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38 復興を加速させる為に


「よし、それじゃあイルメスは全力で辺りの木を全てなぎ倒してくれ」

「え!? 私が木を倒したら、後で生えてこないのよね? だったら場所を調整しないと、後で村が困るんじゃないかしら?」

「それは大丈夫だ。ちゃんと対策をとれる。作戦は『ガンガンいこうぜ!』だ」

「わかったわ。任せなさいな」


 気合いを入れて、イルメスは丸太をブンブンと振り回し始めた。ドコッドコッメキメキーッ! と早速1本倒す。それをファルゴが薪にする間に、もう1本なぎ倒した。こちらは、もう1人の木こりであるベルジが薪にする。

 ペース的には、イルメスが2本の杉を倒す間に、2人がそれぞれ薪にし終える感じなので、丁度良い。俺の方も、対策の為に木を伐採する。


 1時間半程度作業をすると、準備は整った。

 俺は実績の画面からスキルを取得する。選んだスキルは『初級植樹』。先日伐採総数が1万本を超えた事によって解放された植樹系のスキルだ。

 このスキルがあれば、精神力を消費して杉の苗を植えられる。これで原っぱだろうが、焼け野原だろうが、ガンガン樹木を増やせるって訳だ。因みに、必要ポイントが1千Pだったので、朝の段階では足りていなかった。


 それじゃあ、早速このスキルを使ってみよう。

 苗木を生やしたい場所を見定めて、ぐぐぐ~っと気合いを入れる。5秒ほどそうしたら、目標地点がふわぁ~っと光って苗木がそこに植えられていた。

 やったね! 成功だ。精神力の消費も思った程多くない。これなら、自然に回復する量で間に合うだろう。ガンガン植樹もしてやるんだぜ!


 とは言え、無計画に植樹をするのは良くない。せっかくだから、植樹しつつ防火帯も作ってゆきたい。なのでクロ―シアに声をかけて説明する。


「凄いです、イソカ! もう植樹スキルを解放していたんですね!」

「ああ、先日の防火帯を作っている最中に条件を達成してたみたいだ」

「どちらかというと、このスキルは『やり込み要素』なんですけどね。……実は、このスキルはその先に隠し要素もあるんですよ」

「え!? マジ? それってどんな物なの?」

「それは、その時のお楽しみです! 今のイソカなら、そのうち絶対に条件を満たしますよ」


 可愛い顔でウインクされながらそう言われたら、その時を楽しみに待つしかないね。

 クロ―シアには現在位置の把握をしてもらいながら、防火帯として開けておく部分への目印として薪を置いてもらう事にした。


 その後は適宜休憩を挟みながら、森林破壊をしつつも植樹をして大量の薪を獲得した。杉4千本・薪2万束を得る頃には夕暮れに差し掛かったので、村へと戻る。

 夕食を軽く取り一息ついたら、ファルゴとベルジを村の外れへと呼び出した。


「イソカさん、何だって言うんだい?」

「俺、昼間に何かヘマでもしたっすかね?」

「いや、そうじゃ無いよ。ちょっと2人に確認したい事があるんだ」


 村の木こり2人は伐採系のスキルを獲得していない。それは、そもそも解放条件の伐採数100本を超えていないのか? はたまたいつぞやのイルメスみたくインターフェイスを理解していなくて実績の画面を操作していないのか? それが気になったのだ。

 まずは2人にインターフェイスについて説明する。


「うぉっ! 何だ? 目の前に何か文字が出たぞ!?」

「何すかコレ! マジヤバいんじゃないっすか?」


 どうやらインターフェイス自体を知らなかった様だ。画面の操作を説明して、伐採数を確認してもらう。


「……俺は1825とあるな」

「あ、俺もそんな感じっすね。1813っす」


 うむ。俺がこの世界で生活して凡そ1か月だ。そして、この2人の木こりは真面目に仕事をしていれば、1日で60本程度の伐採スピードだと思う。となると、実績の加算は俺がゲームを始めてから計測されたって事だね。


 実績がわかったので、スキルの方も取得してもらう事にした。今は何は無くとも伐採スピードなので、初心者の伐採術(100P)と中級者の伐採術(500P)を習得してもらう。これで従来よりも1.5倍の速さで伐採ができる。これは倒木を薪にするのにも適応されるから、明日以降の作業もより速くなるだろう。


