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平成が終わる前に  作者: 書常時雨
3月が終わる前に
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3月が終わる前に②

 その後私は彼から告白された。もちろんOKをした。1年生から好きだったから嬉しかった。まさか彼が私のことを好きだとは思わなかった。あの日とあの場所は今でも私にとっては思い出の場所だ。今でもこのヘアピンを見つめれば思い出がフラッシュバックしてくるぐらいだ。これは……捨てるかどうか迷った。これを捨てたら彼との思い出を忘れるんじゃないかと怖くなった。ヘアピンを右手に握りしめ床に広げた真ん中の置いて行くものの場所に置いた。次はお酒をモチーフにしたオードパルファムが出てきた。私はキャップを上に引っ張った。ホワイトワインを感じさせる甘くて爽やかな香りが私の鼻に入ってきた。


 彼と初めてのデートをした時だ。私はもともと香水が好きで好きな匂いがあると買っては集め学校にもたまにつけて行っていた。

「私ね、付き合ったらしたいことがあるの?」

「ん?」

 彼が無邪気な顔を私に向けて少し微笑んだ。

「お揃いの香水買おう」

「いいよ!俺も買いたいって思ってたから!」

 ホッとした。彼がもし香水が嫌いだったらどうしようと頭の中で断られる未来を描いていたがそんな期待を見事に裏切ってくれた。それだけでも嬉しかった。冷房の効いた香水売り場に2人は居座り「これは?」と彼が差し出してきたものを嗅いでは「これいい匂い」とか「これはトイレの消臭剤みたい」のような素直な感想を彼に伝えてもとにあった場所にテスターを置いた。彼はジン&ベルモットかホワイトワインのどちらかだと言い、私はギムレットかホワイトワインが良いと言った。奇跡的にホワイトワインの意見が揃ったので2人でそれを買った。

 2人はその後花火を見た場所に訪れた。少し風が強かったが気温は猛暑続きだった8月初旬と比べると暑くなかった。彼からオードパルファムの匂いが風に乗ってしてきた。少し湿った夏の空気がオードパルファムによって、彼が付けていることによって変わった気がした。この時間がいつまでも続けばいいと思った。お互い明日から部活でなるべく家に帰りたくなかった。

「なくなったら買いに行こう。香水を」

 意外な言葉だった。というか私の口から言う言葉だと思った。

「うん!何回も買い替えられればいいね」

 私はあの頃幸せという味を噛み締めていた。彼との時間はかけがえのないものとして今も私の頭の中で再生され続けている。


 その後去年の夏に1回買い替えた。それが今手にしているオードパルファムだった。もちろん特徴もない箪笥の中には初めて買ったオードパルファムの空瓶もあった。彼との思い出を捨てることは出来ずに目に見えないところに保管し壊れないように、なるべく思い出さないようにしていた。

「あの時気がついてくれなかったね」

 そう呟いて私はセンター試験が終わって数回彼と同じ授業を受けたことがある。そこで1回だけオードパルファムを付けたことがあった。

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