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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

目が覚めれば自分がキャラメイクした勇者が目の前に居た件について【短編版】

作者: 魚屋号 猫

初投稿ではありませんがファンタジーは初です。

色々変なところや誤字脱字、言葉選びなど間違えていれば御指導頂けると幸いです。


「これが、依代の精霊……。決めた、君の名前はリーナだ」

 

 リーナ、と名前を呼ばれて意識が覚醒する。何かに包まれているようで、よく見るとそれはとても大きな手だった。驚いたが私の名前はリーナでは無い。こんなにも大きな手に包んでくるような、突飛なことをするような友達なんか居ただろうか。そう思って声のした方を振り返る。

 黄金色の髪、蒼い瞳。どんな風にセットしているのかわからないくらい斜めになっている前髪はとても特徴的で、短いせいで耳は隠れることなく、その通常よりも長い耳を見せている。

 少し身動ぎするだけでガチャガチャと音がなりそうなくらい着込んでいるその鎧を着た目の前の人物は明らかに人間ではなく、そしてどこか見覚えがあった。

 

「フェリーナ……?」


 小さく呟いた言葉は、彼女が頷いたことで肯定される。そんなことあるはずがないのに、本当にそうらしい。きっとこれは夢だ、そう思って思い切り頬を叩いて、痛いことに気付く。

 私の突然な行動に驚いたのか軽く目を見開くその顔はとても端正で。髪も、瞳の色も形も、身長や胸の大きさまで、私は彼女の全てを知っていた。全て、私が決めたものだから。彼女はフェリーナ。

 私が幼い頃から何度も何度も、起動出来なくなってしまうまで遊び尽くした『ソード&マジック』の主人公その人だ。

 

「な、ななななんでフェリーナちゃんが!?」

「え?」

「ちょっと待って顔が良い、あまりにも可愛いこれで勇者なんて……えっかわいい」

 

 元からオタクだった自分が所謂"推し"を目の前にして興奮しないわけがなく、心臓が大きく跳ね上がり、動悸息切れはい救心。これは夢かと思って、さっき自分で思い切り叩いた頬の痛みに夢じゃないことを思い出す。

 もしやこれって異世界転生と言うやつでは? もっと言うなら、ゲームの中に転生したのでは!?

 それならば、今自分がフェリーナの手の中に居るのはなぜだろう。ここはゲームのどの場面だろう。彼女はさっきなんと言っていたんだっけ。


「……依代の精霊 リーナ」

「そう。君の名前はリーナ。よろしく」

 

 そんな名前の精霊は出てきたことがない。改めて彼女を見てみれば、装備は妙にごつく、後ろに付き添っていたはずの仲間は居ない。腰に下げている剣は半分くらいで割れて欠けていて。

 

「フェリーナ、魔王討伐は?」

 

 そう問い掛けると何を当たり前な、とでも言いたげな顔をしてフェリーナは答えてくれた。

 

「討伐したよ。もう、この世界に魔王はいない」

 

 

 

  *  *  *

 


 ソード&マジックとは、よくあるRPGだ。村を焼かれた勇者がただ一人だけ生き残り、魔王討伐を志して魔王を討伐するというストーリー。

 他のRPGと少々違う点は、主人公である勇者を自由にキャラメイク出来るところ。

 男性か女性かを選べて、頭のてっぺんから足の爪先まで細かくキャラメイク出来る。MMORPGでもないのにキャラメイクをここまで細かく出来ることで爆発的に人気になり、そして直ぐに廃れた。

 動きもカクつき、ローディングは一々長く、ストーリーは二番煎じで面白くない。せっかくキャラメイクしても装備で隠れてしまうことは多々。自由度が高いのはキャラメイクだけで、それ以外の自由度は全くないに等しい。そうしてすぐに人気は落ちてしまい、福袋の中に入れられたりワゴンセールで売られたりした。

 私、里中 莉奈はそんなゲームを、こよなく愛していた。それ以外のゲームを中々買い与えられなかったということもあるが、主人公の初期名がフェリーナで、自分の名前が少し入っていること。そして主人公を自分でとても可愛く作り上げ、そんな自分で作り上げたキャラクターがゲームの中で生きているということに喜びを感じていたのだ。

 初めてやったゲームがそれだったからストーリーが二番煎じだとかというのも知る由が無く、純粋に心からそのゲームを楽しんでいた。何度も何度も、そのゲームだけを遊んだ。魔王を倒してエンドロールが流れると初期化して、同じアバターでゲームをやり直す。ただそれだけの行為が楽しかったのだ。

