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平成が終わる前に  作者: 書常時雨
「『またね』という前に」
10/33

「またね」という前に①

 過ごした5人の日々がこれからは思い出に変わろうとしていた。 2年間同じクラスで教室に居るときはいつも一緒だったいわゆるイツメンもそれぞれの進路に向けて動き出そうとしていた。

「なあ」

「ん?」

「俺らって中学の頃あんま仲良くなかったよな」

「確かにな」

「不思議だよな〜」

 大林の言う通り俺らは同じ中学校だったがその時はそこまで仲良くなく話すこともほとんどなかった。しかし3年間同じクラスだった俺ら2人は部活は違えど中学の頃には考えられないほど仲良くなっていた。

 電車に揺られ学び舎から最寄り駅に降りてイツメン5人のうちの1人で大林と俺は3年間同じクラスの(はじめ)の家へ向かっていた。恐らく俺らと反対の下り線から学校へ通っていた岡本と水谷は既に一の家へ着いているだろう。いつもは長い雪解けも今年は3月の初めでなくなり、例年に比べて早い春を感じていた。

 今日は5人で夜までサッカーをしようと計画していた。「最後に遊ぶなら俺らが好きなサッカーで締めようぜ」という水谷の提案だった。そこに追加で岡本が「それなら夜までやらね?」ということで受験期に関わらず昼休みに体育館でガチになって汗をかいた俺らに相応しい最後だと俺は思った。水谷と俺は元サッカー部で水谷は高校で部活が始まって3日、俺は高校2年の12月までやっていた。大林と岡本はそれぞれ違う部活で一は高校では部活をしていなかったが3人ともサッカーが好きだった。特に大林は地元のオレンジと青のチームを応援している熱狂的なサポーターだった。


「なあ、夜中までサッカーは夜寒いからやめね?」

 そう提案したのは一だった。

「やめて何するん?」

 俺はそう一に問うと

「これからボウリング行って焼肉行くだろ?そのままそこにいてその場で何するか決めようぜ」

「いんじゃね?今日はめちゃくちゃ金使うな」

 と、大林。

「まあ、いいっしょ。最後だし」

 岡本はいつでも余裕のある顔だ。

「つー事で、俺らの最後の思い出作りやろうぜ」

 こうしていきなり最後の思い出作りと題して県内で1番賑わっている街で夜まで遊ぶことになった。


 学校の最寄り駅から終点となる県内で1番賑わっている街へ。この駅から乗ることは多くて1回か2回ぐらいだろう。いつも5人で駄べりながら帰ることもこれから一生ないのだろう。そんなついこの間のことが懐かしく感じた。別れというものは非常に残酷なものだ。

  5人はこの駅が始発の電車に乗り込んでスマホをいじったりしながら出発を待った。

「シャトルバス何時に来る?」

 そう聞いたのは岡本だった。

「調べてみるわ」

 水谷がスマホを取り出して検索を始めた。

「12:30に1本ある」

「そうしたらちょうど良くね?」

「確かにな」

「よし、決定だな」

 いつの間にか電車は出発し間もなく次の駅に到着しようとしていた。

「やっぱさ、岡本って社長の息子だなって感じするわ」

 大林がポツリと呟いた。

「どこからそんなこと思ったんだよ」

「今だってそうだけど人を動かすのめっちゃ上手いじゃん。やっぱ将来有望だな」

「いやいや、ウチの親父は凡人だよ。じいちゃんのおかげであれだけの会社になったからさ」

  岡本は遠くの方を見つめていた。

「しかも、親父より伯父さんの方が有望で跡継ぎは伯父さんだって言われていたらしいけど何故か親父が社長する事になったらしいな」

「そんなことがあったんか」

「なんか上手くいっちゃって不景気の今でもやれているみたいだね」

「ユニフォームスポンサーにもなってるもんな」

「ほんとにちっちゃいけどな」

  終点のアナウンスが俺ら5人と数人しか乗っていない電車に流された。

「『平成』という産物を享受して新しいものを取り入れることを忘れてしまった街」に電車は迷い込んでいた。平成初期に建てられた中途半端に高いビルが車窓から見えていた。

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