42 神樹の御使い
村の建物は全て修繕された。
そして俺達はやり残した最後の作業をする。イルメスとウィンディの合成魔法で樹を切りやすくし、伐採しまくる。木こりチーム3人それぞれの目標である残り千本は、午前中で無理なく達成した。
「よし、これで『伝説植樹』を習得できるぞ! 夢の世界樹栽培だ!」
「やりましたね! イソカはこれでエルフの王様にだってなれますよ!」
「はは。クロ―シアの恋人ってだけで充分な称号だぞ」
軽口を叩いたら、クロ―シアが頬を染めてポコポコ叩いてきた。次第に耳まで真っ赤になって可愛い。
「かぁーっ。見せつけてくれるぜ。俺も昔を思い出すよ」
「ほんとっすね。俺も恋人欲しいっすよ」
「何だよベルジ。ジョディはどうしたんだ?」
「いや、ファルゴさん。それがねジョディのヤツ『半人前は一昨日きやがれ』とか言うんすよ」
「そうなのか。だったら『一人前木こり』の実績も達成したんだ。胸張って押したら良いじゃねぇか」
「あ、そうっすね! 俺、アタックするっす!」
ベルジは意中の女性がいるけれど、今まで相手にされなかったらしい。今回の火災で大火傷を負う程頑張ったし、実績の方も獲得したのだから、きっと大丈夫だろう。がんばれベルジ!
村へ戻ると盛大な宴会になった。誰の顔も晴れ晴れとしている。それもそうだ。絶望的な状況から再スタートを切れるようになったんだ。これから新しいビレスト村が始まる。
男達は早いピッチで『ほわほわ水』を飲み干している。空の瓶がゴロゴロしていた。昼間っからあのペースだと、夜には皆潰れているかもしれない。折角集会所が綺麗に修繕されたのに、また朝まで野宿になるぞ。
女達もにぎやかに食事をしている。美味しいパンがそれこそ山の様にあるから、色んな組み合わせで味を楽しんでいた。
驚いたと言うかやはりと言うか、NPCは料理を知らない。今有る物にひと手間加える事すらしなかったらしい。
彼らにとって食糧とは交易ボックスで交換する物なのだ。村の民家にはキッチンがあったけれど、誰も使った事が無いとの事。飾りみたいな物って認識だった。
1階にコンビニがあるマンションに住んでいる人は料理をしなくなるって話しを聞いた事がある。便利な交易ボックスがあれば、やっぱり料理は必要ないんだろう。
この世界で料理を披露したらどんな反応があるのかな? なんて想像していたら、村長に呼ばれて皆の前へ出る。何だって言うんだ?
「イソカ殿。この度は多大なご尽力を賜り誠に有難う存じますじゃ。失われるはずじゃった作業台も、改修の作業台として再び使える様になりました。これでビレスト村は新たな一歩を踏み出せますじゃ。その感謝のしるしとして、こちらをお納めくだされ」
村長は5つある改修の作業台の、その内の4つを俺に差し出してきた。
「ありがとう。でも4つは多いよ。2つで充分だよ」
「いやいや、元々は消失するはずだった物。村には1台あれば事足りますじゃ」
「それこそ俺は4つも要らないから。だったら、予備として保管しておいてよ。今度こそ分散して保存したり、すぐ持ち出せる様にしたりしてさ。俺が2つ、村が3つ。これは決定ね。これ以上グダグダ言ったらダメだから」
くれるというならは有り難く頂戴するけれど、貰い過ぎは良くない。俺の方は常時使用と保管の2つで充分なんだから。
「わかりました。それではほんの細やかじゃが、せめて食料と斧もお納めくだされ」
「うん、わかった。有り難く頂くよ。皆もありがとう!」
「何言ってんだ。助けてもらってばかりなんだから、これくらいさせてくれ」
「ほんと、イソカさんは村の救世主だよ」
村人達から、歓声と拍手をもらった。
この食料と斧は皆がサンダルを作って確保してくれた分だ。村長は細やかって言ったけど、それは謙遜でどちらも大量にあった。美味しいパンはイルメスが食べる分を考えても1ヶ月以上賄えそうだし、鋼の斧が100本以上ある。
これだけゆとりがあれば、拠点に戻ったら生産に力を入れられる。やったぜ!
