45 泥んこで土壁つくり
良い朝だ。空気が澄み渡っている。
今日から本格的な拠点の拡張が始まるぞ。気合いが漲るね。
朝食をとりながら、今日の予定を皆で話す。
イルメスにはスライム討伐を頼んだ。スライム革が欲しいから、綺麗に核を抜き取って倒してもらう。
クロ―シアとウィンディにはロープを沢山作ってもらう。壁の補強に使いたいからだ。
そして俺は壁作り。早速取り掛かる。
まず、壁の素材を土壁にする事にした。
角材をみっしり打ち付けてグレードアップさせれば板壁になるだろう。けれど、それだと冬が寒いんじゃないかって思ったからだ。
その点、土壁なら断熱効果が高いから心配ないだろう。それと、土壁からグレードアップさせると、もっと丈夫な家になりそうだからね。
まずは素材集め。
土壁の骨組みは竹で行う事にした。古い日本家屋で見られたタイプだ。地震大国で昔から用いられてきたのだから、頑強性とか柔軟性とかが高いんじゃないかな。
竹は周囲に生えていないけれど大丈夫。上級植樹で幾らでも生やせる。スキルで選べる中に『黒檀竹』というのがあったから、それを生やす事にした。きっと黒檀の固さと竹のしなやかさを両立した素敵竹に違いない。
スキルを発動すると、ポンと竹の子が生える。昨夜はキノコを生やしたから、無用な争いが起こらない様に注意しなければ。キノコと竹の子の生息域は慎重に選ばなければならないのだ。
竹の子に実績Pを使って一気に成長させる。これは杉と同じく1Pで済んだ。
下の方の節へ斧を振るう。カキンと金属の様な高い音がした。5~6度打ち付けると、黒檀竹は切れ倒れる。枝を払うと、笹も枝も消えてしまった。この辺は杉と同じ様だ。
次は縦に裂く様に斧を入れた。黒檀竹はパカンと小気味良い音を鳴らして綺麗に割れた。それらを細かく割ってゆく。丁度良い幅にまでしたら、その具合を確かめてみた。
グイグイと曲げても強かな”しなり”を覚える。それでいて、ちょっとやそっとじゃ折れない安心感もあった。良い竹だね。
この黒檀竹を伐採すると、実績は1P得られたので、パワーロギングを進めて行く。
午前中は集中して100本を超える黒檀竹が手に入った。今の所はこれだけで良いかな。
お昼の時間になったら、丁度イルメスが帰ってきた。なので、みんなでご飯にする。
「スライムは32匹か。あんまり発生してなかったんだな」
「もっと居ると思うけど、隠れて出てこないのよ。臆病なモンスターはこれだからダメね」
「ああ、そっか。今まではクロ―シアの索敵のおかげで、根こそぎ狩れてたからな」
「それなら、午後は私も行きますか?」
「いや、いいよ。とりあえずはこれだけ有れば充分だから。イルメスもお疲れ。有難うな」
「ええ、おやすい御用だわ。だから、もっと気軽に感謝なさいな」
「へいへい。超感謝してるよ」
午後からイルメスには穴掘りの作業をしてもらう事にした。土の確保だ。
膝丈位の穴を掘ってもらい、それで出た土を解して柔らかくしてもらう。穴掘りというより、耕している感じに近いかも。スコップが無いので角材でガリガリとやってもらった。
クロ―シアとウィンディは引き続きロープを綯うってもらって、俺は壁作りを進めてゆく。
午前に用意して割った黒檀竹を格子状に組んでゆく。それを1階の外側と内側の両方から張り付ける。この時、綯うってもらったロープで括り付けた。そうすれば、後で土の食い付きが良さそうだって思ったからだ。難しい事は分かんないから、イメージと気分で作業する。
1階の4面に竹を張っていって、出入口のスペースだけ開ける。今日の作業はここまで。
次の日、土を塗る作業に移る。
イルメスにスライムの革水筒で泉から水を汲んできてもらい、昨日の穴にだばぁと流し入れてもらう。そして、皆で土をこねて泥にした。裸足になって踏み踏みして土と水を馴染ませる。
「むふ~。足の指の間がムニムニしますね! 変な感じで面白いです!」
褐色ロリエルフであるクローソアが泥んこになっている。何て尊いんだ。白いワンピースに泥が跳ねているけれど、それは明日には自動的に綺麗になるから問題無い。むしろ、もっと汚すと良い。
「うりゃ!」
「きゃっ! イソカ酷いです! お返しです!」
泥の掛け合いをしたりして、土を捏ねてゆく。
ロープにしていない蔦を細かくして混ぜ、土の繋ぎなんかにもする。
「蔦が足をくすぐるわね。面白い感触だわ」
「子供の頃にこんな遊びをしましたが、仕事でするなんて思いもよりませんでした。楽しいでありますね」
イルメスは女神服が汚れるのなんて全然気にしないで豪快に泥を撥ねている。ぐいぐい足踏みをする度に、バインバインと大きな物がゆっさゆっさしていて、凄かった。
ウィンディはローブの裾をたくし上げて縛っている。見えそうで見えない、絶妙な高さだ。初めて見る彼女の太ももは白くて眩しかった。まるで葡萄を潰すワイン娘みたいに泥を捏ねていた。
水と蔦がしっかりと馴染み、泥が出来たら壁に塗ってゆく。皆でペタペタと竹格子へ乗せる感じで塗り付けた。
