06 状態異常の恐ろしさを知る
新しい朝だ。慶びに振るえ、歓喜のうれし涙にむせび泣く程の清々しい朝だ。
ロリエルフとの2人きり野宿。素晴らしい。
お日様が上って来る頃だから、5時から6時の間なのだろう。ゲームをしているのに早寝早起きで健康的だ。
就寝前は、疲労感があって気怠かったけど、今はそんな事が全然無い。筋肉痛も起こっていないので、見えないダメージなんかも回復しているんだろう。しかしながら、クロ―シアの説明の通りに空腹だ。満腹度は回復していない。空腹を放置すると、行動阻害が起こったり、体力が減ってダメージを受けるとか。死んでリスポーンすれば治るらしい。けれど、餓死って死因の中でも苦しさトップレベルと聞いた事がある。そうなりたくは無いものだな。
さてご飯にしようとパンと水を用意しているのだが、クロ―シアがまだ起きて来ない。朝が弱いタイプなのだろうか?
「クロ―シア。朝だよ。起きて」
「……おはようございますイソカ様。申し訳ありませんが、起きる事ができません」
何だ何だ、お寝坊さんだな。ここでは日中しか活動できないから、日のある時間は貴重だと思うぞ。
「でも、ぐずぐずしてたら直ぐ昼になっちゃうよ。気合いを入れて起きようぜ」
「はい、そうしたいのはやまやまなのですが、どうやら体が状態異常を起こしています。その為、手足を動かす事がままなりません」
傷とか疲労は回復するって事だから、病気って事なのか? やばいじゃないか! 早く治さないと!
「って事は病気か? どうすれば治るんだ?」
「病気では無い様です。疾病状態のアイコンが確認できません。しかし、継続的な体力の低下が微量に起こっており、状態異常アイコンは火傷となっています」
火傷って言ったって、たき火からは適度に距離を取っていたし、クロ―シアの寝袋が燃えた形跡なんても当然ない。何が原因なんだ? 取りあえず、昨日のクロ―シアがとった行動でおかしな点が無かったか思い出さないと。
って言っても、俺にゲームの説明をしたり、食事したりで、後は日向ぼっこしかしていないぞ。……まて、あれか? 今は季節が夏だから、日向ぼっこして日焼けしたって事か?
一口に日焼けって言っても、軽く赤くなる程度のものから、皮膚がただれてしまうほどの重度熱傷になる事があるって聞いた事がある。だから母親から、日焼け止めはきちんと塗れって、春過ぎからは塗り塗りと刷り込まれた。
「クロ―シア、ひょっとしてその火傷は日焼けなんじゃないか?」
「分かりません。このような状態は想定外なので、判断がつきません」
「運営に確認は?」
「ただいましてみます。お待ちください。……ダメです。チュートリアルが終了したので、こちらからの通信機能は凍結された様です」
基本的にはオフラインゲームだから、都合よくGMコールはできないのか。そうなると、自分たちでどうにかするしか無いって事だな。
「通常なら、火傷はどうやったら治る状態異常なんだ?」
「はい。通常でしたら、水をかけて幹部を洗いますと、進行が停止し、一晩寝ると回復します」
それじゃ、回復しなかった理由は分からないけど、まずは水をかけてみるか。
「クロ―シア、今から水をかけるから、寝袋のジッパーを開けるぞ」
ツツツ~っとジッパーを下すと、顔だけじゃ無くて手足も赤く腫れぼったくなっていた。浮腫みも出ていて、非常に痛々しい。着ているのが薄手のワンピースだから見えないけど、お腹とか背中も酷い事になっているかもしれない。早く楽にしてあげたい。
ゲーム的な思考をするなら、殺してリスポーンが手っ取り早いけど、AIを開発するってプロジェクトの一環なんだから、それは最低の選択だよな。でも、クロ―シアが苦しみぬいても他に手が無いなら、一旦楽にしてあげる事も必要なのか?
何だか、とってもディープだよ。この状況は。
全身に水がかかる様にゆっくりと水をかけてやる。水は昨夜の内に沢山買っておいたから、ストックは充分だ。
「どうだ? 少しは楽になったか?」
「イソカ様、有難うございます。現在は背中側が比較的楽ですが、お腹側は元の痛みが復活しました。おそらく、寝袋にしみた水が痛みを軽減させているのかもしれません」
そうか、日焼けした時って、プールに入るとちょと沁みるけど、気持ち良いもんな。じゃあ、ジッパーを締めてその上からだ。
「イソカ様。この簡易野宿セットはもう暫くすると、使用可能時間が終了します」
そうだった。忘れてた。12時間しか使えないんだった。しっかりしろよ、俺。昨日は日が暮れてから、いくらもしない内に使い始めたから、もうそろそろ時間切れだ。
慌てて、予備に購入していた物を展開して、寝袋を用意する。
「クロ―シア、新しいのに体を移すぞ。火傷を触るから痛いと思うけど、頑張ってくれ」
「はい、お願いします。……っくぅ」
物凄く痛くて辛そうだ。なるべく肌が服や寝袋で擦られない様に細心の注意を払う。濡らしたから余計に肌に張り付いてしまって、かなり集中力が必要だ。こんな事なら、寝袋の移動を先にしておけばと思ってしまうが、後悔先に立たずだ。
何とか寝袋を移動させて、しっかりと全身に水をかけてやる。今度はどうだろうか?
「今は先程と比べると幾分落ち着きました。イソカ様、有難うございます」
そうか。応急的にはこれで良さそうだな。けど、根本解決にはなっていない。
「何か状態異常を回復するアイテムとか無いのか?」
「現在のバージョンから、万能薬が導入されましたが、交易に並ぶ事が少なく、値段も高価です。他の状態異常なら各種対応した薬が有りますが、火傷は本来なら対処が楽な症状の為、専用薬は有りません」
そうなると、スキルで治療とかあるのかな?
「治療系のスキルは存在しますが、高い実績Pが必要になります」
それじゃダメだな。今苦しんでいるクロ―シアをどうにかしないとだ。
そう言えば、体力も少しずつ低下してるって話だったから、水薬は効果あるのか?
「火傷も怪我の一種だろ? なら水薬を使うとどうなんだ?」
「……それは分かりません。水薬はあくまで失った体力を回復させる物です」
「他にクロ―シアが思いつく解決法ってあるか?」
「……現在の所、原因が不明なので、万能薬以外の方法は思いつきません」
そうなのか。じゃあ、取りあえず思いつきでも水薬を購入できる様にしよう。って、6時で商品が入れ替わるんだったよな。今日もあるのか?
交易ボックスを覗いてみると、今日も水薬はあった。鉄の斧は無かった。そして、万能薬もあった。けど、値段が薪5千束って、ふざけんな! 1つ買うのに何日かかるんだよ!