 

 そんな、繰り返し遊んだゲームの主人公が目の前にいる。

 

 フェリーナは私が見詰めていると困ったように眉を下げて首を傾げた。

 

「変なところあった?」

「……ごめん聞いてなかった。もう一回お願いします」

 

 彼女は嫌な顔をせず頷いた。魔王を倒した、その後のこと。

 

 魔王という存在は生まれ続ける。それは相対的に勇者という存在が居るからで、一人の魔王に一人の勇者というのはこれまで必ずだった。フェリーナは次なる勇者が生まれないよう、次なる魔王を生み出さないように自分の代で勇者を途絶えさせたい、らしい。

 

「その為に、賢者の石が必要」

「賢者の石?」

「そう。私は不死の存在になる」

 

 死ななければ次の勇者が生まれない。そう考え、賢者の石を探す旅に出たらしい。しかしその道中になんらかの事故や怪我で死んでしまっては元も子もなく、その為に依代の精霊を呼び出し契約した、ということらしい。依代の精霊はゲームの中でも少しだけ出てくる。主人公は一度も使用した事はないが、何かを対価に死を肩代わりしてくれる存在。魔王が住む魔界領の近くに生息していて、幻だと言われている。それが私が転生したものらしい。

 泉に自分の姿をうつしてみても、確かに妖精だ…という感想しか思い浮かばず、それよりもその隣にいるかわいいフェリーナに目が奪われる。

 

「賢者の石の居所はわかるの?」

「さあ。また各地を回って、情報収集かな」

「それじゃあ……ドカイ王都がとりあえずの目的地?」

「ううん。……まずはハズマリの村」

 

 そう言ってフェリーナは袋を取り出す。中身はガラクタに近いものが入っていた。赤色の何かの破片に、割れている白色の球体。

 

「ドーズとセフィラの?」

「うん。知ってるんだ」

 

 ドーズは戦士、セフィラは白魔道士。どちらもフェリーナと共に世界を旅した仲間で、魔王を倒す際にその命を散らした。タンクとヒーラーとしてとても有能だったその二人の遺品は、赤色の盾と白色の杖だった。それさえも魔王に打ち砕かれ、その一部しか残らなかったらしい。

 

「家族の元に、返してあげなきゃ」

 

 そう優しく囁いたフェリーナは遺品を袋の中に入れ直し、立ち上がる。

 

「まずはこの魔界領を抜け出さないと。リーナ行こう」

 

 ふわ、と体を浮かせてフェリーナの肩あたりに乗る。それを確認したフェリーナは歩き出した。背後を振り返ればそこには魔王が住んでいたおどろおどろしいお城が鎮座しており、雲が晴れていた。本当にこの世界は魔王を倒した後の世界だ。

 つまりそれは、私の知らない世界だということ。何度も遊んだソード&マジックの世界では無く、その後の世界。

 何も知らないその世界で私がなぜ呼ばれたのかもわからない。もし、私が呼ばれた世界がフェリーナが勇者として目覚めたタイミングであれば。その先の、魔王を討伐するまでのガイドとして呼ばれたのだともわかる。

 

「……ねえフェリーナ」

「何?」

「もう魔王は居ないんだし、勇者の剣も折れちゃったんだし、好きに生きたら良いんじゃない? まずは見た目からさ」

 

 妙にごつい鎧は兜までしっかりとごつく刺々しい。たしかに防御力はお墨付きだろう、といった見た目の兜は、フェリーナの髪や顔のほとんどを覆っており、見事に見えない。何より、肩に乗っているせいで居心地が悪い。

 

「見た目……?」

「せっかく可愛いんだし、その顔を世の中に晒さないなんて勿体ない! 兜脱ごう? ね?」

 

 フェリーナは怪訝そうな目を向けるものの、私の言葉をそのまま受け取り、兜を脱いだ。うん、やっぱりかわいい。

 

「かわいいなんて初めて言われた」


 少し照れたようにそう言うフェリーナにまさか! と言おうとしたが、確かにストーリーでは可愛いとは言われなかった。男女どちらも選べるストーリーなんだから当たり前だとは思う。

 それに、フェリーナは幼い頃に両親を亡くし、そのまま剣を握って魔王討伐に乗り出したのだから当たり前だった。


「フェリーナはとってもかわいいよ! 私が保証する!」

 

 そう力説していると魔界領の終わりが見えてきた。ようやくテレポートが出来る、と一息ついた。魔界領はテレポートが出来ない仕様だった。魔界領に渦巻く魔界独特の魔力が……というような理由だった気はするけれど、ストーリーにあまり関わりがないせいで覚えていなかった。