お礼の贈呈式が終わると、また皆で歌ったり踊ったりと賑やかになる。
あ、ベルジか同じ年位の女の人と踊っている。意中の女性と上手くいっている様だ。良かった。
「イソカも踊らないんですか?」
「クロ―シアと一緒なら。踊ってくれるかい?」
「はい、喜んで」
彼女の手を取り、皆の輪に入る。踊るステップは簡単な物だ。右右、左左とステップしてゆっくりターン。その繰り返し。左右のステップの度に、クロ―シアの長い耳がひょこひょこ動く。耳でリズムを取っているみたいだ。そしてターンになると、黒くて美しい髪と真っ白なワンピースが翻る。モノクロームの花が咲いた様になった。
イルメスは村の子供達に囲まれて賑やかにしている。怪力に物を言わせて5m位の『高い高い』をしていた。俺ならちびりそうな勢いだけれど、子供達はキャッキャと喜んでいる。開拓民は子供でもタフだな。
「イソカ殿。また何か芸を見せてはもらえませんか?」
「う~ん、あんまりネタとか無いからなぁ。そうだ! 芸っていうか、スキルの披露で良いか?」
「はい、宜しくお願いいたします! スキルも私達村人にとっては目を見張るものでありますから!」
俺はファルゴとベルジも呼んで、3人でスキルを披露する事にする。彼らが午前中に獲得した植樹系スキルだ。
「よし、それじゃあ、タイミングを合わせてゆこう」
「おう! まかせてくれ」
「俺もやるっすよ!」
植樹する地点を見定めて集中する。ぐぐぐ~っと気合いを入れれば、光が発生して苗木が生えた。
って、俺のは5秒程度で生えたけれど、2人がまだだ。もう15秒くらい経ってから、同時に苗木が生える。
「ふぅ。けっこうしんどいな。これを何万本もするなんて、やっぱりイソカさんはすげぇな」
「そうっすね。俺なんて精神削られるって感じっす。イソカさんはハンパないっすよ!」
「へへん! 俺は若いからね」
冗談めかして言ったら、2人に頭をわしゃわしゃとされてもみくちゃになった。彼らとは短いながらも濃密な時間を過ごせたと思う。
俺達3人の植えたのは杉だ。この3本杉が村の名物になったら良いな。
そうか、名物の樹か。……どうせなら、もっと派手にやった方が良いよな。
目論見の規模がどれだけになるか分からなから、クロ―シアに確認してみる。そうしたら最低でも500m位は距離をとった方が良いとの事だった。
なので、場所を移動する。村の皆も着いてきてくれた。まあ、見逃したら後悔するって言ったからなんだけれど。
場所は村の北側の焼け野原にする。まだ植樹を全然していないエリアだ。
目標地点を決めて、気合いを入れる。杉や他の樹は直ぐに生えたが、こいつはまだまだ集中が必要だ。
精神力がどんどんと消費されてゆく。ゆっくりと地面が光り、そこから天に向けて光の柱が上る。空は曇り、夕焼けだった明かりが一気に暗くなる。
光の柱と雲が交わる時、落雷に似た轟音が響き、光が爆発した!
空は一気に晴れ渡り、光の柱が降りてくる。そしてその場所には大木が立っていた。
世界樹の苗木だ。
高さは既に30mはある。杉の成木よりも更に高い。世界樹の苗木は夕日を浴びて、全体が仄かに光を発していた。暖かみのある優しい光だ。
「こ、これは……。神樹じゃ。奇跡じゃ!」
「ああ、神の奇跡だ」
「なんてこったい、こんちくしょう! 生きてて良かったよ」
「……はぁ。……言葉が出ないわ」
村の皆は驚き佇んでいる。特に村長は半分魂が抜けている感じだ。まあ、そうなるのも仕方が無い。世界樹はそんじょそこらの木とは訳が違うからね。
クロ―シアの話しでは、成長すると枝を広げた幅で1km以上、高さも500mは超えるとの事だ。環境次第ではどこまでも成長するという。
そんなに大きくなったら、周りが影になっちゃうかと思ったけれど、心配は無い。世界樹は日の光を取り込み優しく拡散する力がある。だから、その下にあっても植物はすくすく育つ。むしろ環境が良くて、より逞しく成長するみたいだ。
「い、イソカ殿は神樹の御使いじゃったんじゃ!」
感極まった村長の発言に、村の皆がハッとした表情をする。
「そうだったのか! だから村の為にこんなに良くしてくれたのか!」
「皆の衆、何をしておる! 御使い様に祈りを捧げるんじゃ!」
「御使い様に祈りを!」
「「「「御使い様に祈りを!」」」」
や、止めて! 喜んでもらえるのはうれしいけれど、神の使いとか大げさ過ぎだから! 村長も五体投地とかやり過ぎだから!
って、村長が動いてない! 白目剥いてるし! 死? これで死ぬとか無しだろ!?
慌てて心臓マッサージをしつつ、癒し手の気合いを入れまくった。もう、肋骨や胸骨が折れてでも心臓を動かすんだって勢いで押しまくった。
その甲斐あって、村長は何とか息を吹き返す。あやうく、祝いの席がそのまま葬式になる所だったよ。
村長を蘇らせた事で、やっぱり神の使いだと騒がれたて、もう収集がつかなくなった。
俺は皆を宥めるのを諦めたよ。こんな時だから、頑なに拒絶して水を差すのも悪いしね。折角のお祭り騒ぎなんだから、担ぐ神輿が欲しいんだろうと思う。こんな事を呟いたら、ファルゴとベルジが角材を井形に組んで即席の神輿を作りやがった。
もう、こうなったらとことんまで悪ノリしてやろう。皆は俺が乗る神輿を担いで、世界樹の周りをわっしょいわっしょい練り歩く。こんな騒ぎで、夜は更けていった。




