「またね」という前に②
ボウリング場へ向う無料シャトルバスは春休みとあって学生の列が連なっていた。
「これちょっとキツくね?」
「こんなに人が入らないよな」
「とりあえず並んでおくか」
5人は談笑しながら待っているグループがいくつもある列の1番後ろに並んだ。
「なあ、じゃんけんでここに並ぶ人決めね?」
そう提案したのは岡本だった。
「2人にしておこうぜ。1人だと可哀想だから」
結果、大林と俺が残ることになった。特に大林はすることもなく特に困ってなかったが俺は電気製品の売ってある店の中にカードゲーム機があったのでそこでゲームがしたかった。
「ああ、もう。なんで負けちゃったんだよ」
「まあ、いいじゃないか」
大林は遠くを見つめているようだった。彼はもともと活発で底なしの明るさと気力が取り柄だった。
しかし、夏休み明けから彼は大人しくなりとても穏やかな人になっていた。
「お前って変わったよな」
「そうか?」
この反応から彼自身に自覚が見受けられなかった。部活をやっていた頃よりも痩せてしまって俺とは対照的なヒョロっとした背中で何を背負っているんだろうか?今この時期を迎えて彼はいったい何を思っているんだろうか?小学校から同じ学校で5人の中でも1番付き合いが長いが彼の心の闇に気付いているのに触れられなかった。
「受験が終わって勉強しなくてもいい期間何してたん?」
「俺はスマホを見たところで何もないから読書かボーッとしてるな」
まだ少し違和感を感じるが今の彼らしい回答だ。
「そうか」
付かず離れずのこの関係が古めかしいこの街と2人には似合っているような気がした。
その後5人はシャトルバスに乗ってボウリング場へ到着した。そして俺らは7ゲームも投げていた。最初は5人全員スコアを100近くまで伸ばせていたが、カーブの練習と言って水谷がふざけ始めたり大林が変な投げ方をして最後はガーター連発したりなど最終的にはみんなグダグダだった。その中でも遊びを知っている男である岡本がスコアを伸ばし俺も130を越えるなど(この5人の中では)1番スコアが高かった。
外に出ると日は落ちていて7時前になろうとしていた。
「次どうするか?」
「俺、腹減ったよ」
「近くに何があったっけ?」
「特になーんも。てか、駅から離れているから駅までバス乗る?それとも歩く?」
「駅まで何kmあるん?」
一がスマホを取り出して距離を調べてくれた。
「およそ6kmだって」
「余裕じゃん」
拍子抜けた声で「余裕」という言葉を発したのは元陸上部の大林だった。
「陸上選手と一般人を一緒にすんな」
「まあ。いんじゃね?歩いても」
岡本はいつも通り余裕のある口調で言った。
「バス代とか勿体ないし、歩いてもいいか」
暖かくなったと思っていたが夜になってみれば寒空が戻って温かいミルクティーの似合う季節に逆戻りだった。
国道を走る車のライトに照らされて5人は駅へと歩みを始めていた。