因みに、これ位の作業ならイルメスも物を壊さずにできると分かる。彼女には土木作業の女神としてこれからも頑張ってもらおう。
4人で壁を塗っていったから、午前中に1階部分は終わった。皆でやると早くて良いね。
出入口の横には、皆で手形を押した。些細な事なんだけれど、自分達で作っているんだって気がして愛着が深くなる気がする。
お昼まではまだ時間があるから、さてどうするか。きりの良い所までは進めたいかな。2階部分の壁となると、足場を組まないと作業ができない。
ちょっと悩んだけれど、問題はあっさり解決した。改修の作業台を使えば、2階部分も1階と同じ様な土壁に拡張できたのだ。無い物は作れないけれど、有る物はどんどん増やせる。
皆との手作業が楽しくて、ちょっと失念していた。省ける作業は極力省略して効率的にだ。
ただ、面倒くさい事をするのも面白かったりするから、その辺もその時の気分でやってゆこう。
昨日までの拠点は、大きい東屋だった。けれど、壁ができると、ぐっと家らしくなる。
「どんどん立派になりますね」
「ああ、もう少しで家って言えるよな」
「そうですね。それで、窓は付けないんですか? 中が真っ暗です」
……忘れていた。改修の作業台を操作して、窓を作る。ガラスは当然無いので、穴が開いただけだ。後で跳ね上げの蓋か鎧戸なんかを付けてみよう。
でも、明り取りにはそのままでも充分と言える。
窓を開けた所でお昼の食事にする。
午後はどうしようかな。今、家に必要なのは扉と窓枠位かな。後はベッドとちょっとした物を仕舞う棚があれば良い。
この辺を作ってゆこうかなとも思うけど、全身が泥まみれ過ぎるのが気になり始めた。乾いてきて、カピカピもするし。……洗いに行くか。
「なあ、皆。泥汚れが凄いからさ、午後は泉に行って服を洗わないか?」
「私は良いですよ。天気が良いし気持ち良さそうですよね」
「泉の女神たる私の本領発揮ね」
「はい。私もそれで構わないであります」
意見が纏まったので、泉へ向かう事に。
到着したら、俺は装備をスパっと脱いでじゃぶじゃぶ水洗いを始める。クロ―シアもワンピースを脱いで、パンツとキャミソールの姿だ。
イルメスに至っては、全裸になっている。彼女は下着をつけていないからね。脱ぐと裸になっちゃうね。仕方が無い。
そしてウィンディは――
「み、皆さん、堂々とし過ぎであります!」
ローブを脱ぐのを躊躇していた。
「どうしたウィンディ? 早く洗っちゃおうぜ」
「これは洗濯する為ですから、おかしい行為では無いですよ」
「あら、ウィンディ。前に溺れたから水が怖いのかしら? 何だったら女神式泳法を教えてあげるわよ」
「水は怖くないのでありますが……。その、ここで脱ぐというのは……」
ウィンディはローブの裾を掴んでモジモジしている。彼女は赤茶の髪を肩より少し上で切り揃えた清楚な雰囲気のある美少女だ。そんな娘がモジモジすると、何となく心の奥でエロい気分が沸き上がってしまう。
「恥ずかしいと思うから、恥ずかしいんだぞ?」
「この辺りには敵性反応もありませんし、大丈夫ですよ」
「ほらほら、ちゃっちゃと洗わないと夜まで乾かないじゃない」
「……うぅ、そうなのでありますが……。仕方がありません。では……」
俺達3人が脱いで当然の雰囲気を出しているから、ウィンディも渋々それに流された。彼女も分かってくれた様だ。良かった。
黒いローブの下はまた、黒い下着だった。見た目が清楚な美少女が黒下着とか、ドキドキするね。でも、ジロジロ見てたら下心がバレるのでチラ見だけに留めた。
皆で服を洗っていたら思いついたけれど、いずれは露天風呂を作るのも良いかもしれない。皆で入ると気持ち良さそうだ。その時は混浴は文化だと言い張ってやるんだ。
服が洗い終たら、硬く絞ってそのまま着る。暑い季節だから、ヒンヤリして気持ち良い。そのまま自然に乾いてゆくだろう。
拠点に戻っても15時を過ぎた位かな。俺は、窓枠と出入り口の扉を作る事にした。
窓の穴に嵌る様に角材を切って簡単に取り付ける。それを改修の作業台で改善させれば、立派な窓枠になった。
次に角材を板状にした物を2つ用意し、丁番で窓枠につける。丁番は交易ボックスによく並ぶから、あらかじめ入手していた。これらをまた改善させれば、立派な鎧戸になった。開け閉めがスムーズだし、開けたままでも固定ができる。完璧だ。
窓枠と鎧戸が1か所できれば、他の窓穴にも同じように増築できる。なので全ての窓へ取り付けた。
窓が終われば、今度は扉だ。こちらは鎧戸を作る要領で進めた。大きさの違いはあっても、基本は同じなので難なく出来上がる。そして改善させれば、丈夫な扉となった。緑魔法陣内は仲間しか入れないから、鍵は無くても大丈夫だね。
「……今までは殆ど野宿同然だったのに、壁と窓や扉がついだけでも、一気に文化的になりましたね」
「そうだな。俺たちの営みが進んで行くって感じだな」
「はい。明日もまた1歩進めるかと思うと楽しみですね」
俺とクロ―シアは並んで寝袋にくるまりながら、こんな会話をしたりする。
壁と窓・扉が出来た。次は家具だ。どんどん作るぞ!