「またね」という前に④
あの後カラオケボックスに5人で入って1時間ぐらい歌った頃、「朝まで俺の知り合いがやってる店にいないか?」と、岡本から誘われた。その事で俺ら5人はそれぞれ親に連絡をしてカラオケボックスから出ることにした。
「もしもし」
「もしもし、帰りの電車のこと?」
声の主は俺の母親だ。
「その事なんだけど、みんなで泊まってから明日帰ることにしたわ」
「ふ〜ん、誰のお家?」
「岡本」
岡本が辻褄を合わせてくれると言ってくれたのでその言葉に甘えて「岡本の家に泊まる」という体で親に連絡することにした。
「あの岡本さん!?」
「うん」
「分かったわ。明日気を付けて帰ってくるのよ」
何とかカラオケにいることはバレなかったみたいだ。
「カラオケも楽しんでね」
「あっ、はっ、はーい。えへへ」
驚いた。今カラオケにいることがバレてしまった。俺は通話終了ボタンを押して母親との通話を切った。
「俺は大丈夫」
俺は岡本に向けて左手の親指を上に突き出して許可が取れたことを伝えた。
「俺も大丈夫」
「俺もー」
水谷と一も許可が取れたみたいだ。
「親になんて言った?」
「もちろん岡本の家に泊まるって」
「俺も」
「そうしたら家の母親驚いてたよ」
「俺も」
「普通の高校生なのにな」
「頭はいいけどな」
「確かに」
水谷と一と俺で話している中、岡本が戻ってきた。
「お前親になんて言ったん?」
「遊んでくるって」
「それで許してもらったん?」
「もちろん、親の御用達の店らしいから全然心配してないよ」
岡本は爽やかな笑顔で「余裕」ということを伝えているようだった。
「あれ?大林は?」
「まだみたい。まあ、大林はキツいかな」
苦虫を噛み潰したような顔で岡本はドアを見つめ大林の許可が取れるか待っていた。
「結構言い合ってたぜ。大林は厳しそうだな」
「確かにな。意外と家は厳しいみたいだし」
しばらく経ってから大林が俺らの部屋のドアを開けた。大林はなんとも言えないようなあまりいい顔をしてなかった。
「大丈夫だったか?」
「いやー、ダメだって言われた」
やっぱりな。残念ながら大林抜きで岡本の知り合いの店に行くことになりそうだ。
「でもいいや。最後だし付いて行く!」
「え!?大丈夫なのかよ?」
「いいよ、怒られるのは俺だからさ」
大林が「太った」と部活が終わって言っていた頃よりも頬骨が出てきた顔で笑顔を作った。
「分かった」
岡本がソファーから立ち上がり、スマホを取り出して何かを打ち込んだ。
「じゃあ、1人620円な。会計はまとめて俺がするから」
やはり仕事が早かった。彼はあの短時間で割り勘したときの金額を求めていたのだ。
「俺1000円しかないわ」
「じゃあ380円あげるから1000円出して」
ネオンがカラオケボックスに入る前よりいっそ目立つような闇の中、岡本の知り合いの店にこの街へ溶けようとしていた。




