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43 狼の来襲


「じゃあ、皆。復興の後の発展を目指して頑張ってくれよ」


 早朝。俺たちは拠点に戻る事にした。


「はい、御使い様の神樹に恥じぬ様、精進いたしますじゃ」

「御使い様に祈りを!」

「「「「御使い様に祈りを!」」」」


 見送りの皆は一斉にひざま付いて俺を拝む。もう、それ要らないから。


「皆さん、心細くて頼るよすがが欲しかったんでしょうね」

「頼られる程度ならまあ良いけど、御使い扱いはなぁ……」

「うふふ。それだけイソカが頼りになるって事ですよ」

「まあ、皆は一時の熱に浮かれてるだけかもしれないし、そのうち覚めるだろ」

「あら、何なら私の『熱手・陰』で冷ましてあげるわよ?」


 いや、待て待て。アレを喰らったら村人が死んじゃうよ。

 これ以上ここでグダグダしていても時間が過ぎるだけだな。もう、強引に仕切っちゃおう。


「はいはい、皆顔を上げて。立ち上がって。別れの挨拶くらいさせてくれよ。あと御使い扱いも禁止な」


 村人たちを立たせて声をかける。


「ファルゴ。森の再生も頑張れよ」

「ああ。御つ……いや、イソカさん。任せてくれ。次に会う時は辺り一面が大森林だ」

「おう。楽しみだな。ベルジ。色々と頑張れよ」

「たはは。昨日の見られてたっすか。はい、ガンバルっす」

「うん、結婚式には呼んでくれ。ウィンディ。あんたの覚悟がここまでの結果になったんだ。良かったな」

「はい。それもこれも、イソカ殿と皆さんのおかげであります。ありがとうございます。私、皆さんとお会いできて……。……私……」


 ウィンディは笑顔から次第に曇り、顔を俯かせる。ローブを握りしめその手は震えていた。何かを言おうとしているけれど、言葉が出ない様子だ。


 村長が近寄り彼女の背をポンポンと叩く。そして優しく頷いた。他の村人達も、言葉には出さず、暖かく優しい視線でウィンディを見守っている。


 その気持ちが届いたのか、彼女は顔を上げると、俺へと真っすぐな視線を送る。


「……私も、皆さんと一緒にいさせてください! 仲間にして欲しいであります!」


 強く彼女は言った。俺を見る目には涙も浮かんでいる。こういう願望を伝えるって勇気がいるよな。断られたらどうしようって、怖いもの。その勇気には恥をかかせちゃいけないね。

 ウィンディは良い子だと思う。村の為に命をかけられる程だし、自分のできる事を何とか成そうと行動にうつせる。明るく元気っていうのも美点だね。ちょっと変な所があるけれど。いや、かなり変か。

 って、『イソカと愉快な仲間たち』なら変人でも問題無いか。俺も大概だと思うしね。


 クロ―シアとイルメスに視線を送る。2人とも頷いてくれた。村長を見る。深々とお辞儀をされた。うん、決定だ。


「よし! これから宜しくな!」

「はい! ありごとうございます」

「イソカ殿。ワシからもお礼を言わせてくだされ。有難うございますじゃ。何かと至らない娘じゃが、是非とも鍛えてやってくだされ。ウィンディ。イソカ殿の足手まといにはならない様に、励むんじゃぞ」

「ええ、誠心誠意、精進するであります!」


 こうして村人たちに見送られて、俺達は拠点への帰途についた。



 ▽▼▽



 ビレスト村に行っていたのは10日間。長い様で短い時間だ。けれど、その密度はかなり濃かったな。新しいスキルも習得したし、様々なアイテムも手に入ったし。仲間も増えたしね。イベントログとかは表示されないけれど、これはクエスト成功って言えるだろう。


 帰りはイルメスが丸太で樹木をなぎ倒しながら進んだ。お馴染みの森林破壊だ。というのも、来る時に目印に倒した木がリポップしてしまったから、どうせなら道を開こうと思ったからだ。

 この後もビレスト村へと行く機会はあるだろう。だったら、行き来がしやすい様にした方が良い。イルメスの取りこぼしをウィンディは魔法で、俺はP消費の消去でカバーしつつ、進んで行った。


 道作りは樹木を倒すだけだから、歩くスピードとあまり遜色なく進んだ。夕方頃には拠点近くの泉に到着する。もう少しだ。

 拠点に戻ったら何から始めようかな。ワクワクする。家作りは必ずとして、家具も欲しいよな。村の集会所にはベッドが無かったから、あると便利だろうって痛感した。スライム革を集めて小物を作るのも良いし、新しい素材を探しに行くのも良いかな。期待に胸が膨らむね。


「イソカ。良い気分の所みたいですけれど、悪い知らせです」

「敵性反応か?」

「はい。拠点の周りに多数居ます。少なくとも50は居ますね。動きが活発で敵対生物を表す光点が盛んに重なるので数が読めません。最大で56確認できました」


 動きが活発って事はスライムじゃ無いな。どんな敵なんだろうか。動きが早く、数が多いとなると、雑魚でも厄介だ。

 拠点へあと150mって所で全容が見えた。敵対生物は狼。その大きな群れが拠点周りでウロウロしている。


「あれはプレーリーウルフですね。それにしては群れが大きいです」

「プレーリーって草原だよな。って事は東側の方から来たのか」

「恐らくそうでしょう。単体ではあまり強くありませんが、連携が厄介です」

「どうするのイソカ? 私はドカンと突っ込んでバカンと殴るのが良いと思うの」

「私は遠距離からの魔法で殲滅が良いと思うであります!」


 それぞれの方向性が違っても脳筋な2人からの案が出る。さて、どうしようか。やたらと突っ込んだら囲まれて大怪我をしそうだし、遠距離からでもすぐに迫られてしまうだろう。

