迷子のケット・シー
※家を建て、安全地帯を増やしまくった俺達は、他の土地へと旅にでた。
その先での出来事。
▽▼▽
「ねえ、イソカ。罠は外されてしまいましたね」
クローシアが俺に声をかける。
俺達は今、幻獣を捕獲しようとしている所だ。
「だったら、真っすぐ飛び込んで行ってぶん殴りましょう。簡単で良いわ」
「魔法で吹き飛ばすのはどうでありますか?」
「却下だよ。討伐じゃ無くて捕獲だって何度も言っただろ!」
「3人とも静かにしてください。逃げられちゃいます」
脳筋メンバー2人に乗せられて、つい大きな声を出してしまった。
俺達4人が捕獲しようとしているのは、猫型の幻獣。黒い毛並みに白い胸。2足歩行をする猫。ケット・シーだ。
捕獲用の罠から餌を器用に外し、美味しそうにムシャムシャ齧っている。
因みに、餌の方に薬等を仕込んでも無駄らしい。察知して食べないのだとか。
「やっぱり『捕獲用罠キット』とか市販品はダメだな」
「そうですね。別の方法を取らないといけませんね」
ケット・シーは、丁寧にも罠に砂をかけて無効化していた。トイレの処理をする猫の習性みたいだ。
「ケット・シーは喋れるのでありますよね? だったら話せば分かるのでは?」
「そうなのね。良し!」
「『良し!』じゃねぇよ。肉体言語で語り掛けようとすんな」
「何よ。否定ばかりしないで、良い案の1つも言ってごらんなさいな」
うむ、確かに意見を却下するなら対案を出さなければダメだね。正規の方法が失敗したなら、オリジナルな方法だ。
俺は、こんな事もあろうかと以前から用意していた、猫ちぐらの様な物を取り出す。かまくらを草で作った感じの形で、猫の興味を惹く『猫ホイホイ』だ。
ただ、この猫ホイホイを持っているからと言って、無造作に近寄ってはいけない。猫には猫の間合いがある。現実世界での飼い猫との付き合いで、俺はそれを学んだ。
この世界はゲームの仮想世界だけれど、妙に現実的な部分が多い。猫の習性だってリアリティに溢れていると思うんだ。
そっぽを向きながら俺は、ゆっくりとケット・シーに近づく。見つめてはいけない。猫とヤンキーは目を見合ったら喧嘩の合図なのだから。
ある程度近づくと、猫の耳があっちこっちへ忙しなく動いた。気づかれたし、警戒されている。
次の段階だ。俺はハトの鳴き真似の様に声を発する。
「クルックルルル~。クルックルルル~。クルル~、クルル~」
仲間たちが残念な人を見る目になっているが、待って欲しい。このハト真似をすると、何故か猫と仲良くなれる。現実世界で何度も実証済みだ。
ケット・シーは耳をピンと立ててこちらへ向けてきた。興味深々みたいだね。
「にゃっ、にゃっ! にゃっ、にゃっ!」
短い声で挨拶をしてきてくれた。これは期待がもてそうだ。
暫く立ち止まってチラ見しつつ、ハト真似を繰り返す。すると、ケット・シーから近寄ってきた。尻尾はゆっくりと大きく左右に振っている。好奇心を刺激されている様子だ。
「お兄さんのソレ、良さそうでにゃんすね」
喋った! って、ケット・シーだから当たり前なのか。猫ホイホイを見ながら語り掛けてきた。
俺はゆっくりと猫ホイホイを地面に置く。
「ああ、良い物だぞ。そこはかとなく、包まれる感じがする」
「そこはかとにゃく……。ニャンが試しても良いでにゃんす?」
「ああ、昼寝しても良いぞ」
「昼寝まで!? それじゃあ、失礼するでにゃんす」
ケット・シーはもぞもぞと身体を動かし、猫ホイホイへと入ってゆく。
「包まれる心地よさでにゃんす~。極楽だにゃ~」
はい、確保。
「やりましたね、イソカ」
「意外と簡単だったな」
「そうね、それなら躾けるのは私に任せなさいな」
「魔女の! 魔女の使い魔には猫が必要でありますよ!」
脳筋ズは今回役に立ってないんだから、ちょっと落ち着け。
さて、目標の幻獣を捕獲できたので、帰るとしようか。
「イソカ! 敵性反応です!」
「何処からだ?」
「西から、数は1!」
クローシアの注意に警戒を高めていると、熊が現れた。
デカい。説明不要に大きく、体長は10mを超しそうだ。
「イソカ! これは私にやらせなさいな!」
「私も加勢するでありますよ」
「そう? なら、アレで行くわ」
「はい! 了解であります」
アレとは何か?
