予備校へ通う前に②
真昼間に昼寝をして目を覚ますと空は闇に包まれていた。俺は暫くボーッとしてから身を伸ばして部屋の照明を付けてスマホのロックを解除して例のアプリを開いた。数々のユーザーからフォローをもらったがそれきりだった。しかし、「カサ」というユーザーは丁寧に『フォローありがとうございます!』とダイレクトメールをしてくれた。それだけで嬉しかったし舞い上がった。俺はすぐに『こちらこそ!』『始めたばかりでよく分からないですがよろしくお願いします』と返信した。
また少し街を歩く。ネオン街のようにキラキラとはしてなく、街の裏道ぐらいの明るさでしかなかったが全国のいろんな思いを抱えた人の呟きを眺めていた。
火曜日の夜中、唯一チャットをしていたカサから『グループ通話に入りません?俺の仲良い人いるんで』と返信が来た。俺は『ご一緒してもいいなら入りたいです!』と返信した。もう夜の12時を過ぎて日付が変わっていて、家の物音が寝静まって何かをするにしても物音が響いていた。
今日は母に「予備校行くか?そうしたら相談会があるから日曜日に行こうよ」とドア越しに言われた。俺は何も返事をしないままドアを見つめていた。足音が去っていく。「予備校か……」1人でそう呟いて予備校について調べてみた。1年間にかかる費用は100万円以上、合格率も100%ではない。つまり俺に対して大きな投資を提案してきたのだ。しかも、予備校へ行ったからといって成績が上がると保証されていない。だから俺は返事のひとつも出来なかった。
次の行き場を見失って初めて気付く。やる事があったり時間に追われている人は幸せな人だと。本当の不幸は誰からも必要とされずやる事がないこと。今まさに俺がこの状態だから!
必要とされないなら死んでやると思ったが死ぬのにも勇気が必要で自殺はなかなか試みれなかった。ならば交通事故にでも遭って死んでやろうとしたが、ずっと家から出ていない状況で交通事故になど遭えない。何も出来ずに8畳間に篭っていたのだ。
部屋の臭いが獣を飼っているかのような異臭が漂ってきた。部屋の窓を開けて外の空気を入れた。外はずっと部屋に引き篭もっている俺を馬鹿にしているようだった。鳥のさえずりと青い空、そして暖かい太陽の光も差し掛かり普通の人はこれをいい天気と思うのだろう。夢も希望もない人からすれば最悪の天気だ。休日にも関わらず家には俺1人になった。俺は部屋から出て食べ物と水を取ってシャワーを浴びに階段を下りていった。
今日は親切にもテーブルの上にパンが3つ置いてあり、『水は冷蔵庫の中にあります。』と、置き手紙がパンと一緒に添えてあった。




