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04 初めての伐採作業


「ダメです」


 いきなりナビゲーターさんから紡がれる拒否の言葉。ちょっとだけで良いんです。減る物じゃ無いし、見るだけですから。モザイクの有無を確認するだけですから。知的好奇心なんです!


「ダメです」

「ひょっとして俺、声に出てましたか?」

「はい、バッチリと」


 そうかぁ。バッチリとかぁ。心なしかナビゲーターさんが離れていっている気がする。ジト目を通り越して全てを軽蔑する目を向けてくる。

 やめて下さい。その目は俺に効く。心が抉られます。なので自重しますとも。


「えっと、変な事を言いました。失礼。忘れて下さい。それじゃ、服もこれで大丈夫です」

「かしこまりました。それでは元のフィールドに戻ります」


 するとセレクトショップだがブティックだか的な空間から、元の森と草原のフィールドに戻った。俺の求めた物はこれだ。まったりライフなのだ。

 小鳥がさえずり、木々は風にざわめき、足元には緑の魔法陣。大自然だ。


「って、ナビゲーターさん、この緑の魔法陣は何なの?」

「こちらはイソカ様がゲーム内で死亡した際にリスポーンするポイントになります。緑色の円内なら他の生物が許可なく入ってこれないので、安全地帯になっていますよ」


 なるほど。つまり熊とか狼みたいな敵が出るって事だな。安全地帯に守られて、敵の群れが多くても安心って事か。これも紹介動画には無かった点だ。新しい体験に血が沸くぜ。


「敵対生物への対応方法等は、初遭遇時にご説明します。それでは、これから大まかなゲームの流れを紹介します」

「おっけ。お願いします」


 ナビゲーターさんの言葉で目の前にリュックが現れた。古い感じのデザインで革で作られた様な物だ。おもむきが有る。


「こちらのリュックを装備しているとアイテムインベントリにアクセスできます。開始時には『石の斧』が3本に『パン』と『水』が3食分入っています。ご確認下さい」


 リュックを手に取り中を覗くとインベントリ画面が出てきた。確かに斧とパンと水が有る。けど、パンと水が3食分にしては多い気がするな。


「ナビゲーターさん、食料が多い気がするけど、このゲームって食事がシビアなの? 空腹感がなかなか満たせないとか」

「基本的にはパン1つ水1つで1食が賄えますよ。食べ過ぎてペナルティ等はありませんが、開始時は最低限の支給となっております」


 そうなのか。でも、それにしては多いぞ。パンも水も6個ずつ入っている。


「食料が6食分ありますよ。今度こそバグ?」

「そんなはずは無いと思いますが、ただいま確認いたします。少々お待ちください」


 するとナビゲーターさんは何とも虚ろな表情になって立ちすくみだした。視界の端には『ローディング中』とまた出る。

 いきなり手持無沙汰になってやる事が無くなるが、俺は時間を無駄にしない男だ。ナビゲーターさんの身体をじっくりと観察する。二の腕が良い。ヘッドロックを喰らいつつ抵抗するふりしてタプタプしたい。さすると滑やかで気持ち良さそうだ。


 じ~~っと見つめていると、ピンポンとSEが鳴る。


「お待たせいたしました。食料はイソカ様と私の分を合わせた3食分だそうです」

「そうなんだ。って事はこれからナビゲーターさんも一緒にゲームに参加できるって事?」

「はい、そうなります。今までのお客様はみなさん音声でのナビゲートに違和感を持たれなかったので、チュートリアル・ナビゲーターがこの様に姿を表す事はありませんでした。イソカ様が初めてのケースになります」


 そうか。だいたいの人は色んなゲームを経てからこの『俺だけの森・オフライン』にたどり着くんだろうな。その間に耳元音声に慣れちゃうんだろう。俺みたいにVRゲーム初体験がコレって人は居なかったみたいだ。

 しかも、ボッチゲーにいきなりの相棒ができた。ナビゲーターさんはイベントで説明がある度に、現れたり消えたりするもんだと思っていたけれど、ずっと一緒に居られる様だ。ロリっ娘エルフと始まる森生活。素晴らしいね。


「それじゃ、ナビゲーターさんも名前を付けようか。どんなのにする?」

「名前、ですか。開発の方ではイベント02チュートリアルと呼ばれていました」


「それって、プログラムとかコードとかの識別名でしょ? スポーツの、ピッチャーとかゴールキーパーとかのポジション名みたいじゃん。これからはチュートリアル以降もゲームに居られるみたいだから、きちんと個別の名前を付けようぜ」