「これで今までより速く伐採ができるって事か……。今すぐ試してみたいな」

「そうっすね! これはマジ凄くてヤバいっすよ!」

「うん、良い返事だ。心置きなく伐採してくれ」


 俺はそう言って植樹を2か所行う。そして、苗木に対してリポップする様にPを消費した。すると、苗木は一瞬で成木へと変わる。日中に試してできた応用技だ。


「こうやってPを消費すると一気に樹木を生やせるから、ドンドン切ってドンドン生やそう」

「「お、おう」」

「虎の子の『鋼の斧』も貸してやるから、更にスピードアップだ。取りあえず、1万本を目標に、毎日残業しような」

「「お、おう! やってやらぁ!(っす!)」」


 そういう訳で、2人の木こりも植樹系スキルが解放する実績を得られる様に、ひたすら伐採してもらう事にした。パワーレベリングならぬ、パワーロギングって所だろうか。

 因みに、鋼の斧は200本伐採できる耐久度があって、スキル未収得でも4時間に100本伐採できる切れ味だ。となると今の2人なら4時間で150程伐採できる筈。減った耐久度は泉の箱でリセットできるし、4時間程度なら残業にも丁度良いだろう。

 何だか自棄気味に斧を振るう2人を背に、俺は集会所へと向かった。



 ▽▼▽



 集会所の中では沢山の蔦が山の様になっていた。村人の皆は張り切って採取してくれた様だ。そうなると、俺もそれに応えないとね。

 まずは俺とクロ―シアが実演する手本を見て覚えてもらう。そして、その後は10程のグループに別れて、互いに確認し合いながら作業を進めてもらった。分からない部分がでたら、その都度俺とクロ―シアが教えてあげる。


 初めてのサンダル作りで、誰もがまごついた手つきだ。けれど、復興の為に役立つ作業でもあるから、真剣に取り組んでいた。

 1つ目は形が歪な物にしかならなかった。試しにに交易ボックスへと入れてみると、薪数束分の値段しかつかない物が殆どだった。

 けれど、2つ目はかなりしっかりとした作りになり、3つ目は売り物としても申し分ないクオリティだった。実際に、殆どのサンダルに20束の値段がついていた。


「……これは。この様な手段で交易ができるとは……。夢にも思いませなんだ」


 村長は感極まったのか、目元にうっすらと涙を浮かべている。それもそうだろう。皆が一丸となって取り組めば、生活用品の為に薪を消費しないで済む。むしろ、ゆとりを得られる程の高効率だ。

 しかも丁寧に作られた物なら、子供の手によるものでもきちんと値段がつく。年齢も性別も関係ない。

 この事実には、村人皆の顔が綻んでいた。餓える心配が無い。それだけでも、心理的な負担は軽くなるだろうからね。


「イソカ殿、イソカ殿! やっぱりイソカ殿は素晴らしい高位魔法使いであります! 製作物に魔法をかけるなど、想像にも及びませんでした」


 尻尾を振る犬っぽい勢いでウィンディが熱い視線を送ってくる。製作物に魔法をかけるとは、癒し手の効果の事だ。今思えば、最近はサンダルを作っていなかった。癒し手を習得してからは初めてだ。そうして出来たのが――


『癒し手によるサンダル』

 癒し手の効果により多少の擦り傷はたちどころに治ってしまうサンダル。悪路に強く捻挫も数分で治る。未踏の地を行く冒険者にお勧め。値段200束。


とても良い物が出来ていた。値段もクローシアが妖精の洗礼をかけたサンダルと同じだ。お揃いで嬉しいね。

 そう思ったんだけれど、クロ―シアがむくれてしまった。


「良いですね、イソカは。そうやって作った物には何でも直ぐに癒し手の効果がつくんですから。私なんて……」

「待て、クロ―シア。2人で出来る良い事を思いついたんだ。ここでそれ以上言うのはいけない」

「あら、何よ。私だって女神の洗礼をかけられるの――(もごもご)」


 俺は慌ててイルメスの口をふさぐ。腹ペコ女神の力自慢サンダルは呪いのアイテムだ。洗礼じゃない! いや、隠したいのはそれじゃなくて、洗礼のかけ方の方だ。

 今のタイミングで尿をかけた物が1晩経つと新たな効果を得られる可能性があるって知ったら、皆はチャレンジしてしまうだろう。

 そして、大概はゴミになる。極まれに変化があったとしても、値段を吊り上げるのも目的にした行為はきっと碌な効果を生み出さない。


 更に言うと、村人達が作ったサンダル全てにクロ―シアが洗礼をかけるとしたら、きっと彼女の精神が持たないと思うんだ。俺の為にはこっそりとやってくれるけれど、好きこのんでやりたいとまでは思っていない。

