政務官を目指す侯爵令嬢、登城したら王太子の婚約者になりました~アルバートの苦悩~
「アルバートは何故結婚をしないの?」
唐突に聞いてきたのは、フェルデリファ国の王女であるシャーリー殿下(10)。
「そうですね~殿下の父君と母君が、私をこき使ってそんな暇がなかったからですかね~」
曇りなき眼で尋ねるシャーリーに、遠くを見つめて悲し気に答えたのは、筆頭公爵家ランズベルト家当主にして財務大臣であるアルバート(33)。
実際、現職の大臣職の他に、王妃リディアナの政務に同行したり、国王ルイスの勅命や実務を任されたりと、お嫁さんをもらう暇もなく大忙しなのである。
「……はぁ」
殿下の前だというのに思わずため息が零れた。
というのも、今朝は陛下の機嫌が悪く、かなり理不尽に振舞われた。アルバートに思い当たる節はなく、ご機嫌を損ねるような事をしてしまったかと悩んでいたのだ。
「何があったのかは分からないけど、元気を出してね」
シャーリーはそんなアルバートを慰めるように、体を伸ばして頭を撫でてくれた。
「……ありがとうございます」
国王夫妻にはシャーリー王女の他に王子が二人いらっしゃる。
どちらも夫妻に似て聡明で誇り高く、日に日に王族として立派に成長されている……のは喜ばしいのだが、アルバートを振り回す才能も似てしまい、二人も婚期を逃している要因になっていると思う。
それに比べてシャーリーはおとなしく、可憐で、いつも二人の王子からアルバートを庇い優しく労ってくれる。
今も激務のアルバートを散歩に誘い、外で休憩と称してお茶を共にしていた。
「はー……シャーリー殿下は私の癒しですよ」
穏やかな気候に心が和み、頬に当たる風が心地いい。
日頃の激務で疲れ切った体に、こういう休息も自分には必要なのだなと思った。
「ならば私と結婚をしましょう、アルバート」
「……ん?」
「あと六年。私が大人になるまで待っていてちょうだい。その間に他の女性と結婚したら、ただじゃおかないわよ」
幼く愛らしいお顔とは対照的に、過激な発言が飛び出る。
アルバートは予想外の展開に、面食らって固まってしまった。
シャーリーは反応をしないアルバートに、天使のような微笑みで語りかけた。
「お父様には私の方から気持ちを伝えておいたからね」
陛下の不機嫌の理由がここにあったか!!
頭を抱えて唸るアルバートに、返事を聞くつもりのないシャーリーは己の意志を告げてとっとと席を立ってしまう。
「あ、待っ」
シャーリーは振り返った。その顔は不機嫌そうに口を尖らせているのだが、頬は紅潮して手は震えていた。
「私、本気だからね。あなたが好きよ、アルバート」
ぱっと駆け出していくシャーリーは、最後に特大の爆弾を投げて見事命中させ、アルバートはその場に撃沈した。
「俺の婚期……また伸びる……」
リディアナに出会って色々あった。
だがこんな未来までは誰が予想できただろうか。
あの時、リディアナと出会った事で自分の人生が大きく舵をきったことを、たった今身を持って思い知ったアルバートであった。
短編で出させていただきましたが、『変わり者侯爵令嬢の守りたいもの』のスピンオフです。
好きなサブキャラ・アルバートのその後を書かせていただきました。
自己満足発揮して書いていて楽しかったです!
本編も(かなり長いですがw)興味のある方はぜひとも読んでいただければ嬉しいです!