「そう仰られても、それを可能にするだけの経験がまだ蓄積されておりません。ですので、イソカ様がご命名ください」


 ふむ、現在のナビゲーターさんは、黒い髪に白いワンピースで赤い目が特徴だ。黒白赤。くろしろあか。


「クロ―シアってどう?」

「異存ありません。ありがとうございます」


 そういう事でナビゲーターさんは、クロ―シアに決定した。口調は固いけど、はにかんだ表情でほほ笑んでいる。甘い物を沢山食べさせたい可愛い。


「そんじゃクロ―シア。ゲームの流れ説明の続きをお願い」

「畏まりました。基本的には樹木を伐採し、薪を作り、それを交易品と交換するのが主になります。それでは伐採を始めてみましょう」

「おっけ! それを望んでいたところだぜ」


 インベントリから石の斧を取り出して手に持ってみる。ずっしりとした重さがあり、かなり丈夫そうだ。

 安全地帯な緑の魔法陣から出て、適当な木の前に立つ。それに向かって石の斧を振るうと、森に響くコンッ! という音と、確かな振動が手に伝わってきた。

 コンッ! コンッ! コンッ! とひたすらに打ち続ける俺。1打ち毎に木には切れ込みが入る。確か、片方をある程度切ったら、反対側からも切り込んで倒れる方向を調整するんだったか。立ち位置を変えて、また石の斧を振るう。しかし中々倒れない木。

 しばらくそうしていると、やっとミシッメキッ! っと音がする。


「た~お~れ~ま~す~よ~」


 クロ―シアが可愛らしい大声を上げると、バリバリ~っと音を立てて木は倒れた。ずしんと地響きがしてちょっと体が浮いた気もする。


「1本切るのも大変だね。どれくらい時間がかかってた?」

「およそ7分弱といった所です」

「そうなんだ。これって、もっと早くならないの?」

「良い質問ですね。斧を別の種類に変えるか、実績Pポイントを溜めてスキルを取ると効率化が図れます。実績の項目をご覧ください」


 そう促されて、画面の端っこにあるアイコンをタップするイメージを持って実績の画面を見る。そこには、伐採した木の本数だとか、最大の高さだとかの項目があった。


「項目の一番上が実績Pポイントです。これをスキルやゲーム的効果と交換する事ができます」

「スキルは何となく分かるけど、ゲーム的効果って?」


「例えば切り株に使用すると、そこから瞬時に新たな成木がリポップします。またゲーム内時間で10日が過ぎれば自然と同じ位置にリポップするのですが、実績Pポイントを使用すると、その場所ではリポップしないようにも設定できます。こちらは建築の際に使用する事が多いと思います。どちらも1Pを振るだけで可能となりますよ」


 という事は、どんどん伐採しても木が足りなくなる事は無いし、ゲームプレイ的に望まない位置に木が生える事を防ぐ事ができるのか。


「なるほど分かったよ。それじゃ、この次は?」

「はい、倒した樹木をまた石の斧で叩いて下さい。そうすれば薪になります」


 倒した木を適当にコンコンと何度も斧で叩くと、その通りに薪になった。全部で5束だ。ただ気になるのが、薪に変わる時に枝も葉も無くなってしまった事だ。


「これ、枝って取得できないの?」

「伐採後の樹木から枝を取得するには、ハードコア拡張パックの導入が必要です。ゲーム的な要因の多くを排除した物になり、よりリアルな森暮らしをお楽しみ頂けます」


 拡張パックときたか。しかもハードコアとな。でも、それってお高いんでしょう?


「はい。2万円になります」

「高っ! なんでそんなに高いの?」

「それは、拡張パックの売り上げが開発者のボーナスになるそうで、大変気合いが入った仕様になっているそうです」


 開発者は、値段の設定を間違ってる気がするぞ。ちょっと興味は惹かれるけど、お金が無いから当分無理だね。このまま次の説明を聞く事にしよう。


「因みに、現在のイソカ様はAI開発特別プロジェクトに参加いただきましたので、例外的なディープモードへと仕様が拡張されています。ノーマルとハードコアの中間といった位置づけです。……運営からコールが入りました。立木からなら枝を取得できるそうですよ」

「あ、そうなんだ。って事は木登りを覚えないとだな。でなければ、梯子を作るか」

「そうですね。クラフトメニューには梯子もあるので、可能です」


 そうか、いずれはチャレンジしてみよう。


「それでは、薪の束をアイテムインベントリに納めて下さい」


 クロ―シアに促され、薪の束を掴んでリュックの口に近づけるとするりと吸い込まれて行った。ドラさんのポケットみたいだ。


「ねえ、クロ―シア」

「何でしょうか?」

「このリュックの中には生き物も入れられるの?」

「可能ですよ」

「クロ―シアも?」

「もちろんです。実演いたします」


 するとクロ―シアはリュックに近づいてソロリソローリと足を突っ込んでいった。よいしょうんしょと声を出し、リュックに入るクロ―シア。ワンピースがちょっと引っ掛かってパンチラしていたのは秘密だ。わざわざ指摘すると恥をかかせる事になると思ったからだ。

 最終的には、頭だけをちょこんと出す恰好で収まる。

 さらさらふわふわな黒髪で赤い瞳のエルフ耳なロリっ娘が、リュックにスポンと収まってる。外見的に10歳位なのだが、更に幼く見えて来た。

 何これ、可愛い。お持ち帰りしたいわ。クロ―シアは、してやったりのニコニコ顔だ。


「次に、交易ボックスの設置場所を決めましょう」


 このままでか!





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