが、四捨五入で元ソルジャー1stだぞ。



「ついたわよ、パチモンソルジャー」


「ここは?」



 そうこう言ってるうちダンジョンの出口へ到着。眩い光がさす。その先に────。








「ようこそ、ここがバグワザ連合軍の拠点」


「……」



 なんで建造物が空飛びながら右往左往しているのか、これがわからない。


 そこ広がるのは、ぐにゃぐにゃにねじまがった地形と、とってけたような大阪城とシンデレラ城とニ○ニコ本社ビルとピサの斜塔とetc……が立ち並ぶ混沌地下帝国。


 あれとかもう家じゃねえだろ。便器の形してるぜ。



「ご感想は?」


「まともに建築できる奴いないのか?」


「一級豆腐建築家の栗一葉(クリイパ)っていう匠がいたわね」



 いないらしかった。



◆◆◆◆◆




 バグワザ連合軍の拠点は、地下都市。太陽の光が届かず、街の明かりだけで保たれたそんな場所……な、はずなのに、頭上にお天道様がある。


 有志によって太陽を作ったらしい。これで地下なのに正確に昼夜が存在するのである。


 あっちには通天閣、そっちにはモアイ象、遠くにはピラミッドと古墳が並んでいる。

 そんなコンセプトも立地もバラバラな建築ゾーンを抜けて、奥手に歩いて行く。



「随分と個性的な場所だ」


「まあ、頭バグってる人しかいないからね」


「バグワザ連合軍の名を冠すわけだ」


「そうね。実際ここでチートは使えないし」


「本当か!?」



 意外な情報が飛んできた。前のようにいきなり黒曜石ブロックの壁に囲まれる事態に遭遇する事はないということなのか。



「憎らしいけど、あの魔女が、ここら一体のコードを妨害するプログラミング組んでるから。噂じゃ、ここって運営側ですら踏み込めないぐらいのブラックゾーンと化してるらしい」


「もうそれ、違法ハッキングでは」


「わからない。真相は闇の中……さて、着いたわ。とりあえずここがアンタのリスポーン地点よ」



 そうしてややあってたどり着いた場所は、白い真四角にドアと窓だけがついた家が立ち並ぶ。豆腐建築もここまで極まると清々しい。



「住宅地。新入りや傭兵はここを拠点にするの」


「質素な作りだな」


「文句言うな、アンタぺーぺーなんだから」


「ぺーぺー」



 下っ端の下っ端、末端ということだ。



「中にはベッドとチェスト、あとは作業台に竈門、その他諸々大体のものは揃ってる。さっさと覚えなさいよね」


「覚えた」



 俺は一つ頷く。【アンダー】に落ちてから一人で野宿が基本だったが、これでひとまず拠点には困らなさそうだ。



「他に質問は?」


「いまはない」


「そう、優秀じゃん」


「それほどでも」


「ばーか、社交辞令にきまってるじゃない、そんな浮かれた顔すんじゃないわっ」



 頭を叩かれた。パコンと変な音がした。手で叩いた音じゃない。これは……長いプレゼント箱?



「なんだそれ」


「マジキチ魔女ババアからプレゼント」


「ジェリスのこと嫌いなのかお前」


「嫌いよ。このあたしをこーーんなパシリに使ってくるんだからねっ、いつか殺すわ」


「ふーん……」


「早く受け取りなさいよっ!!」


「ああ」



 箱を渡される。黒色で長い。大きさ的には手に収まるサイズだった。

 いやまて、これみたことあるぞ。偉大なるファンタジー作品ハリーポッターシリーズを履修していれば見覚えの一つや二つある。

 送ってきたのは『魔女』ジェリスそこから導き出される答え。もしや、もしやこれは……!!


 魔法の杖じゃ────。





「おちんちんだ」



 おちんちんだった。箱の中から出てきたのは灰色のおちんちんだった。



「ばかっ!!よくみなさいよねっ!!」


「本当だ、コンニャクと書いてある」



 アイテム名にはしっかりとコンニャクと書かれている。なるほどじゃあ違うのか。



「……いや、どうみてもおちんちんの形だぞ」


「う、うるさいわよアンタ!!せめて男性器って言いなさいっ!!そっ、その、下品じゃないのっ!!」


「しかしウニ子、男性器の方が違法感があるのではなかろうか」


「もぉ、黙ってっ!!」



 問答無用でそれを押し付けられた。

 いやしかし、このイチモツ型のコンニャクを渡されて俺はどうしろと言うのだろうか。



「こんなの要らないぞ」


「そう?いらないなら捨てれば?絶対捨てない方がいいと思うけど」


「解説求む、これイズなんだ?」



 仕方ないわねっ!!と頭をかきながら、心底だるそうに説明を始めた。なんだかんだやってくれるんだなと思った。



「それはバグコン。表サーバーでR18modを導入しようとしてBANされた大罪人、マンチカン侍氏が夜な夜なコンニャクでなんとかディルドを再現しようとした結果バグって99999999999の固定ダメージが出るようになってしまった呪いのコンニャク」


「呪い」


「でも安心して。マンチカン侍はあの後コンニャクを自分のケツに突き刺した後四肢爆散して死んだから解呪済み」


「き、汚ねえ」


「実は連合軍では量産開発されてる基本装備だったりするわ。つまり歓迎品ってこと。よかったじゃん」


「そんなもの歓迎品にするな。というか量産するな」



 曰く付きのアイテムを押しつけられた。あまりにも汚過ぎるのでそそくさとインベントリにしまう。だが、確かに凄まじい威力のアイテムだ。本当に、本当に困った時に使うことにしようと思った。



「さて、これであたしの役目は終わり。ほんっともう二度と会いたくなかったのに最悪っ!!」


「いろいろ教えてくれて助かった」


「あっそう、感謝の言葉だけは受け取るわ」



 彼女は身を翻して立ち去ろうとしていた。俺はコイツに背中を見せて殺されたことがあるので、それを見続けることにする。

 するとウニ子は背を向いたままこう言った。



「くれぐれも挨拶には気をつけることね。ここの人たち、排他的(・・・)だから」


「排他的」


「アンタって。敵を作りやすい性格だし」


「性格の悪どさなら、あんたも相当だと思うが?」


「は?キレそう。ほんとそう言うところが悪いのよ?わからない?」



 わざわざ振り返って指を刺された。人に指を刺すな。折るぞ。

 と、まあややあって、ウニ子は背筋を伸ばしながら去るのであった。

 今度は殺されることはなかった。




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