 けれど、村の復興の手助けになるのなら、無理をしてでもやってしまうだろう。クロ―シアはけっこう効率重視な所もあるから。


 自分がガマンすれば上手くゆく。そういう風に思って欲しくないし、させたくない。そうなったら、手助けの域も超えてしまうしね。

 俺が奔放に生きるのなら、クロ―シアにだってそうして欲しい。だから、今のタイミングでは妖精の洗礼はダメだ。


 強引に話を打ち切るべく、木こりの2人の様子を観に行くと言って、クロ―シアとイルメスを連れ出した。



 ▽▼▽



「なあ、イルメス。ここじゃ洗礼の事は秘密にしておいてくれよ」

「何でよ。洗礼は選ばれし者だけが可能な奇跡よ。誇って良い事だわ」

「だからだよ。俺が試したらゴミになっただろ? 選ばれし者じゃない普通の村人も、きっと出来るのはゴミだ。せっかく作ったサンダルがゴミになったら、皆がっかりするだろ? だから、秘密にするんだ」

「……そうね、確かに無駄を出すのは良くないわ。私が軽率だったみたいね」

「うん、分かってくれたら良いよ」


 こういったラインではイルメスも聞き分けが良い。この辺が、なんやかんや言っても彼女の憎めない点だね。


「それでクロ―シア。ちょっと思いついて試したい事があるんだけどさ」

「はい、何でしょう」

「癒し手によるサンダルに妖精の洗礼をかけたら、どうなるんだろうな? きっと凄い効果があらわれるんじゃないか?」

「っ! それは期待が持てますね! 是非試してみましょう」


「私もよ! 癒し手に私の洗礼をかけたら、常識を覆す効果が出るに違いないわ!」

「わかったよ。ちゃんとイルメスの分も用意するよ」

「どんな変化があるんでしょうね! わくわくですね!」


 後日、村人達にバレない様にこっそりと試した結果は――


『妖精の洗礼を受けし癒し手によるサンダル』

 クロ―シアのお小水がかかった癒し手によるサンダル。従来の物よりも更にスタミナの低下を抑え、少量ながら常時体力を回復させる。街と街を急ぎ走る伝令にお勧め。値段千束。


 効果が重複しても残っているし更に能力も上がった。値段も大幅に上がっている。こうなると、耐久性の低い蔦で作るのは勿体ない気もしてきた。なので、火の粉除けに持ってきたスライム革のポンチョを潰して、サンダルを作って洗礼をかけてみたその結果は――


『幸せの黄色いサンダル・スライム革』

 スライムの革で作られた、妖精の洗礼を受けし癒し手によるサンダル。従来のスタミナ低下抑制・常時体力回復効果はそのままに、耐久性が大幅に向上した。また、素材の弾力性の高さから足音を消す効果もあり、より有利に狩りへ挑める。値段2千束。


 もっと良い物になった。これはクロ―シアに装備してもらう事にしよう。


「やっぱりな。俺とクロ―シアは相性が良いんだよ」

「えへへ~。そうですね。しかも、私のお小水の事は書かれていません。これなら恥ずかしく無いですよ」

「色んな効果が重なると、テキストも色々と変化するんだろうね。これからも、一緒に色んな物を作ろうな」

「はい! 2人の共同作業で沢山作りましょう!」


 2人で喜びのハイタッチをする。彼女の笑顔を見ると労働の意欲が湧いて元気が出るね。

 一方で、イルメスと試した方はというと――


『力もりもり女神の癒されるサンダル』

 パンを食べれば元気10倍。力も速さも10倍に。癒し手の効果で体力が回復するので、怪我を気にせず死ぬまで動き続ける。強制労働にお勧め。値段60束。


 お手軽価格でえげつない物が出来た。これはもう、犯罪者を鉱山とかで働かせる為にある様な物だ。きっと、死ぬまで動き続けるっていうのは、脱がないと止まれないて事なんだと思う。

 自分の意思で使うなら、まあ問題無いかもしれない。けれど、まがり間違って誰かが騙されて装備させられるなんて事になったら目覚めが悪すぎる。これは世に出したらダメだと思うんだ。


「イルメス。これはもう、ダメだ」

「何よ! この前の腹ペコ効果は無くなったじゃない。餓死しないんなら大丈夫でしょ?」

「いや、倫理的にアレだ」

「労働は人間の義務でしょ? 問題ないはずよ!」

「強制って部分が問題なんだよ!」


 イルメスはごねた。折角出来た物を、そう毎回捨てるなと。仕方が無いので、今回は捨てずに保管する事で納得させた。きっと死蔵する事になるんだろうな。


 今回の事で、良い素材を使い効果が重なると製作物の値段は跳ね上がるのが分かった。復興が1段落ついて拠点に戻ったら、スライム革を大量確保する事にしよう。





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