 ちょっと悩んだけれど、どちらの案も取る事にした。こういうのは偏るのがいけないんだと思う。皆に段取りを説明して戦闘へと突入する事にした。


「それじゃ、まずは2人で道を開いてくれ」

「ええ、ゆくわよ――熱手・陰!」

「はい、宜しくてであります! 風よ、風精よ。紺碧の園を取り巻く存在は月の眷属。導いて。その先が私の進むべき道であるのなら――ウインドカッター!」


 2人の合成魔法が狼の群れへと迫る。極低温の軋みが辺りに響き、10匹以上の動きを止めた。

 ここからは電撃戦だ。イルメスが先頭、次が俺。ウィンディが続き殿はクロ―シア。この並びで一気に拠点まで駆ける。

 拠点には安全地帯の魔法陣がある。そこまで到達すれば、焦らず群れへと対処できる。


 プレーリーウルフ達は、突然の冷気に驚き混乱している。こちらに気が付いている固体は居ない。

 イルメスがダッシュで突撃し、進路上の狼へ体当たりをして弾き飛ばす。その取り残しを俺が斧で切りつけ進む。ウィンディは魔法を使うのに足が止まるから、ここは走るのに集中してもらう。クロ―シアには、鞭での牽制を頼んだ。


 ひと息で駆け抜けた俺たちは、無事に魔法陣内へと転がり込んだ。


「クロ―シア。どれだけやった?」

「えっと、20は減りました」

「おっけ。それじゃ次も手はず通りに。イルメス、頼んだ」

「任せなさいな!」


 折角安全地帯へと入った所だけれど、彼女には再び外へ出てもらう。

 数頭集まった所へ突貫し、それらを蹴散らす。個別で強くないなら各個撃破すれば良い。

 そしてすぐにまた戻ってもらう。すると何頭ものプレーリーウルフがイルメスを追いかけてきた。

 こちらに滑り込んで来るイルメス。それに牙を立てようと飛びかかるプレーリーウルフ達。

 無数の牙には、ウィンディの魔法が炸裂した。イルメスを追いかけていたプレーリーウルフは直線的な並びになっていた為、ウインドカッターの爆風をもろにくらう。

 連携がやっかいなら、そうさせなければ良い。

 ばらけた固体へは俺が斧を投げ、クロ―シアの鞭が炸裂する。


 このアタックを繰り返して群れをじわりじわりと削ってゆく。残りは10程度。あと少し。勝利が見えてきた頃合いで――


――ウォーオォオオオォーーーン!!!


 鼓膜を破るんじゃないかって遠吠えが響いた。これを聞き、プレーリーウルフが一斉にこの場から離れた。距離をとってこちらの様子を伺っている。


「さっきの遠吠えは、群れのボスか?」

「恐らくそうでしょう。プレーリーウルフは本来なら数頭の群れしか作りません。それなのに、こんなに大規模な群れになるなんて、余程強大なボスがいるはずです」

「あら、それじゃ、どっちが格上か躾けてあげる時間ね」

「はい! 魔法で吹き飛ばしてやるのであります!」


 皆の気合いは充分。油断は無い。


「反応、大きいです。来ました!」


 黄昏時に光る、闇を見通す瞳。その狼は異様な大きさだった。足から頭までの高さで2mはある。牙の鋭さはダガーを並べた様だ。爪は引き裂きナイフの様に尖り、それだけで獲物の腹をさばくだろう。


――ウゥォーオォオォォオオォーーーン!!!


 こちらを睨みつけ、遠吠えを上げる。


「イルメスは頭! 俺は後ろ脚に行く。 動きが止まったらクロ―シアとウィンディで追撃だ」


 仲間に指示し飛び出す。巨大狼は俺を標的と定め、飛びかかってきた。

 身を低く屈んで地を転がる。巨大狼の牙は空を切った。


 ドコンッ!


 そこへイルメスの強烈な右ストレートが炸裂する。巨大狼は顎を砕かれたのか、舌をだらしなく吐き出した。


 ザシュッ!


 起き上がりながらの勢いで、後ろ脚の付け根を切りつける。鋼の斧は切れ味充分に血の花を咲かせた。骨を砕く手ごたえもある。


 ドバァン!


 クロ―シアの戦鞭が巨大狼の肩を抉る。前後の足を痛めつけられ、巨大狼は地に倒れる。


 バシュゥッ!


 ウィンディのウインドカッターが胴体を破裂させた。これが止めとなり、巨大狼は動かなくなった。


 ボスが破れると、プレーリーウルフ達は散り散りに逃げ出した。


「敵性反応が消えました。私達の勝利です!」

「よっし! 完封だな。皆おつかれ!」

「はい! 連携が上手くはまりましたね!」

「女神にかかったら、楽なものよ」

「凄いであります! 爽快であります!」


 拠点に帰っていきなり戦闘とか予想外だった。けれど、クロ―シアが言う様に、連携が非常にうまくハマったね。





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