ウィンディが、杖を持って回転をし始めた。ジャイアントスイングのように、ブンブンと振り回している。
その様子を見て、イルメスは助走をとるためなのか、歩幅を数えて距離をとる。
「風よ、その細やかなそよぎよ。届かない声を諦めないで。風がそよがなければ悲しい歌も響かない――」
ウィンディの謎ポエムが始まった。これは、そうとうに気合を入れて魔法|(物理)を放つつもりだ。
回っているのに、声が振るえていないとか、かなり強い声帯だろう。
「ほら、小さな歌が集まるなら、貴女の心も飛び立てる。恐れないで、その空を――トルネードバースト!!!」
ウィンディは掛け声とともに、杖を大きくアッパースイングをする。すると、竜巻が発生して巨大熊にぶつかった。
巨大熊は、ぶわっと持ち上がり、手足をばたつかせてもがくも、体勢を維持できずグルグルと回って更に上空へと持ち上げらえる。
このタイミングで、イルメスが駆けだした。音を置き去りにする勢いで、距離を詰め、上空の熊を目掛けてジャンプする。
回転する巨大熊の背中に乗り、その後頭部をがっしりと掴んだ。すると、その場所がパキリと凍る。
やがて回転の威力が弱まると、ゆったり巨体も落ちてくる。
それに合わせて、イルメスは巨大熊の腹部に回り、顎を突き上げるようにのど輪攻撃をした。
そして、巨大熊は後頭部から地面へと落下する。バコンと硬くて大きい物が割れる音がした。
巨大熊は、ぐるんと大きく目を剥いて、息絶える。
「ざっとこんなものね」
「やりましたね!」
イルメスとウィンディはハイタッチで喜んでいた。
「に゛ゃー! で、デストロイドベアーが……。ニャンを食べないで欲しいでにゃんす……」
猫ホイホイの中で、ケット・シーは更に丸くなって怯えていた。
だが、それも束の間で、俺が巨大熊の解体を済ませると、興味津々で寄って来る。
「お兄さん、胆はありにゃすか? ニャンは熊の胆を探しているのでにゃんす」
「あるぞ。欲しいのか?」
「そうにゃす。何でもするから、譲ってほしいでにゃんす!」
「それじゃあ、俺と一緒に来てもらおうか」
有無を言わさず、俺達はケット・シーを街へと連行した。
「猫ちゃん!」
「マリーちゃん!」
今回のケット・シー捕獲の依頼主の元に届ける為にだ。
街の大工の娘のマリーちゃん6歳から、仲良くしている猫を探して欲しいという依頼だった。その猫がケット・シーだ。
報酬は、ドングリ3つ。
とてもしょっぱい報酬だけど、これで木を充実される事ができるのだ。俺にとっては価値ある報酬だ。
「猫ちゃん、心配したよ! 居なくならないでよ、バカバカ!」
「マリーちゃん許してにゃ。ニャンは熊の胆を探して来たんでにゃんす」
ケット・シーとマリーちゃんは抱き合って再開を喜んでいる。
「猫ちゃんのほうが大事なの!」
「でも、これでマリーちゃんのお父さんの薬が作れるのにゃす」
「ほんとうに? お父さんの病気が治るの?」
「そうにゃす。あと、黄金カボチャの輝き種があると、材料がそろうんでにゃんす。
けど、それのある場所が問題でにゃんす……」
そう言って、ケット・シーは俺の事をチラチラと見てきた。
とても露骨なアピールだ。
けど、乗りかかった舟だから、そっちも探してやるか、仕方が無い。
訊くと、この地を治める子爵の荘園の中にあるそうだ。
「イソカ、顔がにやけてますよ」
「そうか? 仏頂面な気がするけどな」
「次はカボチャね。割り甲斐があるわ」
「魔法の馬車なんかどうでしょうか?」
「ちょっと、2人とも、貴族さんを相手にしたら、また面倒になりますよ」
「平気ね」
「大丈夫であります」
「よし、乗り込んでみるか」
「もう、イソカまで。また街を追い出されても知りませんから」
やれやれと言った表情だが、クローシアは先頭に立って歩き始めた。
俺達の感性に毒されてきたかな?
そんな感じで、俺達の冒険は続く。