 魔界領から一歩出てフェリーナがテレポートの呪文を唱える。行き先は当然、ハズマリの村だ。

 

 白い光に包まれ、一瞬の浮遊感。その後目を開くとそこはハズマリの村のフェリーナの部屋だった。木製の扉を開き、階段を降りる。ここは、ドーズの家だ。

 両親を亡くしたフェリーナはドーズの家に引き取られ、ドーズと共に強くなるために育てられた。種族が違うフェリーナを引き取り、勇者として育てたドーズの両親はすごいと思う。

 

 フェリーナが階段を降りると、キッチンにドーズの母親が居た。どうやら料理を作っているようで、鼻歌を歌っている。美味しそうなシチューの香りがした。

 

「ドンナさん」

 

 フェリーナがそう声を掛けると、ドンナと呼ばれた女性は後ろを振り返った。持っていたお玉を落とし、フェリーナの顔を見れば駆け寄る。

 

「ああ、フェリーナ……! どれだけ心配したか! 無事に帰ってきたんだね、良かった……。ちょっと待ちな、ルーズを」

 

 ルーズとはドーズの父親。ドンナの旦那さんだ。ルーズを呼びに行こうとしたドンナは、フェリーナの横に私以外誰もいないことを確認すれば、絶望の表情を見せた。

 

「フェリーナ、ドーズは」

 

 小さく震えた声で、そう問い掛けるドンナに、フェリーナは袋から盾の破片を取り出して渡した。赤色の盾は、ドンナとルーズが大枚を叩いて用意した盾だ。どれだけ優秀な盾を用意しても、捨てることの出来ない思い出の品で、ドーズの初期装備だ。

 そんな破片を見て、ドンナの目からボロボロと涙が溢れ出る。

 

「他には、他には無かったのかい。なんでも良い、あの子の服でもなんでも」

「迷惑掛けてごめん。……そう伝えてと」

 

 ドーズの最期の言葉を伝えると、ドンナは静かに涙をこぼした。赤色の破片を握りしめて、帰ってこなかった息子を想って。

 

「ドンナ、帰ったぞ!」

 

 大きな声でそう叫び、扉を思い切り開く音。今日は兎が捕れて、と今日の成果を報告しつつもフェリーナの姿を見ればその言葉は止まり、赤色の破片を握りしめて泣いているドンナを見て察したのか、持っていたうさぎを床に落とし、ドンナを抱き締めた。

 

「ドーズは勇敢でした。いつだって前線に立ち、私とセフィラを護ってくれて、泣き言一つ漏らさないで」

「そうか……、アイツも、フェリーナが無事で良かったと言っているだろうな。ほらドンナ、アイツが最後まで務めを果たしたことを誇ろう」

「誇りなんて! 私は、私はただあの子が無事に帰ってくれれば! それ以外何も要らなかった……。ただ、無事に生きてくれていれば……」

 

 さめざめと泣くドンナを抱き締めながら、ルーズも静かに涙を見せた。フェリーナはそんな二人を見ながら静かに頭を下げる。

 

「ドーズを護りきれなくて、ごめんなさい」

 

 そう呟き、二人に背を向けるフェリーナ。きっとセフィラの両親の元へ向かうんだろうとわかってはいるものの、彼女に着いていこうと思えなかった。

 

 ドンナとルーズは、死んでしまったドーズを想って泣いている。こんなにも悲しんで、心を痛ませて。魔王を倒しにいくフェリーナに着いていくドーズを止めようとしたイベントも確かあったはずだ。

 それでも、フェリーナを放っておけないと、ルーズは両親の反対を押し切ってフェリーナに着いて行った。そういう、イベントだった。

 

「お父さん、お母さん……」

 

 私の目からも、涙が溢れた。涙は地面に着く前に蒸発して、形にはならなかった。

 私はどうなっているんだろう。

 異世界転生したのなら、私の元の体はどうなっている? 私は死んでしまってここに来た? 死んでしまったのなら、私の両親はそれをどう受け止めているんだろう。

 

 さっきまでその事が頭の中に無かったことが嘘みたいに、そんな事を思って涙が止まらなかった。私の両親は私の死をどう受け止めているのだろうか。私は人知れず死んで、まだ気付かれていないのか、それとも目の前の二人のように悲しんでいるのか。

 この世界に来る直前のことが全く思い出せない。何故?

 

 何故私は、魔王を倒した後の世界に呼ばれたのだろうか。まだ、何もわからなかった。

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