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平成が終わる前に  作者: 書常時雨
「『またね』という前に」
12/33

「またね」という前に③

「誰だよ、歩くとか言ったやつ」

 歩いて20分、一がグダり初めて愚痴をこぼした。

「みんな歩きでいいって言ったじゃん」

 大林が反論した。

「おい、デブには重労働だぞ」

 俺も限界が来てグダった。

 国道とあって車通りが多く俺たちの右側を車が何台も音を立てて走り去って行った。

「水谷、焼肉屋まで何km?」

「あと1km」

 疲れてしまったのか、水谷はロボットのように棒読みで岡本に焼肉屋までの距離を告げた。

「走れば3分じゃん」

「じゃあ走れよ」

 やはり元陸上部の大林は「体力がなくなった」と言っていたが俺ら4人と違って半分も使い切ってない様子だった。

 平成初期に栄えたネオン街の車通りは衰えを知らず、永遠に止まることがないと感じた。


「5名様入りまーす」

 焼肉屋へ入ってすぐにいた元気のいい女性店員はそう言って俺らを5人がギリギリ入るくらいの個室へと案内してくれた。今なら生肉でさえ食らいつくぐらい腹をすかした俺らには言葉のひとことさえ発しないくらいだ。1番安いコースの食べ放題を頼み、氷水の入ったコップで空腹を誤魔化した。

「早く頼もうぜ」

 我慢の出来なくなった俺はぐったりとして澱んだ空気の中で言葉を発した。

「とりあえずライス大」

「俺も」

「それだけは人数分頼んでも良くね?」

「そうするか」

 人は極限まで空腹になった時、ご飯を食べたくなるという理論は当たっているみたいだ。

「肉は?」

「牛カルビで良くね?」

「ヒレも」

「あとキムチ」

 1番モニターに近かった俺はそれら全てを入力してそれらが来るのを待った。


 90分のうち60分は無口になって黙々と食べ物を食らった。言葉を発するのは全て単語。しかも食べ物の。そのうち大林が満腹になったらしく、ひたすらみんなの肉を焼いていた。

「大林も食えよ」

「もういらない」

「え、少なっ」

「最近1日1食しか食べてなかったから」

「空腹で死んじゃうじゃん」

「それがこの通り」

 少し痩けた顔に笑顔を作りながら両手を広げて元気だということをアピールしているようだった。

「ほんと心配するよ?」

「大丈夫、逆に食べた方が具合悪くなりそう」

「それならいいんだけど……」

 俺はバニラアイスを5つモニターに打ち込み、これで締めにしようとした。


「あー、食った食った」

 俺はもっと丸くなった腹をさすった後に優しく叩いた。ポンと活きのいい音がした。

「山下、お前また太るんじゃねーの?」

「もうデブだから」

 俺は一に向かって笑顔で返した。俺らは焼肉で食いすぎた分を消化するために駅まで歩き始めた。

「なあ」

「ん?」

「これからカラオケ行かね?」

 ここで遊び人の岡本が提案をした。

「いいね」

「受験期に行きたくても行けなかったからな」

「大林、大丈夫か?」

「大丈夫、今日は思う存分遊ぶから」

 大林はみんなに笑顔を見せた。でもその笑顔が痩せ我慢にも思えた。

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