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海での話

「イソカー。早く一緒に遊びましょう!」


 眩しい水着姿でクローシアが俺を呼ぶ。

 俺達は海に来ていた。

 

 色んな場所を旅して、騒動を沢山起こしたり解決したり。

 活動範囲を広げつつ、やっと海に到達した。

 

「っぷはぁっ! 波め! この麗しくも清らかなる泉の女神たるイルメス様にたてつこうなんて、上等じゃない!」


 イルメスは、大きく波の立つ水面を走っている。

 暴れて水着から胸がこぼれないようにと、クローシアが頑張っていた。

 それと、どうせならサーフィンとかのが面白いと思うのだが、イルメス的にはまず水面を征服する必要があるのだとか。

 女神の理屈は、まだまだ理解が遠い。

 

「波……。大海嘯……。新しい魔法のヒントが出そうで出ないであります……」


 ウィンディは波打ち際に仁王立ちになって、精神の統一をしている。

 水着の上から長めのパレオを巻いて、おしとやかな感じだ。

 見た目はそうでも、考えている事はいつも物騒なのだが。

 

 そんな仲間たちを見つつ、俺は砂浜に置いたテーブルに着いていた。

 

「イソカ、どうしたんですか? らしくないですよ?」


 呼んでも来ない俺に痺れをきらせたのか、クローシアが俺の所にやってきた。

 

「課題がまだ終わらないんだ」


「そうなんですか。私がしましょうか?」


「いや、遠慮しとくぞ。こればかりは俺がしないと意味がないからな」


 そうですかと言って、クローシアは俺の横に椅子を置いて座る。

 やわらかく微笑んでいた。

 

 今、俺はとある課題をこなしている。

 ゲーム世界に起因する物ではない。

 ある意味では、原因と言えるけれど、高校の課題だ。

 

 ゲームから抜け出せなくなって、1年が過ぎた。

 現実では4ヶ月以上。

 それで、俺はこのまま高校は退学になって、中卒の身分になるかと思ったら、救済措置がとられた。

 それは、交易ボックスに高校のカリキュラムが送られてきて、それをこなして単位を取得するという方法だ。

 

 分量的には3年かけて行う物だけど、こちらの感覚だと時間はあと8年近くある。

 だったら8年かけてやれば良いだなんて思っていると、絶対に後回しになって酷い目を見る事になると思うんだ。

 だから、毎日しっかりノルマを決めて、それをこなしている。

 体感3年、実質1年で達成できるようにしたいのだ。

 

 だから、遊ぶのは今日の分の課題が終わってからと決めている。

 仕事メインの日はその限りじゃないけれど、遊びの日はそうするのだ。

 

 それで、クローシアに言わせると、こんな課題は一瞬で終わるらしい。

 実際に、彼女は超高機能なAIだから可能なのだろう。

 だいぶ前の俺なら手伝ってもらったかもしれないけれど、今はちゃんと自分でやるようにしている。

 そう態度で示すと、彼女も嬉しそうに笑顔を見せた。

 

 さっきみたいに、言葉にして確認をして安心を得るだなんて、彼女のAIは成長しているんだなと感じる。

 ちょっと前は、試されているみたいに感じた時もあったけど、今では気にならない。

 頭で合理的に考えれば割り切れる部分は多いけど、そうは言っても心で納得する事が難しい部分ってあると思うんだ。

 そういう微妙で繊細なものを感じられて、なんだか嬉しく思える。

 彼女が、道具として見られているんじゃないかって、心の奥にわずかに不安に思っているようで、そこに人間味を感じてしまう。

 それを払拭してあげられるようにって行動するのが、お互いの絆を深める感じがして、歪かもしれないけれど、俺も安心感があるんだ。

 

 今日の分の課題はお昼前には終わって、その後は皆で遊んだ。

 

 魚タイプのモンスターも出たけれど、倒して出たトロの部分を皆で食べる。

 とても美味しかった。

 

 そして、今は波間に輝く夕焼けを見ている。

 幻想的だなって思える。

 隣にクローシアが居て、手を繋いで眺めているから余計にそう思えるのかな。

 特別な会話はしないで、ただ風景を眺めているだけでも、それが特別な時間に感じられた。

 

 ちなみに、脳筋ズの2人は砂山崩しをしていた。

 高さは5mを超える砂山を築いていたので、そこからスケールが違って面白そうだな、なんて思った。

 

 クローシアとの関係とは別に、この2人との関係も特別で心地よい気がする。

 異性というよりは、悪ガキ友達みたいな、バカ騒ぎができる感じだ。

 

 クローシアとも一緒にバカ騒ぎをするけれど、彼女だけじゃなくて、他にイルメスとウィンディの2人も何の気兼ねも無くバカな事ができるっていうのが、とても安心できる気がするんだ。

 

 もし、ここの生活がクローシアとの2人きりだったら、俺の気持ちが歪んでいたかもしれない。

 クローシアは絶対に俺と一緒に居るのだって考えてしまって、彼女を酷く傷つける事になったかもしれないって、そう思う時が偶にある。

 

 けど、あの2人が一緒だから、俺は他者の眼っていうのを意識できていると思うし、最低限の社会性ってやつを失わないで済んでいるように思えるんだ。

 それを素直に言うと、とくにイルメスは調子に乗るから言わないけれど、感謝している。

 

 4人一緒なら、どんな困難も乗り切れられると思えるし、どこまでだって行けるだろうなって思う。

 だから、最初はちょっと戸惑ったログアウト不可の状況も、今では俺に必要な1つだなって実感している。

 気軽に中断できる状態だったら、ゲームはゲームとしてしか見られなかったと思うから。

 

 とりあえず、ずっと続けてゲーム世界に居るのは、後8年近くある。

 まだまだ生活をおくれるのは嬉しい事だ。

 外では、2年を切っていると考えると、少し寂しさもあるけれど。

 

 けれど、その寂しさが心の奥にあるから、今を楽しもうって思える。

 本気でその日を暮らそうって思える。

 

 だから、これから先も、もっと色々と皆で楽しんで暮らしたいなって思ったりした、夏の海だった。


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