実力をちょっとだけ試してみる
金髪の女「ねえ、魔道士目指してみない?」
俺「えっ、俺?」
金髪の女「そうよ、引きこもりのタクトさん」
な、なぜ俺の名前を知ってるんだ?そういえばこの人に命助けてもらったんだったな。一応お礼言っとくか。
俺「あの時は助けていただきありがとうございました」
金髪の女「気にしなくていいわよ。あなたもご苦労様ね。あなたが敵の軍勢の中に1人で飛び込んで行った時はびっくりしたわ」
俺「あの時は一体でも多く倒さないとという思いでいっぱいでしたから」
金髪の女「うん、その心意気やよし。でも戦い方も知らずに突っ込むと包囲されてあの時みたいにやられちゃうのよ。…でもびっくりしたわ。あんな魔法が使えるなんて。あれ、高位魔法よ」
確かに魔法を使ってた覚えがある。骸骨を爆発で吹き飛ばしまくってたな。でも最終的には囲まれて四方から攻撃を受けちゃったんだよな。
金髪の女「あなた、集落中で悪い噂になってたわよ。あなたはおじいさんの手伝いもしないし、勉強もしないお荷物な人だって。でもおじいさんはその度に否定してたわ。きっと息子は魔王の手から世界を救う人間になると信じて疑わなかった。私も町中の人も親バカだと思ったわ」
やはりそうだったか。この親にしてこの子ありとはよく言ったものだ。
金髪の女「でも私はあの戦い方を見て思ったわ」
金髪の女は俺の頬を撫でながらゆっくりと俺に顔を近づけてこう言った。
金髪の女「あなた、本当に魔王を倒しちゃうかもね」
当たり前だろ。俺TUEEEできるって神が認めたんだぞ。倒せるに決まってる。でもここは謙遜して好感度上げとくか。
俺「ええっ?俺が?そんなの無理ですよぉ…」
謙遜しただけのつもりだったが金髪の女は違った風に捉えたらしい。
金髪の女「あっそ。じゃあ無理ね。諦めなさい。それじゃ」
スタスタとどこかへ行ってしまおうとする。
俺「おいおい、待てよ。そんなあっさり。どういうつもりだ」
金髪の女「どういうつもりもないわよ。あなたに魔王を倒す意志がないのなら無駄だと思っただけよ。他のところにでも行って職を見つけなさい」
俺「いや、さっきのはほんの冗談だ。倒す気満々だよ。俺がやらなかったら誰がやるんだ。この世界で無双できるのは俺しかいねぇよ」
金髪の女「そう。じゃあ今度から弱音は二度と吐かないこと。約束できる?」
俺「もちろんだ」
金髪の女「じゃあ来て。あなたの修行場所を紹介するわ」
俺は金髪の女に連れていかれた。
1時間は歩いただろうか。
ずっと無言のまま町を出て歩き続けている。
俺「まだですか?」
金髪の女「もうちょっとよ」
俺 (待てよ…この道覚えがあるぞ。これは……王都への道だ)
またさらに1時間くらい経った頃。
俺「まーだー、ですかぁ?」
金髪の女「着いたわ」
王都の隣にある城下町みたいだ。ここは行ったことがない。
そのまま金髪の女に付いていくと、制服らしきものを着た人たちが沢山いる。
俺「ここで何をするつもりなんですか?」
金髪の女「もちろん学校の入学試験を受けるのよ。ここは寮完備だしあなたでも通えるはずよ。お金も問題ないわ。私が推薦してあげるからタダよ」
俺「いやいやいや、いきなりすぐ入学試験なんて……」
金髪の女「じゃあまた路頭に迷う?別に私はそれでもいいけど。良いこと?あなたに選択肢なんてないのよ。感謝の意を私に示すことくらいしか今はあなたができることなんてないの。わかるかしら」
俺「……で、入試って何やるんですか?」
金髪の女「知らないわ。今年初めて入試を取り入れた学校だもの」
俺「えっ、ちょっ、……そこって何やるとこなんですか?」
金髪の女「王立機動隊学校よ。メカを魔力で操縦して戦うの。つい一年前に発見された戦闘法よ」
俺「魔法で俺TUEEEするんじゃないのかよ…」
金髪の女「別にそっちもアリだけど?でもあなたのように高位魔法をガンガン使っても魔力が尽きない人にはこっちのが合うんじゃないかと思って。まあどっちにしろその魔力なら受かるだろうけど」
俺 (ちょっと待てー!俺は魔力によるメカの操縦はおろか、魔法もまだ使ったこともないんだぞ!流石にいきなりはきついって!)
俺「その、俺まだメカ触ったことないしさ、操縦無理だと思うんだよね」
金髪の女「あともう一つメカの方がいい理由があって、あなた力と体力が全然ないのよ。さっきの戦いで分かったけど、いくら魔導師だからって敵の攻撃一発で倒れてるようじゃ話にならないわ。その点、メカなら自分を守ってくれるし、少なくとも体力ステータスは気にしなくて良くなる。変なことに気を取られることなく、魔力を極められるわ」
俺「確かにそうかもしれないけど、少し練習も必要だって…」
金髪の女「ほとんど練習したことのある人はいないと思うわ。ホントに最近できた戦い方だし。ほら、行くわよ」
俺「そうですか。いつ入学試験受けるんですか?」
金髪の女「今日よ。飛び入り参加ね」
俺「いやいや、無理でしょ」
金髪の女「そうね。普通なら。だから、とびっきりの好成績を出しなさい」
俺 (対策しようがないのにか?…いや、対策しようがない方がぶっつけ本番では有利なのか?確かにそっちの方が良いかもな)
金髪の女「では、手続きをしてくるわ。そこで待ってなさい」
すぐに女は何処かへ行ってしまった。
俺「どうなるんかな、俺」
俺はこれから起こる事にワクワクする反面、不安なドキドキ感も感じていた。
俺 (メカか。魔力で制御すると言ってたな。どれ、ちょいと準備運動がてら魔法の練習でもするか。)
俺は記憶の中にある魔法を思い出し、出来るだけ威力の小さいものを発動しようとマネした。
すると口から詠唱がスラスラと出てきて身体も魔法を発動する姿勢に自然となっていた。
俺 (これは相当練習したな)
そしてみるみるうちに手に魔力が集まってくるのを感じた。
そして堪え切れないくらい溜まった時、詠唱が終わった。さて、撃つか。あの程度の威力なら地面が少し欠ける程度の爆発だろう。
そう思い、撃った瞬間、ドカーンと大きな音が響いた。
自分の体は宙に浮き、周りにあった地面の欠片が飛び散っている。声が出る暇もなく地面に着地し、俺は意識を失った。
ーー2時間後ーー
金髪の女「メンタルヒール!」
俺「はっ!」
俺が目を覚ますと俺は医務室のような場所にいた。
金髪の女「どうやら意識が戻ったようね。あなたは何をしてたのかしら。こっちはわざわざあなたのために入試手続きしてたっていうのに」
俺「すみません!つい、自分の魔法の威力が気になってしまって」
金髪の女「そんなの自分が一番知ってるでしょう。それに地面に向けて撃つなんて自殺行為も甚だしいわ」
俺「そうですよね、FPSでロケラン地面に撃って爆死するようなものですよね。いやあ、思慮が浅かったです」
そう。昔使ってた時は大したことのない魔法でも今使ったらこれだけ大爆発になるんだ。
今度からは気をつけよう。
でも魔法の使い方は分かったぞ!
金髪の女「さあ、これからは試験よ。せいぜい暴発しないよう、頑張ることね」
そういうと金髪の女は帰ってしまった。
コッコッコッという礼儀正しい三回ノック。そのあとガラガラっとドアが開いた。
教官らしき人「タクトさん、試験会場はこちらです」
さて、いくか。
放送 「えー、では最後のF組のみなさーん、こちらへ」
教官らしき人「さあ、あちらで最後の組の試験が始まります。間に合って良かったですね。さあ、行ってらっしゃい」
俺 (最後の組か。危ない危ない)
こうして試験が始まった。